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「ということで来ました」
と言う希誦(きしょう)。
「…」
現在、美術室にて流来(るうら)と希誦の2人きり。なぜこうなったのか。時を少し遡る。
その日の講義がすべて終わり、明空拝(みくば)と流来は美術室へと向かった。
「いやぁ〜。もはや部室」
と言いながら座る明空拝。
「たしかに」
と言いながら荷物を置いて、いつも通りイーゼルを立て、キャンバスを立てかける。
「今日もいつも通りちょっと描いてから帰るんでしょ?」
と流来の後ろ姿に聞く明空拝。
「ん?まあ…。なんで?」
とイーゼル前のイスに座り、キャンバスを見て、絵のイメージをしながら答える流来。
「なんで?いやぁ〜…なんとなく?」
「いつもそんな聞かなくない?」
絵を描く準備を進めながら明空拝と話す流来。
「ん?あぁ〜…。いや、なんとなく?」
「ふうぅ〜ん」
そのとき明空拝は希誦にLIMEで
明空拝「少ししたらメッセージ送るんで、そのとき自分外いるので、美術室で流来に話してみてください」
と送っていた。送られた希誦はというと
杏時(あんじ)、汝実(なみ)と芽流(める)と4人で講義が終わった講義室に残っており
帰りにどこどこに寄ってこうかーと話しており
「あ、私はこの後少し用事あるから」
と希誦が言うので
「あら残念。じゃ、また後日みんなで行こっか」
とこの後希誦は明空拝と出掛けると思っている汝実が言い、4人で大学を出た。
「あ、私こっちだから」
と全然用事のない道に行くと言って、無理矢理3人と分かれる希誦。
「ん。しょうちゃんお疲れぇ〜」
「しょうちゃんお疲れ様」
「しょうちゃんまたね」
と言い、手を振る3人に
「ん。3人ともお疲れ様ー」
と言い、手を振り返す希誦。そして大学へと引き返した。流来がキャンバスに絵を描き始めて少しして
「あ、コンビニ行くけどなんか」
「買ってくる?」と明空拝が言い終わる前に
「あ、じゃあオレも」
と立ち上がろうとする流来。
「あ、いやいやいやいや!」
と流来に駆け寄り、肩を上から押さえてイスに座らせる明空拝。
「流来は座ってて」
「は?」
「買ってくるから」
「なんで」
「いや、…絵!絵描くの忙しいだろうし!」
「…は?」
「まあまあまあ」
と言って
「じゃ!テキトーに買ってくるわ!」
と言って美術室を出て行った明空拝。ドアが閉まり終えるのを見届けてから
「…は?」
と一人美術室で呟く流来。明空拝は大学を出て、大学に出入り口でスマホを出す。
そして希誦にLIMEを送ろうとしたところで
「あ」
希誦が大学に戻ってきた。
「え。あ、どっか行ってたんですか?」
「ううん。みんなと途中まで帰って引き上げてきた」
「なるほど」
「もういいの?」
「はい。どうぞ」
と明空拝が大学の出入り口を、紹介するような手で指す。
「あ、どうも。じゃ、いってきます」
「あ、コンビニ行くんですけど、なんか飲み物とかいります?」
「んん〜…。じゃ、ジャスミンミルクティー。カップタイプっていうの?
あのストロー刺して飲むタイプのやつでジャスミンミルクティーあると思うから、それを。
無かったらペットボトルのミルクティーをお願いしてもよろし?」
「はい。じゃまた」
「ん」
と明空拝はコンビニへ向かい、希誦は大学へと入っていった。
希誦は大学の、あまり行ったことのない通路へ行く。
「美術室美術室」
と呟きながら、部屋の名称が書いてあるプレートを見ながら美術室を探す希誦。
「美術室美じゅ、あった」
見つけた。恐る恐るドアを開ける。
するとキャンバスに向かって絵を描いている白い服を着た赤髪の人の後ろ姿が目に入った。
お、杉木(すぎ)くんだ
と思いつつ、ゆっくりと中に入る。ドアが閉まる微かな音で振り返る流来。
するとそこには抜き足差し足忍足の希誦がいた。
「…泥棒?」
と言う流来に、クスッっと笑う希誦。
「杉木くんもそんな冗談言うんですね」
「いや。思いっきり泥棒のそれだったし。白風出(しらかで)さんですよね?どうしたんですか?」
「いや、実はですね。ちょっとお話がありましてぇ〜」
「話。はい」
「最近真実田(まみた)くんと出掛けてるの知ってます?」
「あぁ。なんか、ぼんやりと」
「そこで、ま、真実田くんを着せ替え人形にして楽しんでたんですよ」
と言う希誦に
あいつ、着せ替え人形にされてたんか
と思う流来。
「んでそこでいろいろ聞かれまして。
彼氏へのプレゼント選びですかー?とか弟へのプレゼント選びですかー?とか」
「はあ」
「それで、ま、悩みを打ち明けたら、この相談所を紹介されまして」
「相談所」
「ま、ということで来ました」
と言う希誦。
「…」
鉛筆をイーゼルのキャンバスを置く「パネル受け」と呼ばれる部分に置く流来。
「なんで自分なんすか?」
「え?いや、真実田くんが悩みがあって、杉木くんに解決してもらったからオススメだよーって言ってくれて」
「…はあぁ〜…」
と言った後、鼻からため息のように息を吐き出す流来。
「別に自分はなんでも解決できるわけじゃないっすよ?
