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※高校生の設定です。
放課後の図書室は、いつもより静かだった。
時間は夕方。
窓の外は少し赤く染まりかけていて、まばらに残っていた生徒たちも、いつの間にか帰ってしまっている。
元貴は、その静寂の中で、一人、本棚の前に立っていた。
(……あの本、上すぎじゃねぇ?)
音楽室で先生が話していた本がどうしても気になって、検索して、図書室に来たはいいものの――目的の本は、一番上の棚の、しかも真ん中よりも奥のほう。
完全に“高身長用”の位置。
「っし……!」
元貴はつま先立ちで手を伸ばす。
指先がかすかに触れる。
けど、それ以上はどうしても届かない。
「くそ、もうちょい……!」
バランスを取りながら、無意識に何度も飛び跳ねて。
その姿を、本棚の陰からじっと見つめる目があった。
「……なんだよあれ。かわいすぎだろ」
滉斗だった。
たまたま遅れて図書室に来た彼は、元貴を見つけた瞬間から視線を逸らせなくなっていた。
つま先立ちしてる元貴。
文句をぶつぶつ言いながらも諦めない背中。
手首の動き、ピンと張った首筋、ちょっと乱れた前髪――全部が滉斗のツボだった。
「……もう、限界」
元貴が小さくつぶやいたのを聞いて、さすがに見かねた滉斗が前に出る。
「取ってやるよ、それ」
「うわっ……って、滉斗?!」
突然現れた滉斗に、元貴は肩をびくっとさせて振り返った。
「な、なんでお前……」
「さっきから見てた。てか、お前が飛び跳ねてんの面白すぎて、出るタイミング失っただけ」
「……性格悪っ」
「でも、かわいかったから、まあいいじゃん」
「は?」
からかうような笑みを浮かべながら、滉斗はスッと腕を伸ばし、目的の本をあっさりと取って元貴に差し出した。
「はいよ」
「……ありがと」
拗ねたように受け取る元貴。
その姿すら、滉斗には愛しく見えて仕方なかった。
誰もいないことを確認してから、滉斗はふっと声を潜めた。
「なあ」
「ん?」
「ちょっとだけ、こっち来いよ」
「あ? なんで……」
「いいから」
ぐっと腕を引かれて、本棚の陰に連れ込まれる。
静かな空間で、滉斗の顔がすぐ目の前にある。
目を逸らそうとしても、その手はしっかりと元貴の腰を掴んでいた。
「ちょ、近……っ」
言い切る前に、唇が塞がれた。
甘くて、深いキス。
誰にも見られないように、音を立てないように――けれど情熱は静かに熱を帯びていく。
数秒、いや、もっとか。
離れた瞬間、元貴は滉斗の制服を掴んだまま、ぽつりと言った。
「……それだけ?」
滉斗が眉を上げる。
「……なにが?」
「もっと、してくれてもいいけど」
視線をそらしながらつぶやいたその言葉に、滉斗の中のスイッチがカチリと音を立てた。
「……言ったな?」
次の瞬間、ガタン、と音を立てて元貴の背中が棚に押し付けられる。
驚いた顔を見ながら、滉斗はその顔にキスを落とす。
何度も、何度も。
深く、舌を絡め、名前すら呼べないくらいの濃厚なキス。
「……ふ、滉斗……っ」
「声、出すなって。誰か来たらどうすんだよ」
「お前がそうさせてんだろ……っ」
顔を赤らめながら息を荒くする元貴に、滉斗は笑みを浮かべる。
「だって、お前が“もっと”って言ったんだろ」
唇と唇が、また重なる。
放課後の図書室。
誰もいない時間にしかできない、ふたりだけの甘い秘密――。