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雛百合隊の隊長である雛百合は居ても居なくてもかまわないそんな扱いを影でされていることを知っている子供だった。何をさせても可もなく不可もなく。期待以上の成果を出せない子だと評価されている子供だったのだ。そんな大人達に影響されるように子供達も雛百合を居ても居なくても問題の無いモノとして考えるようになっていったが、誰もそんなことを口に出すことはない日々を壊したのは何気ない幼い子供の一言だった。「この人が居ても居なくても良いい人?」物心ついたばかりの幼い子供をつれていた同級生が慌てたように子供の口を塞ぐが出てしまった言葉は取り消せない。「は?」雛百合が自分で思っていたより低い声が出たな。とまるで他人事のように思いながらもじっと幼い子供とその兄を見る。慌てたように言い分けを述べているがそれら全て雛百合にはどうでもよかった。面と向かって言われたのは初めてだが、そう言われていることは雛百合自身知っていたから受け入れられる。ということもなくショックは大きかった。その日から雛百合は輪にかけて何事にもやる気を無くしていった。何をやっても期待以上の成果は出せないなら頑張る意味が無い。どうせ無駄なんだ。そんな思いが雛百合の頭を占めていた。
居ても居なくても良い。その言葉が雛百合に重くのし掛かっていった。
数年後、同級生に誘われるままにボーダーに入り、B級隊員になったものの「居ても居なくても良いんでしょ?」薄ら笑いを浮かべながら雛百合は隊に入ることもなく人を信じられないままにソロ隊員としてフラフラとしていた。一緒に入った同級生はまだC級だったり、隊に入っていたりしていた。同級生のB級でソロなのは雛百合だけだった。隊に誘われたりもしたがそれでも雛百合は断って1人で居続けた。
そんなある日、人気の無い場所で苛立ちを隠しもせず歩いていると目の前でため息をつく男が1人。憂鬱な雰囲気でため息をつく男にイラついたとでも言えば良いのか、雛百合は何故か声をかける事にしたのだ。
「ねぇちょっと。なんでこんなところに居るのよ。」
「え?俺?」
「あんた以外誰がいんのよ?」
「ええ??なにもしてないのに俺が見えてる??なんで?」
「え!?見えてちゃダメなやつ!?!?死んでるの!?」
「え!?生きてるよ!?!?勝手に殺さないで!?いや、だからなんで俺を認識できてるの!?」
「廊下の真ん中に突っ立ってるんだよ!?わからない方が可笑しいからね!?」
「いや、お前がおかしいからな!?俺のサイドエフェクト的に!」
「サイド…………エフェクト……?」
「……サイドエフェクト知らないのか?」
「ちょっと詳しく。」
「………………まじかよ。」
なんで俺が。そう言いつつもその人はサイドエフェクトの説明をしてくれた。
簡単な話、トリオンがある程度ある人には人とは違うなにかが現れることがあるらしい。未来視なり聴覚強化なり、人によってそれは異なるらしいが、目の前の人は「ステルス」というもので、目立つ言動をしない限り視認される事がほとんど無い。というか、雛百合以外にはされてない。と言うのだ。
「なにそれ?新しいいじめ?」
「泣くぞ?」
「止めろ。」
雛百合には全くわからない感覚だった。だが、それと同時に思うこともある。
「よくわかんないギフトだね。」
「”贈り物”?……サイドエフェクトは”副作用”だぞ?」
「まぁなんでもいいよ。物は言いようってやつだね。」
「……ふーん?」
「そして、モノは使いようってやつだ。」
雛百合はニヤリと笑った。
「……えぇ??」
後に御影と名乗った彼はこの時「嫌な予感がしてました。」と語る。
人の多いところに戻ってきた二人は移動中に互いの自己紹介を済ませており、そのまま仲良くなっていた。出会いが出会いなだけに遠慮というものは持ち合わせていなかったともいう。人の多いところにつくなり雛百合の同級生が声をかけてくる。
