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みら

5,141
#BL
kaede🍁
14,585
その日。
阿部と深澤は、佐久間の家で渡辺にマッサージを教わっていた。
床にはヨガマットが敷かれ、テーブルの上にはオイルやクリームが並んでいる。
その少し離れたところで、家主の佐久間はソファに寝転がり、漫画を読んでいた。
ページをめくりながら、ふと顔を上げる。
「ねえ」
「何?」
阿部が答える。
佐久間は部屋の中を見回した。
「なんで俺ん家でやるの?」
阿部、深澤、渡辺。
三人はほとんど同時に答えた。
「ここが一番安全だから」
佐久間が漫画を閉じる。
「どういう意味?」
渡辺が当然のように言った。
「涼太いないし」
深澤も続ける。
「照もいないし」
阿部も頷いた。
「めめもいない」
佐久間は少し黙った。
「……俺ん家、避難所?」
「安全地帯」
「言い換えただけじゃん!」
三人は気にせず、マッサージの練習を続ける。
渡辺が阿部の後ろへ回り、肩へ手を置いた。
「ここ力入れすぎると痛いから」
「このくらい?」
「そう。もうちょっと外側」
阿部が頷く。
渡辺はそのまま首筋へ視線を向けた。
少しだけ襟元から見える跡。
「……あべちゃん」
「何?」
「まだゼロか百なの?」
阿部の手が止まった。
少し遠い目になる。
「……道のりは険しいよ」
深澤が吹き出す。
「まだ研究してんの?」
「してないよ」
「してる顔じゃん」
「今はもう研究じゃなくて調整」
佐久間がソファから口を挟む。
「それ研究と何が違うの?」
阿部は答えなかった。
渡辺は阿部の首筋を見ながら、少し呆れたように笑う。
「でも前よりはマシじゃない?」
「一応」
「一応なんだ」
「五十って言ったら百になった」
深澤が笑う。
「倍じゃん」
「だから道のりが険しいって言ってるの」
佐久間は漫画を持ったまま首を傾げる。
「基準がもう分かんない」
「俺も分かんなくなってきた」
阿部が真顔で答えた。
深澤はそんな二人を見ながら笑っていたが、ふと渡辺へ視線を向ける。
「でもさ」
「何?」
「翔太って、いつも跡ないよね」
渡辺がぴたりと止まった。
「……」
阿部も渡辺を見る。
確かに。
衣装で首元が開いている日もあるけれど、渡辺に目立つ跡が残っているところはほとんど見たことがない。
「舘さんって、その辺ちゃんと加減できるんだ」
阿部が感心したように言う。
渡辺は少し考えた。
それから。
「……違う」
「え?」
渡辺は周囲を確認するように一度だけ佐久間を見る。
佐久間は漫画を読んでいる。
たぶん。
聞いている。
でも。
いつものことなので気にしないことにした。
渡辺は自分のシャツの袖口を掴み、阿部と深澤を手招きする。
「ちょっと来て」
「何?」
「見れば分かる」
二人が近づく。
渡辺は少しだけ服をずらした。
普段なら下着に隠れて、まず見えることのない位置。
そこに。
かなり大きな跡が一つ残っていた。
「……」
「……」
阿部と深澤が同時に黙る。
渡辺はすぐに服を戻した。
「涼太は、跡つける場所ここって決めてるだけ」
阿部が瞬きをする。
「……大きくない?」
「大きい」
「いつの?」
「昨日」
深澤が目を見開く。
「昨日!?」
「声大きい」
「だって!」
阿部が笑いを堪えながら聞いた。
「じゃあ舘さんは加減できるんじゃなくて」
渡辺は遠い目をした。
「涼太もゼロか百しかない」
「仲間じゃん」
「嬉しくない」
ソファから佐久間の声が飛んでくる。
「翔太も大変なんだね」
渡辺が振り返る。
「聞いてんじゃん!」
「普通に聞こえるよ!」
「漫画読んでろよ」
「俺ん家なんだけど!」
佐久間の抗議は綺麗に流された。
阿部は少し嬉しそうに渡辺を見る。
「なんか安心した」
「何で」
「俺だけじゃなかったから」
「何も安心できないだろ」
「ゼロか百仲間」
「その仲間いらない」
二人が言い合っている横で、深澤だけが少し考え込んでいた。
「……でも」
「何?」
渡辺が見る。
深澤は自分の首元へ触れる。
「俺、最近照の百見てないかも」
今度は阿部と渡辺が深澤を見る。
「そうなの?」
「うん」
深澤は少し考える。
「普通に仲いいし、何も不満ないんだけど」
「じゃあいいじゃん」
阿部が言う。
「そうなんだけどさ」
深澤は首を傾げた。
「二人の話聞いてたら、ちょっと気になってきた」
