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王都南区、第七防衛線。
火の手が上がる住宅街に、白い騎士の紋章が揺れていた。
「命令は制圧だ。逃げる民間人も、潜在的な協力者と見なして処分せよ!」
団長レオナールの怒号が飛ぶ。
隊士たちは一斉に飛び出し、放水砲と鎮圧弾を住宅に向けて発射した。
「待ってください団長! 子どももいます!」
ミレイユは叫んだ。
だがその声は、国家の命令には勝てなかった。
彼女の目の前で、瓦礫に埋もれた母親と娘が、助けを求めていた。
だがその横に、白冠の騎士が歩み寄る。
「避難命令に従わなかった。よって、この者たちは反乱者予備軍と見なす」
「やめろ!」
ミレイユの声が、戦場に響いた。
その瞬間、彼女は自分の中の境界線を越えていた。
剣を引き抜き、その白冠騎士の刃を跳ね上げる。
金属の衝突音が、戦場の沈黙を破った。
「ミレイユ、お前……命令に逆らう気か」
レオナール団長が、信じられないという顔で彼女を見下ろす。
「あなたはこの国の守護を誓ったはずです。
ならば、なぜ人々を撃つのですか!?」
「民衆は国ではない。国とは、秩序と権力の構造だ」
「……それが、あなたの答えなんですね…」
ミレイユは静かに言った。
そして、剣を構える。
「なら私は、人に誓い直します」
沈黙ののち、レオナールが手を掲げる。
「ミレイユ・カーネリアス。お前を白冠騎士団反逆者と認定する。
捕縛せよ!抵抗するならば、処分も許可する!」
その言葉と同時に、3人の白冠騎士がミレイユに襲いかかる。
だが彼女の動きは、一瞬だった。
「はっ!!」
鍛え抜かれた身体能力が、白の閃光と化す。
一人目の騎士の剣を斬り払い、蹴りで吹き飛ばす。
二人目の斧を交差する剣で受け止め、後ろ回し蹴りで脳天を打つ。
「甘い!」
三人目の槍が腹部を狙う。
ミレイユは回避せず、わざと肩にかすらせ、懐に踏み込む。
「そこだ!」
至近距離。剣が火花を散らし、槍を軸ごと砕く。
たった一人で、騎士団の兵を次々に倒していく姿に、味方の兵士すら息を飲んだ。
騎士団最強のレオナールは一歩も動かず、言った。
「力はある。だが忠誠を失ったお前に、もはや騎士の資格はない」
ミレイユは血に染まった肩を押さえながら、それでも真っ直ぐに言い返す。
「いいえ。私は今、ようやく誰のために剣を振るうかを選べました」
「……ならば二度とこの国の名を語るな」
「語りません。けれど、私はこの国の未来は、まだ捨てていません」
その言葉に、一瞬、レオナールの瞳が揺れた。
だが彼は背を向け、命令を下す。
「……撃て」
銃声が響く。だがその瞬間、煙幕が広がった。
ミレイユはその中へと飛び込む。
「くそっ、逃がすな!」
仲間のひとりラースが密かに用意していた脱出路。
ミレイユは血を流しながらも、都市の影へと姿を消した。
夜、ノアの仮面越しに、地下放送が流れる。
「一人の騎士が、剣を置いた。
だがそれは逃げではない。彼女は、剣を奪われるより先に、意志を選んだのだ」
その声を、都市の誰かが、確かに聞いていた。