なんでもってか、逆に解決できる悩みのほうが少ないと思うし。明空拝にはたまたまハマったってだけで」
と言うが立ち去ろうともせず、ガッカリもせず、座ったままの希誦を見て
「…まあ、力になれるかはわかんないですけど、聞くだけなら」
と言う流来。
「ありがとうございます、真新宿の父」
と頭を下げる希誦。
「誰がですか。真新宿でもないし」
「いや、実はですね」
何事もなかったかのように悩みを話し始める希誦。
「真実田くんを着せ替え人形にしてたってのは、単に遊んでたわけではなくてですね?
こう…派手でおしゃれぇ〜な服を着たいけど、私って地味じゃないですか」
と言う希誦に同意も否定もしない、頷くと首を傾げる中間のリアクションをする流来。
「地味な私は着れないから、こう、ね?
女の子レベルに可愛い顔してる真実田くんに着てもらってたって感じで。ま、悩みってのが、そのぉ〜…」
今まで少し冗談を交えつつ話していた希誦が、きちっと座り直して
「あの…ま。派手な服を着たい、派手な髪にしたい、ピアスも開けたい
でも似合わないかもしれないし、周りの目とかも気になってっていうのが…悩み…でして」
とふざけずに、ありのままの悩みを打ち明けた。
ありのままを打ち明けた恥ずかしさからなのか、悩みを言っている間
顔自体は下に向いているわけではないが、視線だけが自然と流来のつま先に向いていた希誦。
しばしの沈黙が美術室を包む。すると希誦の目に入っていた流来のつま先がいなくなる。
え?
と思い視線を上げると流来は鉛筆持ってキャンバスに向かい合っていた。
「あのぉ〜…わたしぃ〜の悩みはぁ〜」
と希誦が言うと
「いやぁ〜、それ自分に言うんだぁ〜。と思って」
とどこにどう描こうと鉛筆を迷わせながら言う流来。
「え?」
「いや、赤髪で、絵の具が飛び散った白い服着てる自分に
派手なのは似合わないかもしれないとか、周りの目がどうとか」
「いや、杉木くんは似合ってるじゃないですか」
「それは周囲が思うことじゃないですか」
「…まあ…たしかに?」
「自分だって生まれつき赤髪だったわけでも
小学生のときから絵の具飛び散った白い服着てるわけでもないんですよ」
「まあ、そりゃーそうですよね」
「そうです。…。自分が赤い髪にしたのは高校…」
高校1年の夏休みのことを思い出し、少し胸が苦しくなって
鉛筆を持つ手を見ながら荒くなった呼吸を整えるため、静かに鼻から深呼吸を繰り返す流来。
「…高校1年の夏休みでした」
流来の頭の中には、金髪にした流来を親友が笑っているという思い出や
家族のリアクションなどが映し出されるが、必死にそれをかき消そうとする。
「…金髪にしたときは親友にも笑われましたよ。家族も「なにその頭」みたいなリアクションで
赤髪にして学校に行ったら「なんだよお前それ」とかいろいろ言われましたよ。でも…」
あいつは離れなかった…
また親友の笑顔、そして家族の顔が浮かびそうになったので、必死にかき消す。
「でもみんなすぐ慣れてなにも言わなくなったし」
「そう…なんですね。…最初染めるとき、みんながどう思うか、とか不安じゃなかったですか?」
「不安でしたよ。似合わないかもしれないとか」
「でも、それでも染めたのは」
「自分がやりたかったからです」
と語気が強いわけでもないが、どこか力強く、芯があるような言葉だった。
自分がやりたかったから
と心の中で復唱する希誦。
「周りに笑われようが、似合わないと言われようが、自分がやりたいから染めました。
別に自分が染めたからって周囲に迷惑をかけることはない。じゃあやろうって。
誰かに迷惑をかけるなら考えたりしましたけど、たぶん誰にも迷惑をかけないなら
