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「とーうちゃーく!!」
妹は満足気に、両手を上げてそう叫んだ。
一方の俺たちはと言うと……ロキを始め、俺と伊織はぐったりとしていた。
「皆さん、大丈夫ですか……?」
セージは心配そうに、俺たちを見る。
「な、なんで……お前は普通なんだよ、バカセージ……」
「うーん……普段、教会に来る子供たちと毎日遊んでるから、かな?」
セージがニッコリと答える。それを聞いた俺は「つまりウチの妹は、教会に来る子供レベルか……」と、妹に聞かれないよう小声で呟く。それを聞いた伊織が、納得したように「なるほど……」と頷いた。
「もー! なんで皆、そんなに疲れてるのさ! 今から魔法について、調べられるんだよ!? そんなに疲れてて、ちゃんと調べられるの!?」
妹は「この軟弱者共め!」と言わんばかりに、両腕を組んではぷりぷりとお怒りになっている。
「このアホヒナ! お前が店とは逆方向に突っ走っていくから、どんどん遠回りになってったんだろうが!」
そうなのだ。妹がロキの手を掴んで走り出したところまでは、百歩……いや、千歩譲ってよかった。……しかし、ロキの制止を聞かずに突っ走った妹は、己の直感を信じて疑わずに行動をし……結果、遠回りに遠回りを重ね、やっとの思いで目的の店に辿り着いたのであった。
「普通に行けば、あそこから十分もかからねーよ!」
そうなのか? ここに来るまで、三十分近くかかった気がするが?
「むっ、そうやってヒナちゃんを責めるのは良くないと思いまーす!」
「事実だろうが! アホヒナ!!」
「アホじゃないもん! ロキロキの意地悪ーっ!」
「二人共その辺で……」
「そうだよロキ、一旦落ち着こう」
妹とロキの口喧嘩を、伊織とセージが止めに入る。
そんな四人を横目に俺は、人通りの少ない場所に建つ、目の前の建物を見る。
看板などは特になく、なんの店かは全く分からない。それに、店だと言われなければ、絶対に分からずに素通りしてしまいそうだ。
ここまで来る途中、街の様子を見た。
魔獣騒動から日が経ってることもあり、瓦礫などは粗方は撤去された。
復興作業もだいぶ順調のようで、耳をすませばあちこちから金槌で杭を打ちこむ音や、指示を出す声が聞こえてくる。
「騒動から日が経ったとはいえ、えらい綺麗になってるんだな。ココら辺は」
「いや、そもそもココらには魔獣は来てねぇんだろ」
気分が落ち着いたのだろう。隣に来たロキの言葉に、俺は「どゆこと?」と、首を傾げる。
「ココら一帯には、ちょっとした『まじない』が施されてるんだ」
「ほん……?」
素人にはよく分からんが、きっと何かしらの魔法がかかっていたのだろう。
「つまり、危ねーヤツや変なのがココらに来ないように、簡単な魔法がかかってるんだよ。……まぁ、あの変な道化師の目は無理だろうが、あの程度の魔獣なら誤魔化せられるくらいのな」
理解しきれていない俺を見透かしたロキが、呆れ混じりに補足の説明をしてくれた。
「あー、なるほど。完全に理解したわ」
納得した俺は、手を『ポンッ』と叩く。
「じゃー、さっさと入って用を済ませるぞ」
「あぁ、そうだな」
ロキはそう言って、建物の扉の前に立つ。
……すると、ロキはドアノブに手をかけるのではなく、何故か片足を軽く上げる。
――――と、そんなロキに気づいたセージが、突然慌てた表情をしだし……。
「ちょ、ちょっと待って! ロ……――――」
――――バァァァァン!!――――
ロキは容赦なく、思いっきりドアを蹴って破った。
「……えーっと、コレがこの店での挨拶……なのか?」
一応、俺は指をさしながらセージに確認をする。
「ち、違います! 絶対に! 断じて! 本当に! 違いますっ!!」
全力で首を横に振るセージに「デスヨネー……」と、黙ってロキの行動を見守ることにする。
ロキが建物の中に入る。俺たちはそっとドアの壊れた入口から覗き込むように、ロキと店の中の様子を伺う。
建物の中は、こじんまりとしていた。
よく分からないお面や置物などの小物。それとアクセサリーなどが並んだ、小さな雑貨屋のようだ。
「オラ! 居るのは分かってんだ! さっきから小賢しい真似してねーで、とっとと姿を現せ!!」
どこぞのヤーさんかチンピラの取り立てみたいなロキに、若干引きつつ……いや、正直に言えばドアを蹴破った時点で引いてはいた。……が、誰かわからないこの店の店主に、何となく同情する。
反応がなく、ロキは店内を見渡すと、そっと目を閉じる。
「……《索敵》!」
そう呟いて数秒後。
ロキは店の隅に置かれた、壺をジッと見る。すると、人が一人入れそうな大きな壺が、一瞬『ガタッ!』と大きく動く。
そんな壺の前へロキは近づくと、仁王立ちになって中を覗き込む。
「……随分とまぁ、手の込んだことしをて……なぁ? シ・ラ・ギ・ク……?」
ロキがニッコリと笑った……かと思えば、次の瞬間には『キッ!』と睨みつける。
「オラ! さっさと壺から出てこい!!」
そう言って、壺を一度蹴る。
「ヒィィィイイ……っ!!」
すると壺の中から、女性の小さな悲鳴が聞こえてきた。