渡辺がにやっと笑う。
「最終兵器着なよ」
深澤の顔が一瞬で変わる。
「絶対やだ」
「何で?」
「何でって」
深澤は以前のことを思い出したのか、少し顔を赤くした。
「あれは百超えちゃうから」
阿部が吹き出す。
渡辺も笑う。
「百超えるって何」
「百二十とかじゃない?」
「知らないよ!」
「照、あれ好きだったじゃん」
「だから二度と着ないの!」
深澤は真剣だった。
「帰ってくるまで一時間あると思って水飲みに行っただけなのに、帰ってきたんだよ?」
渡辺が楽しそうに笑う。
「事故だったね」
「事故だよ!」
「でも似合ってたって言われたんでしょ?」
「それは今関係ない!」
阿部が笑いながら深澤を見る。
「じゃあ、ふっかもゼロか百?」
「照は普段ちゃんと加減できる」
「百を見てないんでしょ?」
「……最近はね」
三人が。
少しだけ黙った。
そして。
ほぼ同時に。
ソファを見る。
佐久間は嫌な予感がしたのか、漫画からゆっくり顔を上げた。
「……何」
阿部が言う。
「佐久間」
深澤も続ける。
「佐久間なら」
渡辺まで。
「何か考えられるでしょ」
佐久間は三人を見比べた。
「待って」
嫌な予感しかしない。
「何で俺?」
阿部がにこっと笑う。
「前も成功したから」
「成功した結果、めめ百になったんでしょ?」
「最初は成功した」
「途中から失敗してるじゃん!」
深澤が佐久間の前へ座る。
「今回は照」
「何をどうしたいの?」
「百見たい」
「何で!?」
渡辺も当然のように加わる。
「でも最終兵器は禁止」
「条件増えた!」
阿部が指を一本立てる。
「あと翌日に支障が出ない範囲」
「またその条件!?」
渡辺も続ける。
「跡は見えないところ」
「俺、何の会議に参加させられてるの?」
深澤が佐久間を見る。
「作戦考えて」
阿部と渡辺も声を揃えた。
「考えて」
「無茶振り!」
佐久間は頭を抱えた。
漫画を読んでいただけだったはずなのに。
気づけば。
阿部と目黒。
渡辺と宮舘。
そして。
今度は深澤と岩本。
三組分の“ゼロか百問題”が、なぜか自分の家へ持ち込まれている。
「……俺ん家、本当に何なの?」
佐久間が呟く。
阿部が即答した。
「安全地帯」
「だから言い換えただけだって!」
リビングに笑い声が響く。
そして。
マッサージ講習だったはずの時間は。
いつの間にか。
新しい作戦会議へと変わろうとしていた。
佐久間はソファに座り直し、三人を順番に見た。
「でもさ」
「何?」
深澤が聞く。
佐久間は少し不満そうな顔をする。
「どこも痛くも怠くもないなら今の方が安心なんだけど」
阿部が吹き出した。
「またそれ?」
「だってそうじゃん!」
佐久間は真剣だった。
「普通に起きて、普通に仕事行けて、衣装さんにも何も相談しなくてよくて。そっちの方が絶対いいじゃん」
渡辺が頷く。
「まあ、それはそう」
「でしょ?」
佐久間は少し得意げになる。
深澤が笑った。
「またお母さん出てるよ」
「出てない!」
阿部も笑いながら佐久間を見る。
「でも作戦は考えてくれるんでしょ?」
「……考えるけど」
結局。
考えてくれるらしい。
佐久間は腕を組み、深澤をじっと見る。
「ふっか」
「何?」
「普段、家で何着てるの?」
「家?」
「うん。部屋着」
深澤は少し考える。
「スウェット」
佐久間の顔が変わった。
「ダメ」
「何で!?」
「かわいいのに変えて」
「急だな!」
「付き合い長いからって、だらけちゃダメでしょ」
深澤が目を丸くする。
「スウェットの何が悪いんだよ!」
「悪くはないけど」
佐久間は深澤を指差す。
「百出してほしいんでしょ?」
「……まあ」
「じゃあ多少は努力しなよ」
渡辺が横から頷く。
「それは分かる」
「翔太まで!」
阿部も少し考える。
「でも最終兵器はダメなんでしょ?」
「絶対ダメ」
深澤は即答した。
「あれは百超えるから」
佐久間はしばらく考え込む。
かわいい部屋着。
でも最終兵器ほど強くない。
岩本の性格。
深澤との長い付き合い。
そして。
ふと。
顔を上げた。
「照には」
少し間を置く。
「『全部ちょうだい』がちょうどいいんじゃない?」
部屋が静かになった。
阿部が佐久間を見る。
渡辺も見る。
深澤だけが。
ゆっくり眉を寄せた。
「……それ、あべちゃんが失敗したやつじゃん」
佐久間はすぐに返す。
「でも照って真面目じゃん」
