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「ねえ、夢先輩」
僕は勇気を振り絞って聞いてみる。
「ご両親ってどんな感じの人なの?」
夢先輩の顔が暗くなる。
「分かんない。私はずっとおばあちゃんに育てられてきたから」
「そうなんだ」
少しの沈黙のあと僕は夢先輩の目を見る。
「僕の両親に会って欲しいんだけど、いい?」
「…分かった」
雨降る町の中に2つの傘が並んで見える。もし僕の予想が合ってるならきっと。
「ただいま」
「お邪魔します」
僕達は机の椅子に座る。
「帰ってくるまであと10分くらいだからそれまで待ってよう」
「うん。でもなんでこんなタイミングで呼んだの?」
「この前家帰ったら急に両親がいて…」
僕はあの日家の中で起こったことを全て話した。
「なんか怪しいね」
話をしていると玄関が開く音が聞こえた。
「おかえり」
「遅くなってごめんね」
母親が帰ってきた。
「紹介するよ。僕の母親の…」
そう言いながら夢先輩の方を見ると、夢先輩の額には汗が流れていてとても驚いているような表情だった。
「大丈夫?」
「ごめん。ちょっと今日はもう帰るね」
珈琲の匂いが僕の鼻を突き刺す。
私は雨が降る町の中を走り出す。突如脳裏にフラッシュバックしたあの日の光景。私は歩道を家族3人で歩いていた。遊園地の帰り道に悲劇が起こった。横断歩道を渡っていた時、両親ははしゃいでいた自分に付き合ってくれてクタクタだったが、私は早く家で遊びたくて走って先に横断歩道を渡っていた。私が渡り終わる頃にはまだ、両親は真ん中を歩いていた。疲れていた両親は近づいてくる車に気づいていなかったのだろう。車に引かれてしまった。今思えば、ずっと私の事を意識してくれているようで疲労の溜まった両親にそこまで考えることが出来なかったのだろう。車から運転手の男性と助手席に座っていた女性が降りる。私は恐怖でただじっとその光景を見ていることしか出来ない。その2人はすぐに車に戻ってどこかへいなくなってしまった。通行人のお陰で救急車や警察は呼ぶことが出来たが結局その車の2人は未だに誰か分かっていない。その後私はおばあちゃんの家に預けられた。
心配になった僕は夢先輩に連絡をとる。
少し待って返ってきたメールには
『今は1人にさせて』
とだけ書いてあった。あまり深堀するのも良くないと想いそっとスマホの自分の机の上に置いてベットで寝っ転がった。
「少し大事な話があるから来て」
母の呼ぶ声が聞こえる。重い足を引きずりながらリビングへと向かう。気づけば父も帰ってきていてテーブルに座っていた。母が話を切り出す。
「大事な話だからよく聞いてほしい。私達は今まで刑務所にいたの」
「…」
「過去にひき逃げをして2人の人を殺害してしまった」
「もう罪はしっかり償って反省してるから許して欲しい」
心の中から湧き出てきたのは怒りと絶望だった。
「僕はもう両親とは暮らしたくない。二度と姿を現さないで欲しい」
「そうなるのも分かってた。でも自業自得だからね。親として何もしてあげられなくてごめんね」
僕は何も応えず自分のベットの中に潜り込む。ただひたすらに枕を叩きながら泣いた。恵まれない自分が嫌になった。
その日から1週間僕はバイトを休んだ。ずっとベットの上にいた。知らない間に両親は家を出て言っているみたいだ。物音のしない家が寂しさを感じさせる。
ある日、インターホンがなった。
「また帰ってきたのか」
そんな事を思いながら外を見ると夢先輩の姿が見えた。そういえばあの日以来連絡を取り合っていない。
「お邪魔します」
閑散とする家の中に案内する。
「ご両親はまたどこかに?」
「いや、その事なんだけど、ひき逃げ犯だったらしい」
「どういうこと?」
「過去にひき逃げをして刑務所にいた。最近それで帰ってきた。」
「そうなんだ。大変だったね」
「全くだよ。そういえばバイト行かなくていいの?」
「うん。色々あってクビになっちゃったから」
「そうなの?」
「うん。ごめんね、急に」
「いいよ全然」
「じゃまたね」
「ばいばい」
あの日以来体調を崩していた僕だが無事バイトに行けるくらいまでに回復した。
「夢先輩ってどうして辞めたんですか?」
バイトリーダーに聞いてみる。
「彼女の履歴書にいくつか不審な点があってその原因がようやく分かったからだ」
「どういうことですか?」
「谷置夢という名前は詐称だったんだ。」
「いや、そんなはずは。だって夢は僕の姉のはずじゃ」
「でも君1人っ子だって入る時に聞いたけど」
「それは…最近知ったんです。親から」
「君も何か怪しいね」
その時僕のスマホが振動した。夢先輩からだった。
『この後、来れたら喫茶店で待ち合わせね』
シンプルな文面が画面に表示される。
「彼女の本名知ってるか?」
「いや、知らないです」
「葉山恋華。まあいい。君のことも少し調べてみるよ。店に影響が出ないようにね。とりあえず今日は帰っていいよ」
「はい」
僕の親は嘘を吐いているのか。それともバイトリーダーが。どっちにしろ良くない状況に傾き始めている。僕は刹那雨に打たれながら喫茶店へと向かった。中は昼だからかほとんど人はいなかった。
「慧人。こっち座って」
そこで待っていたのは夢先輩と前も夢先輩と一緒にいた女の子だ。夢先輩が僕の方を見て目に涙を浮かばせながら叫ぶ。
「君の両親に合わせて!」
その威圧に圧倒されて
「分かった」
と僕は反射的に言った。とはいえもう一度親と連絡を取らなければいけない。
『2人に会いたい人がいるから家に来て欲しい』
そうメッセージを伝え、しばらくの時が過ぎた。