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夕食前に一汗かこうと俺は裏庭に出てバスターソードを振っていた。
200回振り抜いたあと井戸の水で顔を洗い濡らした布で身体を拭う。
井戸の縁に立て掛けていたバスターソードを見やり、そういえば手入れ用の油もいるよな。
また、市場で…………いやいやダメだ。またカイアさんに怒られてしまうな。
先ほど怒られている時に、
「ホントにもう、いったい幾ら使ってきたの!」
と聞かれたのだが、さすがに『金貨が飛びましたわー』とは言えないよね。――怖くて。
カイアさんってお金が絡むと性格が変わるよね。
まぁ、商人で言うところの『お金のやり取りは命のやり取り』って若い頃に教わったよなぁ。
鑑定でも使って…………。 あっ! 使ってないじゃん鑑定。
何か雰囲気に流されてしまってウキウキだったからなぁ。
それに使い何処がなかっただろう? 鑑定なんて。
でも、そうだな革のベストやローブぐらいは鑑定しても良かったのかもな。
ほとんど向こうの言い値で払ってたし……、変なものつかまされてないよな。
……何だか心配になってきたよ。あとで鑑定してみるか。
でも、後で鑑定するというのも怖いんだよな~。悪い品ではなかったと思うんだけど……。
部屋に戻って着替えを済まし食堂へ向かった。勿論《もちろん》シロも一緒だ。
食堂に入ると、テーブルにミリーちゃんだけが座っている。
俺はどこに座っていいのか分らなかったので、とりあえずミリーちゃんの隣に腰掛けた。
相中にシロをはさんで一緒にもふっている。
キャッキャ言いながらシロをもふりまくっているとカイアさんが食堂に入ってきた。
あっ! 食事の前だったよな。動物に触れさせるのはまずかっただろうか。
シロはいつも清潔にしているけど、他の人には分からないからね。
「カイアさんすいません。その……、食事の前にシロに触れさせてしまって……」
「そんなの大丈夫よ~。だってシロちゃんいつもフワフワでいい匂いがしているから、綺麗にしているのよね~。だからまったく問題ないわ~」
シロが綺麗好きなことが分かってもらえて、何かとても嬉しかった。
程なくしてマクベさんも入ってきた。
「パパー、おかえり~」
ミリーちゃんも大喜びだ。それから俺の席はここで良いということになった。
シロも隣にいるのでミリーちゃんも楽しそうだ。
夕食も終わり、俺たちはリビングでお茶を頂きながらくつろいでいた。
いろいろ話しをしていく中で ”明日から何をする” という話しになった。
そこで俺は自分の考えをマクベさんへ話すことにした。
「ゆくゆくはシロと共にいろんな所へ行ってみたいです……」
「ですが、その前に剣の稽古をはじめいろいろと準備が必要です。せっかく、こうしてマクベさん達と出会うことができましたので、この町でいろいろ学んで自分を高めていきたいです。そのためにはお金も必要になるでしょうし、まずは冒険者になろうかと考えています。ランクを上げ一人前になってから町を出ていこうと考えています」
すると、マクベさんは驚いたように、
「いやはや、ゲンは本当に17歳なのかい。なにか同世代と話をしているようだよ……。うん、話しは分かったよ。剣とかも大事だと思うけどゲンはちょっと常識外れなところがあるよね。それらも勉強していかないとね」
「ええ~、そうなの~。でも、遠慮せずにいつまでも家に居ていいんだからね~」
それで、俺にはもう一つ話がある。
「好意は大変嬉しいのですがタダはいけません。タダは! そこで部屋をお借りしている間は宿代を払わせてください。これは俺の為でもあるのです。よろしくお願いします」
するとマクベさんはしばらく考えたのち、
「じゃあこうしよう。家賃はシロくんも含めて朝夕食付きで1日200バースだ。その代わりといっては何だが、この店の棚卸や大きな仕入れ、あとは今回のような行商なんかのときに手伝ってくれると助かるよ。なーにそうそうはないから事前に声を掛けさせてもらうよ。それで良いかい」
「それとね~、帰らないと心配でしょ~。だから遅くなる時やお泊りの時はちゃんと言っておいてね~」
俺はもちろん快諾した。
しかし、なんて優しく暖かな家なんだろう。
なんでも、行商は定期的にやっていて1シーズンに2回は出すようにしてるそうだ。
ここでいう1シーズンは80日単位で、それが年に4シーズンだ。つまり1年は320日になる計算だね。
それで1日は何時間なのか? それは分からないし時計もない。
日が出ている時間をだいたい6つに分けて教会が鐘を鳴らしているのだという。
う~んアバウトなんだね。だけど、それでいいのだろう。
まぁ、話が横道に逸れてしまったが、ようするに40日おきに行商に出るってことだよね。
ルートは今回と同じで、場合によってはマギ村には寄らないこともあるそうだ。
秋のシーズンは行商に出るのが3回に増えるそうだ。秋は収穫の時期でもあるしな。
それに、冬になると雪が降って思うように出られない事もあるのだろう。
「なぜ、そこまでするんですか?」
俺がそう尋ねるとマクベさんは両手を腰にあて、
「困ってる人がいたら助けるのが当たりまえ」
なんだそうだ。 今一瞬、純白の鎧に赤いマントが…………。
いやいや、違う!
そうなのだ、これは俺の『翻訳機能』がいけないのだ。
ああ~、聞かなければよかった。せっかく良い話をしていたのに……。
もうね、なにか疲れてしまった。
俺は少し肩を落としながらリビングを後にした。
とりあえず、シロにお願いして部屋の中全体に浄化を掛けてもらった。
それからベッドの上で坐禅を組んで精神統一をはかる。
そして、意識を内側に向け気を練るような感じで魔力を追っていく。
ここのところ、魔力を抑えて流れを遅くしてみたり、逆に魔力量を増やし速くしてみたりと調整が出来るようになってきた。
俺は風魔法が使えるからシロが使っていた『ウインドカッター』の他に、ラノベの定番である『エアハンマー』なんかも使ってみたいな。
魔法上達のポイントはやはりイメージだろ。
そして、威力をだすためには魔力操作による ”溜め” が必要なんじゃないかと考えている。
だがまぁ、そう簡単にはいかないんだろうね。