凛side
「⋯⋯⋯⋯、」
最悪だ。
クッキーを割って、おれのわがままで世一を困らせて、喧嘩して⋯⋯。
世一、もうおれのこと嫌いになっちゃったかもしれない。もうお見舞い来てくれないかもしれない。
「⋯⋯っ、ぅぅー⋯」
病室を出る前、世一が凄く悲しそうにしてた。おれが悲しませちゃった。
鼻の奥がツンと痛んで、ポロポロと涙が零れる。
「凛、起きてるか?⋯って」
「⋯ぁ、冴さん⋯」
「大丈夫か?また苦しいのか?」
「違、くて⋯」
そのまま、喉の奥の突っかかりを捨てたくて、全て冴さんに話してしまった。話してる時に、何度も詰まっちゃったし、鼻声で聞き取りにくかったと思うけれど、冴さんはキチンと最後まで聞いてくれる。
それが嬉しくて、顔をぐちゃぐちゃにして泣いた。
「よいち、おれのこと嫌いになったかもしれない⋯もう、仲直り出来ないかも⋯!」
「とりあえず顔拭け。せっかくの綺麗な顔が台無しだろ」
冴さんが手渡してくれたハンカチで涙を拭う。可愛いカモメが描かれているハンカチで、なんだか汚すのが申し訳ないから、鼻水は病院着で拭いた。服洗濯する人ごめんなさい。
「⋯仲直り出来ないってことは無い。俺も、数年くらい凛と喧嘩してたんだ。」
「数年!?」
思っていたよりも長い期間の喧嘩。今のおれの体は20代だから⋯喧嘩していた期間はかなりの割合を示す気がする。
おれの言葉に、冴さんは「嗚呼」と頷く。
「だけど、凛とは和解した。喧嘩する前と元通り⋯って訳にはいかないが、それなりに良い関係を築けていたと思う」
冴さんは続ける。
「喧嘩は、長引けば長引くほど厄介だ。早めに仲直りした方が良いと思うぞ」
そう言った冴さん。
喧嘩は長引けば長引くほど厄介⋯か。
「決めた!おれ、今から世一に会いに行く!」
「良いんじゃねぇの」
「あ、でもどこにいるか分かんない⋯」
「虱潰しに探すしか無いな」
「手伝ってやるよ」と冴さんが立ち上がった。
思わぬ協力者。感謝を述べて頭を下げる。私服に着替えて、靴を履く。前みたいに外に出ると苦しいことが起きるんじゃないかって思ったけれど、世一と仲直りできるなら、そんなの苦痛じゃない。
「よろしくお願いします、冴さん」
「⋯その、『冴さん』ってやつどうにかならねぇの?」
「⋯えっと?」
「『兄ちゃん』って呼べ」
あ、そっか。俺と冴さんって兄弟だったもんね。
少し恥ずかしかったけれど⋯「兄ちゃん」と口にする。
「あ、冴さ⋯じゃなくて、兄ちゃん今笑った?」
「別に」
もしかして、ずっと兄ちゃんって呼んで欲しかったのかな。もっと早く言ってあげれば良かったな。
そう思ってる内に、兄ちゃんに手を引かれた。
「行くぞ、凛」
「うん、!」