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魂
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kurara
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いやこれ、めっちゃいい話の積み方してるわ…!最初のスタジオの賑やかな雰囲気がすごく温かくて、元貴への気持ちを受け入れた若井の「隣でギター弾ければそれでいい」って決意にグッときた。そこからの、元貴が“静かすぎる”違和感、ダメ出しが薄い違和感、録り直しの翌日でいつもの元貴に戻ったホッと感…からの、無視?みたいなあのラストのズレ。もう全部が丁寧でさ。“元貴が元貴じゃない”って気付ける若井の視点、愛だわこれ。続きどうなるんだろう、すごい気になる🔥
「ん、最近若井、いー顔してる!」
急に明るく満足そうな顔をした涼ちゃんの声が響いた。
涼ちゃんはそのまま、俺の隣のソファにぼすん!と勢いをつけて座った。
涼ちゃんと2人でロケに行き、そのまま少し元貴より早めにスタジオに入っていた。
「ん??てことは何か進展があったの?」
「なにが、なにがよ」
「んーーーーでも若井はヘタレかぁ…」
「なぁに話してんの」
「あ、元貴!」
いつの間にか元貴も着いたようで、キャップを取りながら涼ちゃんの肩に腕を回してじゃれている。
「今日のはめっちゃ大変なんだから、ちゃんと弾きなさいねあなた達!」
「はーいわかってるよぉ〜、わ、やめて元貴っ!くすぐったい!」
元貴にくすぐられて涼ちゃんは身を捩って逃げる。
悪い顔をした楽しげな元貴の魔の手がこちらにも向かって来て、俺もくすぐりの刑に処されて、転がって喚いた。
元貴は床に伏した俺を見てケラケラと大笑いして満足そうに目を細める。
そんな元貴や涼ちゃんとの時間が本当に温かくて、幸せだった。
あの日以来元貴への好意を理解して受け入れてから、俺はなんだか自分の認められない一部を愛せたような、そんな感覚になった。
かと言って、俺は元貴を困らせたくないし、ミセスを壊したくない。
勿論、抱きしめたくて、一緒に寝たくて、劣情を抱いてしまうことはあるが、それ以上に、大好きな元貴のそばでギターが弾ければ俺はそれだけで良い、と、そう思った。
今までよりもずっと素直な気持ちで、元貴の隣でギターを弾ける喜びを噛み締められる気がした。
大好きな元貴が作った譜面を、俺がミセスとして弾けることが。
隣に並んでそばにいられることが。
笑顔を向けてくれることが。
いまはそれだけでいいかな、と思えた。
「よっし、録っていきますか」
「はーい!」
「はいっ!」
いつのまにかすっかりかっこいい顔をした俺の神様を見て、みんなで返事をした。
それから月日は相変わらず目まぐるしく流れていった。
忙しすぎて気がついたらとんでもない衣装を着ることが決まっていたり、なんてそんなことはあったが、まぁとにかく、順風満帆というのがしっくりくるくらい、ミセスグリーンアップルはどんどん活躍の場を広げていった。
怒涛の日々で、テレビに出たり、祭典に出たり、ラジオに出たり、たまにのロケ、レコーディング、JAM landの撮影、MVの撮影、雑誌の撮影、CMの撮影、化粧品のイベント、いやもう忙しすぎて忘れ始めてるかもしれないが、とにかく引っ張りだこで、でも、楽しく過ごしていた。
元貴と涼ちゃんがいたから。
そして今日は久しぶりのレコーディングだ。
「いやぁ昨日の夜キノコのスープ作ろうとして火かけたまま寝落ちちゃって、焦げ臭すぎて死んだかと思ったんだよね」
「やば、こわっ、やめてよ、ほんと気をつけて…怖いよー」
「次作る時はレンチンかなぁ…って、そーいや元貴が今ボーカルレコ中だよね、ちょっと長い?いつもより」
「んーまぁ、確かに?」
ギターの音の調整をしながら涼ちゃんと雑談をしているまま、目線だけをガラスの奥の元貴にやる。
誰もいない部屋の中、元貴は一生懸命歌っていた。その顔は少し苦しそうにも見えた。
「んー、、なんだろ、この曲リズムちょっと独特だからかな」
「ん、、」
でも元貴の声は変わらず本当に綺麗で、とんでもなく感情のこもったその歌は凄まじく、非の打ち所がなかった。
気のせいかな、と涼ちゃんは独りごちると、キーボードの練習に戻っていた。
レコーディングはそのまま着々と進んでいった。
…否、着々と、進みすぎていた。
なんというか、違和感があった。
勿論悪くないのだが、涼ちゃんの演奏もドラムもベースもデモの通りだし、俺も練習したわけだけど、なんだか、一言で言えば”元貴が静かすぎた”のだ。
元貴のダメ出し、つまり、もっとこうしろ、曲のこのエッセンスを感じてくれ、という哲学が、あまり語られていないのだ。
いつもなら、「スネアの余韻切って」とか「サビ入った瞬間だけピックアップ変えて」とか「もっとここは青のイメージで…」とか、そういう元貴の音への執着に溢れているのだが。
なんというか、その執着がないみたいに。
「….元貴、これは?」
ギターのフレーズを弾いてみせると、少し元貴は黙ってから、「うん、いいと思う」と答えた。
じわっと胸の中に何か嫌なものが広がった。
何故だろう、元貴に褒められて嬉しいはずなのに、元貴が元貴じゃない気がした。
翌日の朝、元貴からの業務連絡を見てスマホを落とした。
『昨日録ったレコーディング音源を改めて聴いたのですが、もう一回どうしても録らせてほしいです』
今までレコーディングの録り直しを翌日にする、なんてなかったし、ミセス以外のメンバーを集める日程調整とかも考慮すると、真面目な元貴の割に無茶なことを言うなぁ、と思った。
まぁ一方で無茶であろうがなんだろうが曲のためには最善を尽くすその姿勢は元貴らしい。
結局調整は案外スムーズにいき、2日連続のレコーディングとなり、再度同じ曲を録ると、昨日と打って変わってダメ出しの嵐だった。
ああじゃない、こうじゃない、分かってない、と、次々くるダメ出しに満身創痍の涼ちゃんを横目に、俺はホッとしていた。
よかった、いつもの元貴だ。
昨日より明らかに良くなった音源を聴いて、その才能に改めて感動した。
「いやぁ、元貴、やっぱすごいね。昨日の完成の時はこれもいいなぁと思ったんだけど、今日のやつきくと全然違うね」
コードを片付けながら声だけで元貴に話しかける。
しかし返事はない。
目線を上げると元貴も何やら書類をまとめて片付けをしていて、背中をこちらに向けている。
「? 元貴?」
集中したような顔をしてるようには見えるが、でもやってる作業は散らばった書類をまとめてるだけにすぎなかった。
元貴と俺の距離はせいぜい2mあるかないかだ。
無視されているのか?
「ねえ、もときー?」
後ろから抱きつくと、元貴の肩がびっくりするくらい跳ね上がって、こちらまでびっくりした。
「っくりしたぁッ…!ちょ、なになにごめん」
「え、いや、ごめん、話しかけてて…聞こえてなかった?」
「あー、え、話しかけてた?…ごめん、ぼーっとしてた」
少し引き攣った顔をした元貴はそのまま床に落としてしまった書類を再度拾うと、何故かそのまま話の中身を聞く前にスタジオを出てしまった。
「….普通、なんて言ってたのーってなりそうなもんじゃない?」
一連の流れを見ていた涼ちゃんが不思議そうにぼやいた。