「初めて見る人だけど隣の人は誰?雛百合、仲良さそうにしてるけど。」と。
その言葉を聞いて雛百合は御影を見る。「話が違うじゃないか。」と。しかし、御影はそれどころではない。
「あり得ない……なんで……?」
と震えた声を出していた。「御影?」さすがに様子がおかしいので雛百合は御影を心配するも
「雛百合ちょっときて!」
御影は雛百合を引き摺るようにして再び人気の無い場所へ。
「お前なにしたの!」
「いや、ナニモシテナイケド。」
御影の形相に思わず片言になる雛百合だったが、御影は気にすることはない。
「あんな大勢に俺が認識されるなんて普通あり得ない!何時もと違うのは隣に雛百合が居たことだけだ。…………雛百合もしかして何かサイドエフェクト持ってる?」
「いや、言われたこと無いし人と違うことなんてないからね。………………多分。」
最後は独り言なので聞こえてなくても問題なかったのだが御影は聞こえていたようで
「調べてもらおう。…………ハッキリさせたいし。」
「別に良いよ。面倒じゃん。」
「俺がハッキリさせたいから行くよ。」
「うっわ……強引。」
そう言いつつも雛百合はヘラヘラと笑う。それを見て御影は困ったように笑う。仕方ないなという風に。出会って直ぐだというのにお互いに気負うことの無いその関係を二人は口に出さずとも気に入っていた。
結果からいうと雛百合はサイドエフェクトを持っていた。
「サイドエフェクト無効化のサイドエフェクトってなに??」
「サイドエフェクト無効してるんだろ?だから俺も認識されてたのか。納得。」
「えぇ……?私納得してない。」
「別にそれほど気にすること無いよ。雛は雛だろ?」
いつの間にか愛称呼びになっているが雛百合は気にしなかった。
「………………そう……だね。仕方ないから御影がどこに居ても見つけてあげるよ。私ならそれが出来るもんね。」
“雛百合”はそのままで良いのだと言ってくれたような気がして嬉しかったのだ。その嬉しさからまるでツンデレのようになった言葉に
「………………ありがと。見付けて貰えるの待ってるから。約束ね。」
ふわりと笑みを浮かべて御影は答えた。
「あ、たりまえ……でしょ!御影には私が必要でしょう?」
「うん、その通りだ。」
御影がどれほど嬉しかったのかを雛百合は知らない。認識されない御影を必ず見つけると言ってくれたことの喜びは御影にしかわからない。今まで言葉にした人はいれども、実行できた人はいない。親でさえ。だからこそそれが出来るとわかる雛百合からのその言葉は御影にとって光となった。一方で、雛百合の方も御影の言葉は光となった。今まで居ても居なくても問題の無い存在として扱われることが多かった雛百合にとって御影の言葉は他の誰でもない”雛百合”自身を必要と言ってくれたも同然だったからだ。
この日、その二人が両依存状態になったが、それに気付くことはないまま日々が過ぎた。必要としてくれる存在ができた。居場所ができたことで雛百合は色々と楽しめるようになった。そしてそれは御影も同じ。二人はよく組んでイタズラを仕掛けるようになったし、ランク戦にも出るようになった。そして、程なくして
「チーム?」
「そ!私と御影で!」
雛百合は隊を組む事にした。御影を他にとられたくないという一種の独占欲。しかし、御影もそれは同じ。
「うん組もうか。」
即決で決まり、「言い出しっぺの法則な。」と言うことで雛百合が隊長になった。御影は危険がない限りは雛百合を止める予定はない(楽しい)し、雛百合も御影が離れない(のってくる)とわかっていて色々と相談というか提案をしに行くのだから案外似た者同士でお似合いなのかもしれない。と、割りと直ぐに気付いた二人はお互いの顔を見るだけで特に言葉にすることはなかった。
オペレーターが必要だとなったときも雛百合は暫くして同級生の風間をつれてきた。楽しければ良い。それが雛百合と御影の意思で、雛百合隊のモットーでもあった。そして、それはこれからも変わることはないのだろう。と雛百合は思う。