渡辺が「ああ」と声を漏らした。
「確かに」
深澤が二人を見る。
「何が?」
渡辺は少し考えながら言う。
「照なら、全部ちょうだいって言われても、百以上はしないかも」
「俺もそう思う」
佐久間が頷く。
「ふっかの様子見ながらやるでしょ」
渡辺はさらに考える。
「やるなら、次の日オフのタイミングがいいと思う」
深澤が渡辺を見る。
「何で?」
「照、真面目だから」
「また真面目出た」
「いや、本当に」
渡辺は真顔だった。
「次の日仕事って分かってたら、たぶん結局セーブするじゃん」
佐久間も頷く。
「あー、ありそう」
阿部も。
「照ならありそう」
深澤は少し考える。
確かに。
岩本なら。
明日早いとか。
仕事があるとか。
そういうことを知っていれば。
どれだけ自分が誘っても。
結局。
途中でちゃんと止める気がする。
「じゃあ……休み前?」
渡辺が頷いた。
「それが一番じゃない?」
「かわいい部屋着着て」
佐久間が続ける。
「ふっかから近づいて」
「うん」
「『全部ちょうだい』」
深澤の顔が少しずつ赤くなる。
「……恥ずかしくない?」
三人が同時に答えた。
「恥ずかしいよ」
「そこは否定してよ!」
笑い声が広がる。
その横で。
阿部がふと渡辺を見る。
「でもさ」
「何?」
「俺らも百を出さずに五十くらいにする方法、考えた方がよくない?」
渡辺が少し黙る。
「……それは思った」
佐久間が嫌そうな顔をする。
「まだやるの?」
阿部は真剣だった。
「だって俺、五十って言ったら百になったし」
「倍じゃん」
渡辺も腕を組む。
「俺、百しか知らない」
「じゃあ五十作ろうよ」
「作るって何」
「中間」
阿部と渡辺が、いつの間にか本気で考え始める。
「めめはおねだりした時点で上がるから」
「涼太は場所指定しても百だな」
「じゃあ言葉じゃなくて時間?」
「時間決める?」
「でも途中で時計見るの嫌じゃない?」
「それは嫌」
「じゃあ回数?」
「何の回数だよ」
「分かんない」
二人の会話が。
どんどんおかしな方向へ進んでいく。
佐久間はしばらく黙って聞いていた。
そして。
とうとう口を挟む。
「あのさ」
阿部と渡辺が振り返る。
「何?」
佐久間は二人を指差した。
「あべちゃんと翔太は」
少し間を置く。
「もうスウェット着なよ」
「……え?」
「何で?」
二人が同時に聞く。
佐久間は真顔だった。
「もう刺激いらないでしょ」
阿部が眉を寄せる。
「俺、最近普通の服しか着てないよ」
「それでも百なんでしょ?」
「……百」
「じゃあスウェット」
渡辺も不満そうに言う。
「俺、別に服で百になってるわけじゃないけど」
「でも百なんでしょ?」
「……百」
「じゃあスウェット」
深澤が吹き出した。
「二人とも降格してるじゃん!」
「降格じゃない!」
佐久間は必死に否定する。
「安全対策!」
阿部が呆れたように言う。
「結局またお母さんじゃん」
渡辺も頷く。
「完全に保護者」
「違うって!」
深澤は笑いながら、自分だけ少し得意げになる。
「じゃあ俺だけかわいい部屋着?」
佐久間が頷く。
「ふっかは今から百を出したい人だから」
「なんか言い方やだな」
「目的が違うんだからしょうがないでしょ!」
阿部が深澤を見る。
「頑張って」
渡辺も。
「次の日休みの日ね」
「二人とも他人事だと思って!」
「俺らはもう百見てるから」
「見たくて見たわけじゃないけど」
佐久間が頭を抱える。
「なんで俺ん家でこんな会議してんの……」
誰も答えなかった。
最初は。
マッサージを教わるだけのはずだった。
それなのに今は。
深澤は岩本の百を出す方法を考え。
阿部と渡辺は、それぞれの恋人の百を五十にする方法を考え。
佐久間だけが。
三人にスウェットを着せたがっている。
「……もう帰って」
佐久間が呟く。
三人が一斉に笑った。
コメント
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このストーリー全体が読者を笑わせに来てる(≧∀≦) 必ずタオルを持って読み続けるって、でも楽しい🩷の自宅は🖤💛❤️から逃れる為の安全地帯って表現がねヽ(^。^)ノ

今晩は☔️ 一気に読みました。 やりとり笑いしか無いです🤭 真剣に考えれば考えるほどコントになって居る 🩷が何故か悩み相談先生になってる…😅
💜がんばれって応援していいのだろうか?笑 続き楽しみです♪