やらずに後悔するより、やって後悔したほうがいいと思ったので。
ま、笑われて嫌だったり、似合わなければやめればいいだけなので」
「…たしかに」
「それに…」
また親友の顔、そして家族の顔が思い浮かびかけて、必死にかき消す。
「髪を赤くしようが、…ま、自分はしてないですけど、派手な服装に変えようが
ピアスしまくろうが、離れないって信じられる人がいたんで」
「…。でも見た目が変わったら人の見る目なんて変わるじゃないですか」
「まあ…。そうですね。でもそれはその人の中身を知らない人だけだと自分は思います。
その人の中身が好きだって言ってくれる友達、親友なんかは
見た目が変わっただけで離れてはいかない、はずです。離れてったらその程度の関係だったってことです」
「…」
流来の言葉が心に刺さる希誦。
「でも、離れないって信じてる相手が、もし離れちゃったときは」
「…」
流来の回答を待つ希誦。きっといい解決策があるはず。そう期待する。
「それは…しょーがないんじゃないんですか?」
「へ?」
思いもよらぬ回答に思いもよらぬ音が口から出た希誦。
「それはしょーがないでしょ。どうしようもないですよ」
「じゃあ」
「それが怖い、嫌だってならしないほうがいいですよ。友達だって大事ですからね」
「ま…そうですよね…」
「なにに重きを置くかじゃないですか?」
「重き」
「友達7に、イメチェン…っていうのかな。
ま、派手な服とか派手髪とかピアスっていちいち言うのめんどくさいんで
ここではイメチェンとさせてもらいますけど
友達に7、イメチェンに3重きを置いてるんならイメチェンは捨てたほうがいいです。
友達4にイメチェン6ならイメチェンしたい欲が強いと思うんで、やればいいと思います」
「5:5(ゴーゴー)だとしたら?」
「んんー…。友達が離れないと何%信じられるか」
「…」
「自分はこの世に100%はないと思ってるんで
自分がイメチェンしても、今付き合ってる友達が離れないと思う。が80%ならやればいいと思います。
40%くらいなら…やめといたほうがいいと思います」
「そっか…。みんないい子たちなんですよね…」
「あぁ、大学で一緒の、あの3人ですか」
「はい」
「…ま、自分が「あの3人なら大丈夫じゃないっすか?」とか言えないし
そもそも自分より白風出さんのほうがよっぽどあの3人のこと知ってると思うんで
あとは白風出さん次第じゃないですか?
あの3人なら大丈夫って信じてイメチェンするのか、離れちゃうかもしれないからっていってやめるか」
「…」
悩む希誦。
「でも、大学デビューって、側から見たらイタくないですか?」
と苦笑いで言う希誦。
「…んん〜…。ま、自分も高校デビューしたようなもんだしなぁ〜…」
「でも、杉木くんは小学生の頃から陰キャじゃなかったでしょ?」
「小学生の頃から陰キャとか陽キャとかあるんすか」
「あるでしょ」
「…てか白風出さんも陰キャじゃなかったでしょ」
「…わかんないです」
わからんのかい
と思う流来。
「でも陰キャが高校デビューとか大学デビューしてたら、過去知ってる人からしたら
いや、高校デビュー、大学デビューって、過去を知らない人もわかると思うんです。
それってイタくないですか?イタいってか、見てられないっていうか。
背伸びして自分を偽って。自分を大きく、良く見せようとしてて」
「でも、それって今の白風出さんも同じじゃないですか?」
「は!?どこがですか!?」
と言う希誦に
今の反応の仕方は陰キャじゃない
と思う流来。
「“自分を偽ってる”って、白風出さんもじゃないんですか?
