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今日は遂に散歩に出かける。相変わらず首輪は外してくれないのでマフラーを巻いて隠す。耳と尻尾も隠してリードの代わりに手を繋げば完璧だ。事情を知らない他の人からすれば夜中に二人で手を繋いで歩く成人男性2人に見えるんだろう…しかしそんなことを気にしている場合ではない。おいもがバレなければいいのだ。「おいもー、散歩行くで。」
声を掛ければよろつきながら立ち上がった。うん、練習の成果出てるな!手を繋いで支えてやれば嬉しそうに擦り寄ってくる、人間に擦り寄られるのにもだいぶ慣れてきた。緊張の一瞬。玄関の扉を開け外に出た…瞬間、インターホンを押そうとしているあっとと目が合う。…は?なんで?
「おー、ぷり!ちょうど近く通りかかっ…ん?友達?タイミング悪かったか…」
幸いあっとにはバレていない。
「そうなんよ!ちょうど酒切らしてたから買いに行くとこ」
適当に嘘を並べている間にもおいもの事がバレないかと不安で冷や汗が背中を伝う。あっとの視線が俺の手を捉えた。
「あぁ、邪魔したな。ごめん」
うわ、最悪や。こいつ俺らが手繋いでるの見て最悪の勘違いをしている。でも帰ってくれるのならありがたい。
「ごめんな!また今度飲もうや!」
今はその勘違いを利用させてもらおう。何とかやり過ごせそうだ…と安堵したのも束の間。じーっとあっとを見ていたおいもが急にわん!っと鳴いた。終わりや。もう全てが終わった。見て、あっとの顔。こいつまじかって顔してるやん。
「おいも、帰るで。あっとも来てや」
あからさまに落ち込んだ顔をしてるけどお前のせいやで。あっとを家に招けばおいもを寝室に連れていきマフラーを外してズボンと帽子を脱がせる。縛り付けてあった尻尾を解放してやればぶんぶんと振り回して部屋から飛び出して行った。
「は!?」
あっとが驚く声が聞こえる。そりゃあそう、俺も最初は驚いた。
「あっと。落ち着いて聞いてくれ、こいつはおいも。俺がこの前拾った犬…」
名前に反応したのか俺の方へ戻ってくると擦り寄ってきた。おいもを撫でながらこれまでの経緯を説明する。説明って言っても俺も何が起きているのか分からないからただ起きたことを並べて伝えただけだ。
「なるほどな…急に人間になってたのか…」
話を聞いたあっとは納得した様子だが、なぜそんなにすんなり受け入れられるんだ…。どこから来たのかぴのがソファに座るあっとの膝に飛び乗った。2人と2匹…耐え難い沈黙が流れる。
「人間になっても行動は犬のままなんだな」
沈黙を破ったのはあっとだった。俺より背の高い人間が四つん這いで歩き回っているんだからそりゃあ気になるか。
「そうなんよ、それが一番困ってる。」
あっとと二人おいもの行動を目で追う。見られていることに気付いたのかおいもはこちらを見ると、嬉しそうにわん!と鳴いた。
その鳴き声に掻き消されていた通知音。この通知に気付かなかったことを後悔することになるなんて。