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アリスたそのお話が書きたいんだぁ、おいらはよぉ…少ないからよぉ…
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーキリトリーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「アリスの髪が短い頃?」
そう言うと、フランソワーズさんは目をぱちくりさせた。
綺麗に整えた髪も、長い睫も、その全てが、芋っぽい私と違ってキラキラしてる。
アリスさんによく言われたんだけどなぁ。
「メグの髪は、フランに良く似てる。貴方の方が毛量があるけれど、少しウェーブがかかっているところなんかそっくりだ。」
って。
勿論、フランソワーズさんとお揃いなんてとっても嬉しいけれど、やっぱり私は、アリスさんみたいなストレートに憧れてしまう。
「私、こんな癖っ毛じゃなくて、さらさらなストレートヘアが良かったです。
フランソワーズさんみたいにアレンジなんてできないし、雨の日なんか、櫛が通るかどうか… 」
自分も、自分の髪も、なんだかうねうねしていて嫌になる。
フランソワーズさんみたいにオシャレで、自身が持てて、アリスさんみたいにまっすぐで、かっこよくて…
自分の思い描く理想には、まだ遠そう。
「私は貴方の髪が羨ましい」
気づけばアリスさんは私の髪を少し大きめの櫛でとかしていた。
私がやったらいつもてこずるのに、アリスさんはそれをいとも簡単にほぐしてしまう。
小さい頃から、私はアリスさんに髪を梳かしてもらうのが好きだった。
「ふわふわしてて、なにもしなくてもセットしているように見える。
勿論、貴女方にしか分からない悩みはあるだろうが…。
それに、メグは私がストレートだと言うが、この髪質になったのは、髪が丁度この辺りまで伸びたときからだ。」
そう言うとアリスさんは、自分の腰を指差した。
腰までの長さでも十分長いのは分かっているつもり。
けれど、アリスさんの髪と比べるならば、大分短く思えてしまう。
ふと、1つの疑問が浮かんだ。
「アリスさんは、髪、短かったんですか?」
少し考えてから、アリスさんは私にこう答えた。
「大分昔の話ではあるが、…そうだな、桜ぐらいの長さだったように思う。
加えて言えば、この眼鏡もつけていなかったな。」
想像できなかった。
赤いフチの眼鏡も、まっすぐなロングヘアもないなんて。
でも、誰からもそんな話は聞いたことがない。
私が知らないのだから、エミリーだって知らないだろう。
「…その姿を見たことがある人って…」
「…!気になるのか。そうだな、あの頃の姿を見たことがある者といえば…」
「フランソワーズ、ぐらいだろうか」
そうして今に至る。
こんな長い回想をしている間にも、フランソワーズさんはなんだかひどく悩んでいる様子だった。
「あの、もし覚えていないんだったら…」
無理をさせてしまっているようで申し訳ない、と、心の内で付け足した。
「…いいえ、違うのよ、メグ。
はっきり覚えているの、覚えているんだけどね…」
「あなたが酷く尊敬している『アリス・カークランド』の像が、少し揺らいでしまうかもしれなくて…」
それでもいいです、と、自分が思うより早くに言葉が出ていた。
フランソワーズさんはまた目をまんまるにした後、少し微笑んでからこう話した。
「まだアリスがこんなに小さい頃、私が彼女のところへ行っていたのは、知ってるわよね?
あの頃は、あの娘と、あの娘のお姉さま方とで物騒な姉妹喧嘩がしょっちゅう起こってたの。
勿論そんな状況で髪を切れる余裕なんてないから、髪は伸ばしっぱでボサボサ。
私はそんなの耐えれないけれど、アリスはそんなことを気にすると思っていなかったから、私もからかっているだけだった。
でもね、ある日あの娘に言われたのよ。
『髪を切ってくれ』って。
髪の切り方なんてなんにも分からなかったけれど…アリスにあんな顔されたら、断るわけにはいかなかったのよね…。 」
「髪は想像以上に痛んでて、櫛なんて通るわけないくらい。
それでも何度も洗って、なんとか櫛も通るようになったの。
本当はそれで切り揃えて、長さも残そうと思っていたんだけれど…。
…ほら、私も子供だったのよ。
何度も失敗して、やっと毛先が綺麗に揃ったときには…そう、見事なショートボブだったわ。
…アリス、怒ると思ったんだけど…。 」
そこからは私も想像がついた。
「アリスさん、喜んでくれたんですね。 」
「今もだけど、あの娘、あんまり嬉しいとか、悲しいとかを言葉に出さないでしょう?