ほんとは派手になりたい自分を、背伸びとは反対に屈んで、自分を小さくして隠して
周りに良く見えるようにしてるって」
「…」
「白風出さんが高校デビュー、大学デビューをイタいって思ってるなら、猫被ってる人はどう思うんです?」
「それは…」
「ファンを金、ファンを知名度を上げる道具、ファンを無数のフォロワーの1人と思ってるけど
ファンの前では「いやぁ〜、来てくれてありがとぉ〜。
私が有名になっても○○さんだけは忘れないからね!」って言ってる猫被ってるアイドル変わんないでしょ」
と言う流来に
「ひどいな…」
と苦笑いしながら言う希誦。
「白風出さんはそんなんじゃないと思います。
でも人に好かれるために、嫌われないために猫被ってる点では同じだと自分は思います」
「まあ…。たしかにキモいか」
「ま、いいと思いますけどね。
自分を新しくするために高校デビューするのも、大学デビューするのも、猫被るのも。
ただ白風出さんの言ってることもわかります。背伸びして自分を大きく見せようとするのはイタいって。
でも、それって周りも気づくと思いますよ。さっき白風出さん、自分のことを陽キャって言いましたよね?」
「はい」
「仮に自分が陽キャだとして、自分が猫被って陰キャの中に混ざったとしても
同じグループの陰キャの子とか、なんとなくわかると思いますよ。
逆もそうです。陰キャの子が高校デビューして無理して陽キャ集団に混ざったとしても、バレてると思います。
いずれボロが出て、綻びが生まれて、自分の居場所が無くなる。
それだったら背伸びもせず、自分を良く見せようとか
自分を大きく、小さく見せようとはしないで、ありのまま、自分がしたいことをして
その過程で自然と変化していくのを受け入れたらいいんじゃないですかね」
「なるほど…」
「ま、いろいろ言いましたけど、それでもやっぱり友達は大事だと思うんで、後は白風出さんにまかせます。
自分はどっちがいいとは言えないです。自分がしたいようにしてみるか、自分を押し殺すか」
自分を押し殺す
その言葉が希誦の胸にずっしり沈むようにのしかかった。
「そっか…。押し殺してたけど、“やりたい”ってのが本来の自分の意思なのか…」
と呟く希誦。流来はチラッっと振り返る。すぐにキャンバスに向き直る。
「ま、やりたい欲ってのは自分なんじゃないですか?やれるときにやるってのは1つの手かと思いますけど。
社会人になったら髪の色とかも自由にできない職業のほうが多いと思いますし…。…」
また親友の顔が思い浮かびそうになる。
「…優恵楼(ゆけろう)、今いたらなにしてたんだろう。…なに…したかったんだろう…」
そう呟きながら鉛筆を握る力が強くなる。まるで涙が溢れるのを必死に押し殺すかのように。
「杉木くん!」
希誦に呼ばれて我に帰る流来。
「は、はい」
振り返る流来。
「ありがとうございます!」
「…いや。結局自分で決めたんですから、自分はなんも」
「杉木くんモテたでしょ?」
「…いや、高校時代は女子とあんま関わってなかったし」
「あ、そうなんだ。ま、とにかくありがとう。数日大学休むかもだけどよろしくね」
「自分に言われても」
「じゃ、今日は帰るわ」
「はい」
「ほんとありがとうございます。またね」
「はい」
と希誦は笑顔で美術室を出ていった。大学の出入り口に向かうまでに明空拝と出会い
「おぉ〜。え、あ、もう帰るんですか?」
と明空拝に声をかけられた。
「おぉ。うん、帰る。帰ってすぐいろいろやりたくて」
「?あの、ジャスミンミルクティーありましたよ?」
「お。あ、ありがと」
と明空拝から受け取る希誦。
「これ美味しいから真実田くんも今度飲んでみて。じゃ」
と言いながら走って帰っていく希誦。
「なんか…明るくなった?テンション高いだけ?」
と呟き、美術室まで歩く。
「…。あ」
悩み解決したのかな
と思って美術室へ進む足取りが軽く、そして早くなる明空拝。
「お疲れー!」
バンッ!っと音がするほど元気よく美術室に戻ってきた明空拝。ビクッっとする流来。
「ビッ…クリしたぁ…」
「どうだった?どうだった?」
「…。計ったな?」
「…。ん?え?なんのこと?」
「明空拝の手引きだとは…」
「まあまあ。で?お悩み解決したん?」
「さあ。解決したのかは知らないけど、本人の中では、なんかしら決心はついたっぽいけど」
「へえぇ〜」
「なんか何日か大学休むらしいよ」
「へぇ〜。なんで?」
「知らん」
「ふぅ〜ん。なんでだろ。あ、ミルクティーとレモンティー、どっちがい?」
と美術室で話す流来と明空拝であった。
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