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#ファンタジー
猫かぶりの森内部には低木が林立していた。外縁を囲う丈の長い針葉樹は大きくしなり、さながらドームの内壁の様だ。森に飲み込まれたレカーディオとユミヨは、せわしなく周囲に目を配っている。
「太陽の位置で方角は割り出せたました。この道を辿れば、入口で仲間と合流できるはずです」
ユミヨが目前の地面を指さす。木の間隠れの太陽を目ざとく発見したのだ。
「そ、そうだよな。このアクシデントから逃れることが先決だよな」
困惑気味のレカーディオが渋々承諾する。
彼らの足元には黒色の腐葉土が連なる道があり、それは曲がりくねって先に続いている。道の左右にはありきたりな樹木が規則正しく立ち並ぶ。
(現実世界の攻略本で見た限りでは、武器所有者を排除する仕掛けがあるはず……)
ユミヨの目がレカーディオの腰元に向く。彼は半袖の鎖帷子と鉄製の肩当てで武装していた。
「言っておくが、この剣は捨てられない。王家から譲り受けた居合刀だからな」
レカーディオが腰に佩いた剣の柄を握りしめる。その眼には、偽りない執着が浮かぶ。
「分かりました。私は武器を持っていないから、敵の気配に気を付けながら進みましょう」
たとえ罠であっても、他に進路は見当たらないのだ。
「それにしても、あんたは何故飛び込んだ? 命の保証もなしに……」
「それはあなたを……」
答えようとしたユミヨが話を止めて周囲を見回す。異様な気配に気が付いたレカーディオもそれに倣う。葉音がざわめくが、いまだに敵の気配はない。訝しんだ二人も胸をなでおろす。
「ごめんなさい、勘違いだったみたい」
後頭部を片手で揉んだユミヨがはにかむ。その背後で何かが蠢いた。
目を凝らしたレカーディオが剣を構える。ユミヨの背後を凝視すると、木の幹に擬態化した巨大なカメレオンの姿が浮かび上がる。その舌が、鞭の様にしなりユミヨの後頭部に迫る。
間一髪でレカーディオの居合い斬りが間に合った。弾け飛んだ舌が枝葉に絡まると、カメレオンの口元が鮮血で染まる。
「安心しろ。この森は俺の居合いと好相性だ」
レカーディオが逃げを打つカメレオンの背中に止めの一撃を繰り出した。男としては小柄だが、淀みない剣戟は充分な修練を感じさせる。
横たわる巨大な爬虫類の遺骸を前に、ユミヨは意気消沈した。
「すみません。わざわざ飛び込んできたのに、力になれなくて……」
「いや、この際目が二組あることが重要だ」
レカーディオが自身の目元を指さす。
「俺が前方を、その背後をあんたが後じさりながら見張る。死角を作らないことだ」
「分かりました。ペースを合わせて、しっかりついていきます」
背中を合わせた二人が森の道をにじり歩く。葉のざわめきが、ユミヨたちの心をもざわつかせる。
(あのカメレオン、武器を持っていない私を襲うなんて……)
ユミヨの脳裏にいけ好かないピエロの姿が浮かぶ。この仕掛けは彼が用意した特別メニューなのだろうか。
(ビリーディオってピエロ、ゲームには登場していないはず。何を企んでいるのかしら……)
その時、ユミヨとレカーディオの後頭部がコツンとぶつかった。彼が歩みを止めたのだ。
「この気配……。何か居やがる」
武器を構えたレカーディオが注意を促し、ユミヨがたまらず振り返る。
「待てっ! ユミヨは後方を見張ってくれ。俺が魔物を殺る」
「了解です!」
ユミヨが再度背中を合わせる。だが、背後のレカーディオの体から振動が伝わってくる。どうやら恐怖で震えている様だ。
「レカーディオ……さん?」
ユミヨが再度振り返ると深刻な状況が詳らかになった。前後左右三方向から、樹木に擬態化していた巨大な蛇がレカーディオを狙っていたのだ。