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【 名前を呼んで 】
「ねえ蒼井、僕のこと名前で呼んでくれないかな」
「はい?なんですか急に」
「いいから」
「えー……?…源会長?」
「上の名前じゃなくて下の名前で。」
「輝会長」
「ちがうよ、んもーっ! 」
……何が違うというのだろうか。ちゃんと下の名前で呼んだじゃないか。というか、そもそもなんでこいつ名前で呼んで欲しいんだ?
「会長じゃなんか……遠いじゃん、距離がさあ。」
「はあ?じゃあ……輝先輩」
「大して変わってないよ」
「……輝さん」
「ちがう!」
うるさいなこいつ、割と最善の呼び方だろ。納得行かなくても甘んじて受け入れてくれ頼むから。さっきから会長が僕の膝を枕にして寝転んでるのもおかしいし。重いわ馬鹿野郎、転がして落としてやりたい。
「そうじゃなくてさ、ほら、同い年の子に呼ぶ呼び方あるでしょ…??!」
「源」
「名前!!だってば!!」
「なんなんですかさっきから、なんて呼んで欲しいのかちゃんと話してくださいよ。名前を呼んで欲しいなんてのも意味が分からないし……」
会長は更に体を丸めて、僕の腰に手を回し手抱きついてくるから本当に重たい。こちとら身体は小学一年生なのだから、成人男性なんて受け止められる訳ないだろ。呪詛のようなものをぶつぶつぶつぶつ呟いてるし。怖いって。
「……もっとさあ、あるじゃん」
「なにがですか」
「……その、……ちに、言うような、ほら、ね?」
「ち?なんて?」
「……と、友達に言うような呼び方を、して欲しいな、って……」
友達。友達?なぜ突然。
よく分からない発言をした当の本人は耳を赤くしたまま僕のお腹に顔を埋めてしまった。
あー、そうか。コイツ学校では高嶺の花的な立ち位置だったし、遊んだこととかないとか言ってたし、友達がいなかったから憧れてるのか。……前に聞いた爆弾発言を含めると、中々違う意味が含まれてそうだけど……考えるのは辞めよう。
「……はあ…一回だけですよ。……輝くん」
会長はバッと僕のお腹から顔を離して呆けた顔をして、それから心底嬉しそうな顔をした。本当に、ぱあっ、という擬音がこれほど似合う顔はもうこの先出会うことはないだろうってくらい。
「じゃあっ、じゃあさっ、今日1日はそうやって呼んでくれない??」
「えー……嫌ですよ。1回だけって言いましたよね」
「お願い、今日1日だけだから…」
「嫌です」
「……そっかあ……」
今度は明らかにしょんぼりしだした。くそっ、めんどくさい奴め。
「じゃあ、せめてもう一回だけ呼んでよ。それならいいでしょ?」
「まあそれなら……ん?…その手に持ってるものなんですか」
「スマホだけど」
「ですよね。なんで今取り出してるんですか?そしてこっち向けるな」
「……まあまあ、ほら早く呼んでよ」
「絶っっ対撮ってますよね!?スマホしまえ、そしたら呼んであげますから!!」
「え〜…わかったよ…」
会長はしぶしぶスマホをしまって、いかにも楽しみ!といった顔をしてこっちを向いた。ここまで期待されると逆に呼びずらいな。そんな大層なものでもなかろうに。
「……輝くん。はい、これで満足ですか?」
「!!ありがと蒼井!」
「はいはい、どーいたしまして。……ん?ちょっと待ってください。…そういえばアンタ、録画止めてませんでしたよね」
「うん、そうだね」
「は、はぁぁああ??!ばっ、おま、消せ!!!なんで止めてからしまわないんだよ!!」
「えー、だって”録画を止めろ”なんて言ってなかったでしょ。消さないよ、後で聞き返すんだから」
「盗撮とかほんと最低ですよ!?」
「しーらない」
「〜〜〜〜〜〜っ、このクソ会長!!」