テラーノベル
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――歪んでいて、綺麗な世界。
鏡の世界は、不気味な静寂に満ちていた。
足元には暗い影が波打ち、まるで生き物のように大森の足首へ絡みついてくる。
そして、大森の周囲を偽の若井と藤澤が円を描くように歩き回っていた。
『お前は、一人になるのが怖いんだろ』
『結局、誰かに見ててもらわなきゃ立っていられないんだ』
『お前の声なんか、誰も必要としてない』
大森は唇をかみしめる。
目の前には、無表情の自分自身――偽の大森。
その眼差しは深い闇のように澄んでおり、視線を合わせるだけで心の奥を見透かされる感覚に陥る。
『……違う、って言いたいのか?』
偽の自分が問いかける。
声は冷え切っていて、血の気を奪うようだ。
呼吸が浅くなり、喉の奥が焼けるように痛い。
背後から、偽の若井と藤澤の声が重なった。
『一人で何ができる?』
『誰もいないと、空っぽだろ?』
クスクス……と笑い声が響く。
その音に混ざって、自分自身の心臓の鼓動だけが異様に大きく響いていた。
大森は、震える拳を握った。
血に濡れた掌がじんじんと痛む。
けれど、その痛みが確かに「自分が生きている」証だった。
「……そうだよ」
静かに、しかしはっきりと声を出した。
偽の3人の動きが止まる。
「俺は孤独に弱い。 寂しいのは、怖い。
誰かがいなくなることを考えるだけで、胸が締め付けられる。 それが俺だ」
言葉を吐き出すたびに、鏡の空間が低く軋む音を立てた。
足元の影がざわめき、天井から細かい亀裂が走る。
偽の大森は無表情のまま、わずかに口角を動かした。
『認めるんだな。弱さを』
「認めるさ」
大森の声は震えていなかった。
むしろ、胸の奥に積もっていた重石を吐き出したように、透き通っていた。
「でも――俺は、その弱さを歌詞にする。
孤独に怯えてる自分を、そのまま言葉にして、曲に乗せる。
それを聴いてくれる人がいる限り、俺は一人じゃない。
俺は空っぽじゃない!」
その瞬間。
――ビキィッ!
鏡の世界に大きなひびが走った。
偽の若井と藤澤が顔を歪ませ、耳障りな笑い声をあげる。
『はは……何言ってんだよ……』
『そんなもんで救われるわけ……』
声が途切れる。
2人の姿が波紋のように崩れ、闇に溶けていった。
⸻
偽の大森だけが残る。
だが、その表情も揺らぎ始めていた。
『歌詞に……弱さを曝け出す?
そんなもの……』
「強がりでも、理屈でもない。
俺は、自分の弱さを隠さない。
だから……大丈夫なんだ」
『お前は……本当にそれで強いとでも?』
大森は静かに微笑んだ。
「強いわけじゃない。俺は弱いままだ。
でも――俺はその弱さと一緒に生きていく。
それが俺の答えだ!」
言い放った瞬間、轟音が響いた。
空間そのものが裂けるように揺れ、偽の存在たちが苦しげに叫び声を上げる。
——やめろ!
——それを認めたら、俺たちの居場所がなくなる!
「そうだ。お前たちは俺の影だ。俺の弱さから生まれた幻影だ!」
亀裂から白い光が漏れ、世界を照らした。
破片となった偽の自分は、音もなく溶けるように消えていった。
⸻
光があふれ、闇を切り裂いてゆく。
崩れゆく空間の奥に、若井と藤澤の姿が浮かび上がる。
必死に手を伸ばす2人。
その声は確かに――本物の仲間の声だった。
「……待ってろ。絶対、助ける」
大森は拳を握り直し、光へと歩み出した。
コメント
3件
大森くんの勇敢さがすごい!!あこがれるね〜(>ᴗ<) 僕も勇敢さが欲しいよ〜(´;ω;`)もう部活行きたくない!!( ˊ•̥ ̯ •̥`)
弱さを認めるっていう事は簡単なんですけど、何気に一番難しいことだって私は思っています。だから、もしも私がこのお話の鏡の世界に入っちゃったら、二度と現実には戻れないのでは…?なんて考えながら、今回のお話を読ませていただきました。続き楽しみにしています!