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任務・前線遺跡地帯 深層区画
崩落は、あまりにも唐突だった。
足場に走った亀裂は一瞬。
次の瞬間には、床そのものが砕け落ちる。
重力が反転したような感覚。
瓦礫と砂塵の中、落下しながら
隊長は反射的に腕を伸ばす。
掴んだのは――白衣の袖。
ド 「……ッ、乱暴だな君は」
カ 「黙っていろ。舌を噛むぞ」
二人は瓦礫の斜面を滑り落ち、
最後は石壁に叩きつけられて停止した。
静寂。
通信機はノイズのみ。
上層の灯りも届かない。
完全孤立。
⸻
ド 「……はは。閉鎖空間、負傷、通信断。
研究環境としては悪くない」
カ 「任務中だ。浮かれるな」
だが隊長の声は僅かに重い。
着地時の衝撃。
左脇腹から血が滲んでいた。
博士はしゃがみ込み、手袋越しに触れる。
ド 「肋骨に軽い損傷。だが問題はそちらではない」
カ 「……何だ」
ド 「体温が異常に高い。脈も速い。
――薬の残存反応が、深層環境と共鳴している」
その時だった。
遺跡の壁面が淡く発光する。
古代装置が起動音を上げた。
低周波振動が空気を震わせる。
隊長の呼吸が一段、荒くなる。
カ 「……ッ」
ド 「来たな。神経系が刺激されている。
触覚反応も増幅しているはずだ」
試すように、博士が手首を掴む。
びくりと明確な反応。
カ 「……触るな」
ド 「嫌がるな。データが取れない」
だがその余裕は長く続かなかった。
⸻
深層遺跡守衛起動。
石壁が割れ、
旧文明の自律兵器が群れで現れる。
赤い光眼。重装甲。
カ 「戦闘だ。下がれ」
ド 「君がその状態で前衛を?」
カ 「問題ない」
だが――
一体を斬り伏せた瞬間、
副作用が爆発的に跳ね上がる。
視界が熱を帯び、
神経が過敏に震える。
呼吸が荒い。
カ 「……ッ、は……」
ド 「無理をするな。興奮作用が臨界に近い」
しかし兵器は止まらない。
博士は舌打ちし、薬液カプセルを取り出す。
ド 「神経安定剤と反応増幅剤の混合。
本来は実験用だが――」
カ 「使うな」
ド 「今の君では殲滅が遅い。囲まれる」
一瞬の沈黙。
次の瞬間、
隊長は頷いた。
⸻
投与。
薬液が血流に入った直後、
反応が変わる。
過敏だった神経が、
“制御された鋭敏さ”へ変質する。
足運びが軽い。
視線が鋭い。
カ 「……視界が、澄んだ」
ド 「副作用を戦闘補助に転用した。
私の計算通りなら、今の君は――」
その言葉の途中で、
隊長は既に敵陣中央にいた。
圧倒的制圧。
一閃ごとに装甲が裂け、
兵器が沈黙していく。
だが完全に無理が消えたわけではない。
戦闘終盤、
最後の大型兵器が突進。
博士へ直進。
ド 「……ほう」
回避は間に合わない。
だが次の瞬間、
黒い影が割り込む。
カ 「――下がれ」
衝撃。
隊長が盾となり受け止め、
至近距離から装置核を貫いた。
兵器停止。
⸻
静寂が戻る。
だが隊長はその場で膝をつく。
副作用と負傷の二重負荷。
ド 「……全く。防衛行動の優先順位が極端すぎる」
博士はしゃがみ込み、
肩を支える。
カ 「任務は……完了だ」
ド 「脱出までが任務だ。気を抜くな」
しかし支えた瞬間、
隊長の体がわずかに強張る。
まだ神経過敏は残っている。
ド 「……なるほど。
この状態で接触されると反応が跳ねるのか」
カ 「分析は後にしろ……」
ド 「安心しろ。今は保護が優先だ」
そう言いながらも、
支え方は妙に近い。
体温の高さが伝わる距離。
隊長は何も言わないが、
呼吸だけが少し速い。
⸻
脱出口へ向かう途中、
崩落した縦穴の下に転送装置を発見。
博士が操作し、起動。
転送光が二人を包む。
転移直前、
博士が小さく呟いた。
ド 「今回のデータは非常に興味深い。
長期観察の価値があるな」
カ 「……断る」
カ「拒否権は?」
ド「ないと分かって言うな」
光が弾け、
二人の姿は地上へ消えた。
⸻
任務記録・補遺
・深層環境により副作用増幅
・戦闘補助転用は有効
・被験体の防衛本能は依然過剰