TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

       五

 

 ヴァルサは以後も優勢だったが、前半は一対一のまま終わった。

 水分補給を済ませて、神白たちはゴドイ監督の話を聞いた。興奮した風なゴドイは同点シーンのカウンター攻撃を称賛し、後半も同じメンバーで行くと告げた。

 ジムナスティコのキックオフで後半が始まった。ゆっくりとボールは回され、トップ下の10番に渡る。ヴァルサ6番が距離を開けて相対する。

 神白のすぐ前には、アリウムとビジャルがいた。ビジャルがマークを引き剥がすべく、細かなステップを見せる。アリウムは機敏な動作で従いていく。

 ビジャルが唐突に引いていく。わずかに遅れてアリウムも追随する。

 10番はビジャルにパスした。ビジャルは足の裏で止めた。アリウム、後ろからがつがつとビジャルに当たって揺さぶる。

 しばらくキープし、ビジャルは4番に落とした。4番はダイレクトでキック。アリウムが上がってできた空間を速いボールが切り裂く。

 7番が反応した。インサイド(足の内側)で止めて、勢いそのままにドリブルで駆け上がる。

 ヴァルサ6番が寄せていく。しかし7番は、遠めの位置から撃った。高弾道のシュートが神白の守るゴールへと飛来する。

(ドライブシュート!)見切った神白は、バックステップで退く。やや前掛かりになっていたが、充分にカバーできる位置だった。

 シュートが近づいた。神白、真上に跳躍。包み込むようにボールを捉えると、すたりと着地した。

(そのぐらいは想定内だよ)冷静な心理状態の神白は、コート中を見回した。ヴァルサの前線は皆マークされ、速攻は無理そうな様子だった。

 神白は左の3番にスローした。3番はトラップし、顔を上げた。依然として、敵陣に綻びは見受けられない。

 3番は神白に戻した。神白はちらりと右を見た。蹴り真似を入れてから、足裏で転がし方向転換。やや手薄な中央のアリウムにパスを出す。

 アリウム、足の外側でボール迎えに行った。いつも通りのヴァルサの様子見のパス交換だった。しかし不測の事態が生じる。

 アリウムはトラップした。しかし、(……っ。敵に晒し過ぎだ!)神白は焦った。アリウムのふれたボールは、やや後ろに逸れていた。プレーにムラのあるアリウムの、明白なコントロールミスだった。

 刹那、ビジャルが加速。足指の付け根でボールを蹴り出し、ドリブルを始める。

 だがアリウムの対処も早い。ぐんっとスピードを上げて、身体をぶつけつつビジャルを追い掛ける。

 二人がペナルティーエリアまで来た。ビジャルはシュートモーションに入った。アリウムはすかさず右足を伸ばし、シュートの進路を遮る。

 撃っても入らないと判断したのか、ビジャルはスイングを止めた。すぐさまボールを後ろに引く。

 ビジャルは直立姿勢になった。一瞬の硬直の後に、こつん。踵で真後ろに出した。

 背後の10番が助走を取った。「レオン!」神白が叫ぶと、10番の斜め後ろからレオンが滑り込んだ。

(シュートは消した!)神白は確信する。

 だが10番は撃たなかった。ミートの瞬間に振りを止めてパスを送る。

 ボールが守備ラインの裏にふわりと飛んだ。バックスピンのかかったパスを、ビジャルが追う。

 アリウムはビジャルに並走。決して振り切られてはいなかった。

 ノーバウンドでビジャルは肩に当てた。真上に浮いたボールを、今度はオットセイのように頭で突く。

(来る!)スーパーシュートの予感に、神白は全身に力を込めた。

 ヘディングされたボールは、ややゴールから離れる方向に上がった。ビジャルはくるりと身体を反転。ゴールに背を向けると、円を描いて後ろに倒れ込んでいく。

 直前まで頭のあった位置へと右足を振った。綺麗に捉えられたボールは、超速でゴールへと飛んでくる。

 オーバーヘッドキック。トッププロの試合においてもめったに見られない、趙高等技術だった。

 神白は跳躍。パーにした左手になんとか当てた。直後に背後で、カンッ! ゴールの縁に当たった音がした。

 受け身を取った神白は、全力で立ち上がった。キャッチすべく駆け出すが、すぐに勢いを止める。

 ボールはコート外に出ていた。クロスバーの後ろの部分に当たったようだった。

(コントロールの難しい肩で頭上に上げて。頭でさらに上げつつ敵から離れた位置にボールをやって。そこからオーバーヘッドで枠に飛ばす? ……サーカスかよ。神業にも程があるだろ)

