テラーノベル
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. 続き .
. side : M .
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七時、俺がまだ会社にいる時間帯にケータイの着信音が鳴る。
通知画面を見ると、相手は和也。
運の良いことに、今は対談中ではないので、ケータイを取り出してそのメールの内容を見る。
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〖 飲み会いってくる 〗
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俺は〖 了解 〗と打って送信する。
飲み会か。そう言えば和也は飲み会にあまり行ったことがないと言っていたな。その理由は楽しくないからと言っていたが…ほう、今回は行くんだな。
珍しいと思いながらも仕事を再開する。
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それからどのくらいだろうか。腕時計を見ると十時をもうすぐで切るところだ。そこから車を走らせて自宅へ帰る。
普段なら和也がもう帰ってきていて、リビングの電気がついているはずだ。
…だが、リビングの電気はついておらず、家の中に入ると和也の靴すらなかった。
リビングの電気をつけるとそこには放って置かれた和也の鞄がひとつ。
予想をするにまだ帰ってきていない、ということだ。
…しかし、飲み会だからな。少しくらいは遅れるだろう。
そう思い、テレビの電源をつけて冷蔵庫から酒を出す。あとちょっとしたつまみも。
和也がいないから、飯はない。きっと飲み会から帰ったら作る予定だったんだろう。
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おかしい、門限を過ぎてから三十分は過ぎていると言うのに帰ってこない。
心配をして和也に電話を掛ける。
…
不在着信のアナウンスが聞こえてこない。きっと電源はついているのだろう。だが、約束の5コールを過ぎても一向に出ようとはしない。
どういうことだ?
危ない状況なのか?それとも、飲み会なのか?困惑と不安でいっぱいになる。
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どのくらいたったのだろうか、暫く和也のことで頭を抱えていた。
始めのメール以降、和也からのメールは一切来ていない。
…探しに行こう。
椅子から立ち上がる。リビングの電気を消して靴を履く。
家から出て、まずは会社からの帰路を辿る。
─家から三百㍍のところで車とすれ違う。
一瞬、車の中を見る。
…はぁ?
そこには、たった一瞬だが、和也の顔があった。
俺はその車を追いかける。
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追いかけた先は一般的なアパートだった。
俺がそのアパートを見る頃には、和也はもう一人と誰かを肩を貸して運んでいい姿が見える。もう一人の姿に見覚えがあった。
うちの父と少し縁がある大野財団の息子、大野智。
そうか…今頃か、今頃、帰ってきてんだな。同僚でもない奴と。
俺は遠くでその姿を見つめる。
バレても構わないが、和也は見向きもせずにアパートの中へと入っていった。
このアパートは、見るとオートロック式のアパートらしく、他人は簡単には入れない様なので、アパートの廊下が見える位置まで下がる。
外からアパートを見上げて暫く経つと、二階の左から三番目の部屋から、和也が突然飛び出してきた。
和也はなにか慌てている様子で、走っていた。
時間か?、だが、なにかそうではない気がする。
アパートの出入口に近づく。アパートの出入口の自動ドアが開くと、そのタイミングで和也がアパートから出てきた。
「おい、どうし─
和也は、目の前の俺にも気付かずに横を通り抜けていく。
周りが見えていないかのように。
和也はそのまま駐車場に走っていった。
…何があったんだよ。
運んでいた奴は酔い潰れて寝ていたっぽかったけど、もう一人は楽しそうに会話していたじゃねーか。
そいつといったい何があったんだよ。
俺は和也の後を追う。
駐車場には、踞って肩で息をしている和也の姿があった。
近くに行くと、荒い息をしながら、ボソボソとなにか呟いていた。
よく見ると、体は震えており、腕の間から見える顔は泣きそうな顔をしていた。
こんなとこでなにやってんだよこいつ。
「はぁ、はぁ…
「おい、
俺が声をかけたとき、和也の呼吸と動きが一瞬止まる。そして和也は、恐る恐る顔を上げる。
和也は驚きと絶望が混じったような顔をして俺を見上げる。
なんだよ、その顔。俺がお化けみたいな顔じゃね~か。
…その瞬間、怒りが沸いてきた。
どうも和也の顔が気に食わなくて、胸ぐらを掴んで強制的に立たさせる。
「いっ…
その勢いで壁に当ててしまったようで、和也は痛そうな声を上げる。
…今はそんなことはどうでもいい。今俺は心配よりも怒りの方が多い。
「お前さ、門限何時か分かるよな、
「へ、…ぁ…十、時…、
和也は震えた声で喋る。焦っているのか、じぃっと俺の目を見つめてくる。
「今何時だよ、
そう俺が聞くと、和也は焦って時間を確認する。
腕時計の時刻を見た瞬間、和也は気付いて一気に血の気が引いていた。
…今更かよ。
俺は呆れる。時間すら把握してない和也に。
「いや、えっと、…今日、飲み会で…
「飲み会なら、なんでここにいて、走って、顔を真っ赤にしてんだよ。
「その…えぇっと…それは……
しどろもどろな今何時だよ。言い訳をする和也にまた沸々と怒りがこみ上げてくる。
「なんだ?ここでなにをしてたんだよ。
「あぁ…えっと、飲み会の、帰りで、人、送ってただけ…だよ?
和也は困った顔で俺を見上げる。
…だから、そんな顔で俺を見んなって。
「へぇ、一緒に入っていった奴は誰だよ。
「いや…家まで送ったり運ぶの手伝ってくれただけだよ…
一瞬俺から目が離れる。運ぶだけじゃあ、あんな出てくるの遅かったり、走って出てくる必要ないだろ。
アパートの方からドアが開く音がする。
誰だと思い、出入口を確認すると、そこにはさっき和也と居た大野智が居た。
「あれ…にのと…松本さん?
なにもなかったような顔で、俺らを見てくる。
お前のせいだろ…
だが、これでも父が世話になっている身だから、一応感情を表には出さない
「…大野さん、こんなところで奇遇ですね。
「…はは、そう、ですね。
大野智はこの状況に驚いているのか、はたまた引いているのか、苦笑をしている。
「それ、何してるんですか…?
「…あぁ、別に、大野さんとは関係ないので大丈夫ですよ。
早く帰らせないと、面倒くさいことになりそうだ。
「…いやでも、流石にこの場面は見過ごせないっていうか…
…こいつ、やけにしぶといな。遠回しに帰れって言ってるの気づかないのか?
「…そういえば、大野さんは和也と中で何していたんですか?
「いや、特になにも。
大野智は知らんぷりをする。
んな訳ないだろ。何もなかったら和也はあんなにはなんないと思うんだが?
俺は疑いの目を大野智に向ける。
「へぇ、なにも、ですか…本当にそうですか?
「ええ、なにもありませんよ?
結構口割れないなこいつ…
ふと和也を見ると、必死に助けを求めているかのように大野智を見つめていた。
…やっぱり、なんもないなんて嘘だろ。
「…離してあげたらどうです?その子、可哀想ですよ。
わざと知らないふりねぇ…
無理がありすぎる冗談に笑みが溢れてしまう。
「可哀想…かぁ、へぇ。
和也を見ると少し嬉しそうな顔をしていた。
…はぁ、こんなことしてもどうにもならないだろうな。
「それじゃあ、俺らはこれで。
一瞬安心した和也を横目に、手首を掴んで、連れていく。
一向に俺の怒りは収まらない。
それに、和也も全然反省していないようだ。
「ぁ、ちょッ…ま、じゅ、潤くんっ!
そうやって声をかける和也を無視して、俺はどんどん歩みを進める。
振り返らずに、
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