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ぱくちーですん🌿
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第6話:残酷な救済(前半)
沈みかけた夕日に照らされた教室で、凪は優弥の前に立っていた。
「……なあ、優弥。お前はメアリのことが好きなんだろ?」
優弥は凪の問いかけに不思議そうな表情を浮かべる。
「ん?どうしたんだよ、急に。そんなの聞かなくても分かるだろ」
「……いや、好きなら告白とかすればいいんじゃないかなって」
凪の声はわずかに震えていた。優弥は少し照れくさそうに笑い、窓の外へ視線を逃がす。
その横顔は、凪がよく知る「親友」そのものだった。
だが、メアリの言葉が耳の奥でリフレインする。――「彼自身の弱さを徹底的に突き詰めなさい」。
凪は奥歯を噛み締め、さらに一歩、踏み込んだ。
「……無理だよな。お前、いつもそうだもんな」
「え?」
優弥が怪訝そうに顔を戻す。凪は、自分の心臓をナイフで削るような思いで言葉を尖らせた。
「お前は結局、誰かに嫌われるのが怖いだけなんだよ。父親に嘘をつかれてるって疑いながら、直接聞く勇気もない。メアリにだって、振られて今の関係が壊れるのが怖くて逃げてるだけだ。……そうやって、一生、自分をごまかして生きていくのか?」
「凪……? 何を……」
「お前のその『良い奴』なところ、正直見ててイライラするんだよ。中身が空っぽなんだよ、お前は」
言い放った瞬間、凪の胃の底が冷たく冷え切った。
(何てことを言ってるんだ、俺は。優弥がどれだけ必死に周囲に気を遣ってきたか、一番知っているはずなのに)
激しい自己嫌悪が津波のように押し寄せ、視界が歪みそうになる。
(……助けるためだ。これしか、あいつを救う方法がないんだ。頼む、出てきてくれ……!)
凪が心の中で悲鳴を上げているその時。
「…………ああ、そうか」
優弥の声から、一切の抑揚が消えた。
凪が弾かれたように顔を上げると、そこには先ほどまで照れていた親友の姿はなかった。
優弥は、凪を見るのをやめた。
それまで彼を形作っていた「人当たりの良さ」という仮面が音もなく剥がれ落ちていく。絶望、憎しみ、疑念……それらを無理に隠し、親友の前で「優弥」であり続けようとする労力さえ、彼はもう必要ないと判断したのだ。
その表情は極限まで磨き上げられた石像のように無機質で、冷たかった。感情を押し殺しているのではない。
もはや凪という存在に対して、感情を割く価値すら感じていない――そんな残酷な拒絶の形だった。
直後、凪の目には見えていなかったはずの足元の影がドロリとした重油のように膨れ上がり教室の床を侵食し始める。