 神白は戦慄していた。どうにか今回はセーブできたが、もう一度同じプレーをされたらシャットアウトできる自信はなかった。

 

       六

 

 ビジャルがパスを受ける。場所はペナルティーエリアの左角。その前ではアリウムが油断なく半身の構えを取っている。

 右に持ち出した。シュートの流れに入る。アリウムが足を出す。ボールはそれを躱して、神白の守るゴールへと飛んで来る。

 神白は跳んだ。左手だけで触れると、わずかに軌道が変わった。すぐに金属音がして、地に落ちていく神白の視界に跳ね返ったボールが入ってくる。

 ヴァルサ4番が止めた。ゴールに背を向けた姿勢だった。後ろからは敵7番が迫る。

「クリアだ!」神白の大声を受けて、4番はすぐに右方に出して蹴った。ボールは二度バウンドして、タッチラインを割った。

 後半も残り二十五分ほどになった。オーバーヘッドキック以降、ビジャルは好プレーを連発していた。ジムナスティコの他のメンバーも大エースの好調に奮起し、ヴァルサは守備に奔走させられっぱなしだった。

 神白は焦燥を深めつつも、集中を持続させ守備を統率していた。めったにないスタメンの試合を敗北で終えたくはなかった。

 敵のスローインは4番が行う様子だった。ラインから五歩ほど離れた位置にいる。すぐにボールを頭上に掲げたまま走り込み、ステップを刻む。

 4番が放った。ボールはぐんっと伸びて、そこそこの勢いでゴールの手前まで来た。ジムナスティコの得点源の一つである、ロングスローだった。

 相手10番がボールに接近。マーカーの6番も追うが、妨害される前に頭で触れた。

 フリック(掠らせて後方へ送る技)によりボールは勢いを増し、軌道は斜め後ろに変わった。

「キーパー!」自分が行くと強く宣言し、神白は片足ジャンプした。

(取れる!)確信した神白は両手を掲げた。ボールは掌に収まった。だが、事件は起こった。

 敵の7番も跳躍していた。神白に競り勝ち、ヘディングシュートを決める意図だ。7番は横からぶつかってきた。不意を突かれた神白は、ぐらりと体勢を崩した。

 ゴンッ! 聞こえてはならない鈍い音が、自分の頭から聞こえた。

(ぐっ!)ハンマーで殴られたような激痛に、神白は呻いた。7番との衝突で弾かれて、神白は頭をゴールポストにぶつけたのだった。

「イツキ!」レオンの切羽詰まった声が聞こえた。すぐに複数人が駆け寄る足音がする。だが神白は動けない。頭痛は激しく、思考がまとまらない感じさせした。

(──痛い。頭が割れそうだ。でも立たないと。控えのキーパーは、いない)

 神白は何とか手を動かして、地面に突いた。身体を支えてしゃがみ姿勢になる。

「神白君! 大丈夫?」エレナの恐れるような声が耳に届いた。神白はゆらりと立ち上がった。五、六人のチームメイトが、不安げな面持ちで見つめてきていた。

「大丈夫だよ。ちょっと打っただけだ。あと二十分ぐらいなら持つさ」神白は努めて明るく言葉を発した。にこっと、わざとらしく笑みすら浮かべてみせる。

 神白の台詞を聞いても、チームメイトは心配そうな顔を崩さなかった。

「イツキ! 行けるのか? 無理はするな」ベンチのゴドイから、実直な声音の問いかけが来た。隣ではチーム・ドクターが立ち上がっている。

「問題ないです!」神白は声を張り上げた。するとヴァルサのメンバーは、ゆっくりと各々のポジションに戻り始めた。ほとんどの者が訝しげな表情ではあったが。

(金属に頭をぶつけたんだ。正直、今すぐ医者に診てもらいたいさ。けど、俺がいなくなったらこの試合は負ける。今まで支えてくれたみんなのためにも、ここで退くって選択肢はない!)

 絶え間ない痛みに苦しみながらも、神白は決意を固めていた。

最後列のファンタジスタ

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

0

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