でもね、その日だけは満面の笑みで『ありがとう』って言ったのよ。」
「あーっ!あのまま育ってくれたら良かったのにー!!」
そう大きな声で愚痴を溢すフランソワーズさんは、さっきよりも顔がほころんでいるように見えた。
アリスさんと同じように、彼女も、また良い思い出となっていたのに違いない。
でも、なんでアリスさんは髪を伸ばしたんだろう?
口に出していないはずなのに、フランソワーズさんはそれを汲み取ったのだろうか、また付け加えた。
「…少し伸びる度に切ってくれってせがまれて、毎回私が切ってたの。
だからね、きっと彼女は自分で自分の髪を切ることができなかったのよ。
あの娘が私に剣先を向けて、私の上にたったとき、私が髪を切る必要はなくなった。
あの頃みたいに、髪がボサボサにならずとも、彼女は敵に勝てるようになった。
知ってる?アリスったら、たまにしか行かない美容院でも『毛先を揃えて』としか言わないんだって。
ばかよねぇ。あの娘、私にしかあの髪型は切れないと思っているんだわ!」
もしかしたら、アリスさんは髪を切ってほしかったんじゃなくて、フランソワーズさんを会う口実がほしかったんじゃないですか…
それを言葉にすることはなかったけれど、きっとそれが正解だろうと思った。
フランソワーズさんと別れてから、なにかが引っかかっている気がする。
…アリスさんは、自分であの髪型を維持できないから、そしてそれを口実にすることができなくなったから、髪を伸ばした。
それって、逆でもありえること?
自分で長い髪のお手入れができないから、それを口実にできないから、髪を短く切った
…それって…。
次の日、私は玄関前で彼女の準備ができるのを待っていた。
資料がなくなったとか何とかで、朝から慌ただしい。
会議の開催地へ一緒に向かう…というのも1つの目的だけれど、今回はもう1つ、大事な目的がある。
それを考えているうちに、彼女は玄関から飛び出してきた。
「おはようメグ!早く行きましょ!」
最初はたわいない雑談を交わしながら、それとなくアリスさんの髪の話題へ持っていく。
アリスさんの話題に敏感な彼女は、想定どおりそれに乗っかった。
フランソワーズさんから聞いた話を端折りながら、私の意見も織り込んだ。
「ほんとあの人って素直じゃないわね!
構ってほしいなら直接いえば良いし、 わざわざフランに髪を切ってもらう必要ないわ! 」
かかった。
「私もそう思うわ。髪が少しのびる度に切ってもらって、その時間はその人に自分だけ構ってもらって…。
目的は髪を切ってもらうことなんかじゃなくて、ただその人を独占したいだけ。
構ってもらえなくなったら、自慢の髪を切っちゃう…じゃなくて、伸ばし始めちゃうんだもん、
ねぇ?」
「…ちょっと待ってよメグ。
なんでこっち向きながらはなしてるの?
それに、さっきのだってわざと言い間違えたわよね?」
「いいえ、言いがかりはやめてよ…
ただ、私の知り合いに独立した後すぐに髪を切っちゃった『素直じゃない人』がいるの。
その人に良く似てるってだけよ、エミリー?」
そうだ。私の周りって、素直じゃない人ばかりだった。
その人なりの感情表現が、相手に届きますように。
私は、これまでも、これからも、そう願うことしかできない。
「私も髪、切っちゃおうかなぁ…」
なんて、似合わないことを言ってみる。
けれど、その言葉が本当になることはない。
アリスさんが、私の髪を梳かしてくれるうちは。