コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「おい!あそこにいるぞ!白い親子の犬だ!」
野太い、でも怖い声が背後から聞こえた。「逃げなさい!」お母さんはそれだけいうと、仲間とともに走り出した。僕も走り出した。「ポリー!頑張って!ルイ!もう少しだから!」僕も弟、妹を励ました。大好きな兄妹が悲しい目に会うのはやはり、耐えられない。
ガサ、ガサ、ガサガサガサ。どどっどっどっどっどど。
大きい地響きのような音は絶えず聞こえてくる。僕は必死で足を動かした。自分が思っている以上のスピードを出した。「ララ!走りなさい!」
お母さん!お母さんはまだ無事なんだ!会いたい!
僕はその一心で走り続けた。
走れば走るほど、後ろで走っている弟、妹の気配が一瞬にして消えていく感じがした。僕は振り返りたかった。「僕の兄弟を返して!」って思いっきり叫びたかった。そして返してもらいたかった。
兄弟と、楽しく過ごす時間を。
ぐいっ
ふいに、前足が宙に浮いた。続いて後ろ足も。
誰かに持ち上げられたんだ。この感じはお母さんじゃない。叔母のマリーさんでも誰でもない。じゃあ、誰?
僕は怖かったけど勇気を振り絞って後ろを振り向いた。怖くて震えが止まらなかった。
そこには青い服を着た人がいた。そして、仲間といっしょに喋っていた。
「いやー。兄弟を捕まえるのはそこそこ楽だったが、コイツは随分苦労したよ。子犬とは思えない速さだ。」青い服のおじさんは僕を覗き込んできた。「誰!?」僕は思いっきり吠えた。すると、その言葉が伝わったように二人はこっちを見たんだ。「そういえばよ。コイツラの他に親がいたよな。あと何匹か白とか茶色のヤツもいた気がする。」その白い犬って、僕達のお母さんのことだ。だめだめ。こんなやつのところには行かせないもん!
「わんわんわん!ガゥゥゥゥ。わんわん!アゥゥ」
背筋がぞくりと凍りつくぐらいに怖い声が聞こえた。。でも、なんとか落ち着くと、どこか聞いたことのある温かみが、声の奥深くから出てきたんだ。
つぶっていた目をぱちりと開けた。
僕の予想通りだった。そこには、確かにお母さんがいた。お母さんはテリア系だから、僕が言えるもんじゃないけど、大きさは小さい。でも、気力や気の強さ、頑固なところは和犬と同じ、人一倍だ。僕は両親からその気質を受け継いだんだ。
お母さんは、短めの尻尾を高く上げ、汚れて黄色くなっている歯を、鋭い犬歯を見せつけていた。でも、青い服の人はびくともしなかった。ちょっと驚いたように見つめてたけど、僕達を錆びた鉄の匂いがするケージに入れた。
「返して!子供たちを返して!」
お母さんは、何度も何度もずっと言っていた。青い服の二人のおじさんのうち、一人はすっごく意地の悪そうな人だ。でも、もう一人はまだ優しいのかもしれない。
そう思ってたとき、弟のルイと喜々助(ききすけ)、妹のポリーが一斉に鳴き出した。「お母さん!僕達、ここにいるよ!」って。僕も、その他の妹や弟もそれに乗った。
お母さんの吠える声が、一層大きくなり、怖くなった。一番の怖がり、ポリーはふるふると震えてしまっていた。「ワンワン!ガルルゥゥ、アウゥゥ!ワンワンワン!‥アォーーン!」お母さんは遠吠えをした。
あたりが、しんと静まり返った。すると、ガサガサっと音がして仲間が現れた。
「お。きたぜきたぜ。」青い服の意地悪そうなおじさんがにんまりとした。そして、自分の後ろで棒の先にワイヤーの首輪をつけたものを隠し持った。絶対、このおじさん、僕のお母さんや仲間を捕まえる気だ!
「お母さん!だめ!このおじさん、お母さんと仲間を捕まえようとしてるよ!」僕の叫びに、お母さんはハッとした顔になり、身構えて意地の悪そうなおじさんをよくよく観察した。そして‥
おじさんは、一気に近づいて、ワイヤーの首輪をお母さんにかけた。「お母さん!!」
妹のポリーは、倒れるようにしてうずくまってしまった。それを見ると地面の冷たさが、一層強くなった気がした。
「お母さん…」僕は自分でもびっくりするぐらい弱々しい声を出した。そして、目の前が真っ暗になった。