テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「……ねえ、優衣。……あいつに告白された時、なんて答えたの」
「……ふーん。……成瀬、あいつなんて見なくていい。時間の無駄」
お友達に届けっっ!
profile
成瀬 優衣「なるせ ゆい」
一年生
国見 英「くにみ あきら」
一年生
Quiet Monopoly=静かな独占
Quiet Monopoly Start。
国見英という男を、一言で表すなら「効率」だ。
無駄な走りを嫌い、無駄な会話を嫌い、部活でも授業でも常に最小限のエネルギーで最大の結果を出す。
そんな彼の「省エネ」な日常に、私、成瀬優衣(なるせ ゆい)が深く入り込んでしまったのは、単なる席替えの不運……ではなかったのかもしれない。
「……成瀬。消しゴム、落ちた」
三限目の現文。隣の席の国見くんが、気だるげに頬杖をついたまま、私の足元を指差した。
拾い上げようとした私の指先に、彼の長い指が重なる。
「あ……ごめん、ありがとう」
「……別に。……それより、さっきから三組の男子、こっち見てるけど」
国見くんは前を向いたまま、教科書の端をトントンと規則正しく叩いた。
視線を向けると、確かに廊下側の窓から、以前私に告白してきた男子生徒がこちらを窺っている。
「……知り合い?」
「え、あ、うん。中学が一緒だった子で……」
「……ふーん。……成瀬、そっち見なくていい。時間の無駄」
国見くんは私の顎を、まるで落とし物を拾うようなさりげなさで、クイッと自分の方へ向けさせた。
無表情。
でも、その瞳は驚くほど冷たく、鋭い。
「……あいつ、さっきから君のこと、一分間に三回は見てる。……集中力削がれるんだけど」
「えっ……数えてたの?」
「……効率よく排除するために、観察してただけ。……成瀬の隣は、今、俺でしょ。……それ以外の視線は、全部ノイズ」
彼は机の下で、私のスカートの裾を、指先で少しだけ強く握りしめた。
「……ねえ、優衣。……放課後、部活終わるまで待ってて」
「えっ……? でも、今日は友達と……」
「……キャンセルして。……代わりに、俺がアイス奢るから。……新作のやつ」
「付き合って」という言葉は、まだ一言も出ていない。
けれど、彼の瞳には「断る」という選択肢を奪うような、静かで圧倒的な独占欲が宿っていた。
「……俺さ、動くの嫌いだけど。……君を他の誰かに持っていかれるくらいなら、いくらでも無駄な努力してあげる」
彼は顔を上げると、私の耳元で、誰にも聞こえないような温度で囁いた。
「…君が誰のもので、誰だけを見ればいいのか。……その身体に、ゆっくりと教え込んであげるから」
無気力なはずの彼が仕掛けた、逃げ場のない「最小限の罠」。
私は、彼の張り巡らせた静かな檻の中に、自分から深く、深く沈んでいくことしかできなかった。
放課後のチャイムが鳴り響くと同時、国見くんは迷いのない動作で私の手首を掴んだ。
クラスメイトたちが部活や遊びの約束で浮き足立つ教室で、その静かな拘束は、ひどく異質で、独占的だった。
「……国見くん、急にどうしたの。みんな見てるよ」
「……別に。効率よく連れ出したいだけ。……それと、さっきの三組の奴、またこっち見てた」
彼は無表情のまま、私の指の隙間に自分の指を滑り込ませた。
恋人でもないのに、吸い付くような指の熱。
抵抗する間もなく、私は誰もいない旧校舎の渡り廊下へと引き寄せられた。
湿った空気と、埃っぽい静寂。
国見くんは壁に背を預けると、繋いだままの手をグイッと引き、私を自分の胸元に閉じ込めた。
「……練習、行かなくていいの?」
「……金田一に『五分遅れる』って送った。……五分あれば、君の頭の中、俺だけでいっぱいにできるでしょ」
彼は私の肩に頭を乗せ、深く、重い吐息を吐いた。
バレー部員らしい、熱くて広い胸板が、制服越しに伝わってくる。
「……ねえ、優衣。……あいつに告白された時、なんて答えたの」
「えっ……普通に、ごめんなさいって……」
「……ふーん。……なら、なんであいつ、まだ君のことあんなに熱心に見てるわけ? ……成瀬の『ごめんなさい』が、優しすぎたんじゃないの」
国見くんの声が、いつもより一段と低く、喉の奥で震えている。
彼は顔を上げると、至近距離で私の瞳をじっと覗き込んできた。
スナギツネのような細い瞳が、今は獲物を完封する時のように、鋭く、激しい執着を宿している。
「……俺さ、無駄な走りも、無駄な感情も嫌いだけど。……君にまとわりつくノイズを消すためなら、いくらでも性格悪くなれるよ」
彼の指先が、私の唇を、熱を帯びたままゆっくりとなぞった。
「……君の視界から、俺以外の男を全部消してあげる。……たとえ君が、それを望んでいなくても」
彼はそのまま、私の耳元に顔を寄せ、誰にも聞こえないような温度で囁いた。
「……放課後のアイス、……味覚を俺の選んだ甘さで麻痺させてあげるから。……楽しみにしてて」
無気力なはずの彼が見せる、不純な「甘え」と、逃げ場のない独占。
私は、彼の張り巡らせた「最小限の檻」の中で、ただ彼の熱に呑み込まれていくことしかできなかった。