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私が前世の記憶を取り戻したのがいつなのかは判然としない。
物心ついた時には既に前世があったと思うんだけど……
それと言うのも、前世の私の意識はあったんだけど、『シエラ』は私の思い通りには動いてくれなかったからなのよね。好き勝手に動き、喋り、感情を振り撒く『シエラ』に私は何も出来ず任せるしかなかったの。
だから、この頃の私はただの傍観者でしかなく、気が付いた時には『シエラ』に振り回されていたって感じ。
だけど、この『シエラ』が私の身体であるという認識はあったし、実際に彼女が受ける痛みも苦しみも、喜びも幸せも自分の事として感じられたの。だから、私と『シエラ』は同一なんだって分かったわ。
最初は異世界転生したって喜んだものだったけど、『シエラ』が私の意図とは反して動き回ると分かると軽く絶望したもんよ。
なんせ『シエラ』はまだ幼女で、前世の私は高校生。その思考のずれは激しいし、子供のめちゃくちゃな行動を自分の体で実行されるの。だから、たまったもんじゃなかったわ。
自分の思考も感覚もあるのに、身体が私の意に反して勝手に動き、子供の喜怒哀楽の感情が自然と湧いてくるのって最悪でしょ?
そんな状態にあって唯一の救いは、私を拾い育ててくれたシスター・ミレがとっても優しく良い人だった事かな。
シスター・ミレ――
私……『シエラ』にいっぱいの愛情を注いでくれたひと。
「ひっく、ひっく……しすたぁ~」
「まあ、どうしたのシエラ?」
「だっこ……」
「くすっ、寂しかったのね」
幼い頃はとって泣き虫で、寂しさにグズるシエラをよく胸に抱きかかえてあやしてくれた……
「しすたぁは何をしてるの?」
「神様にありがとうって、お祈りしているのよ」
「こうやるの?」
「そうそう……良くできたわね。シエラは偉いわ」
何かあれば彼女はシエラを褒めて頭を優しく撫でてくれた……
いけない事をしたら叱り、危険があれば身を挺して守り、いつも穏やかな笑みを向け、たくさんの温もりを与えてくれた。
それが嬉しかった、温かかった、幸せだった。
だから『シエラ』はいっぱいいっぱいシスター・ミレに甘え、そして誰よりも慕ったの。
私は自分の意思で体が動かず、シエラが勝手に動き回り、私の声はシエラに届かず、シエラがシスター・ミレに甘えるのをジッと見ているしかできなかったけれど、私も彼女のあったかい優しさはいつも感じていたわ。
だから、『シエラ』だけではなく、私にとってもシスターは誰よりも誰よりも大切なひと。
私と幼い『シエラ』は同一人物でありながら、その思考も言動もまるで別人だったんだけど、これだけは完全に一致していたのよね。
シスター・ミレ――
この美しく慈愛に満ちた素敵な女性が大好きだってこの想いだけは。
だから……
シスター・ミレの愛情がシエラの全て……
シスター・ミレのいる世界が私の全て……