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蘭(らん)は約生後十ヶ月。意志ある蒲公英色の瞳と白黒のハチワレ、かぎしっぽを持つ猫だ。そして両前足の先がなかった。
ある年の冬、佐々木羅優音(ささきらゆうね)のもとに溝に子猫がいるというメールが入った
すぐさま送り主の友達、笹ノ葉嘉穂(ささのはかほ)と電話をしながら車に乗り込んで現場へ向かった。「あれ?ケガしてる!よく見えないけど」嘉穂が悲鳴のような声で言った。「え?ケガ?」「うん。でもよくみえないよ」「じゃあさ、ほら。前貸した捕獲器あるでしょ?あれを近くにおいてくれる?餌入れて。」「う、うん。わかった。じゃ、また電話かけ直すよ」
朝、子猫は捕獲器に入っていた。見ると、前脚の片方は半分ちぎれ、もう片方の半分は皮一枚でつながっているだけだった。どれほどの鋭い痛みと恐怖を味わい、ひもじさに耐えかねて捕獲器に入ったのだろうか。その痛々しい体で、いったいどうやったのだろうか。獣医師はトラバサミに引っかかった前足を自分で引き抜いたためだと言った。だが、トラバサミは今は違法だ。両前足を失った猫は野生では生きていけない。それに介護は大変だろう。「安楽死」という言葉が二人の頭をよぎった。だが、優音と嘉穂はそうしたくなかった。獣医師も同じだったようで、「では、手術をします。壊死した部分が感染しないためには肩からの切断になりますがそれでもよろしいでしょうか?」「はい。もちろんです。」両前足の肩からなくなるのは猫は嫌だろう。だが、安楽死よりかは、と、思ったのだ。この年にしては筋肉が少なかったが手術は無事成功した。
「優音」嘉穂が呼びかけた。「なに?」「あのさ、うちには猫嫌いの猫、もぐらがいるでしょ?だから‥その、優音が預かってくれないかな」「いいよ。引き受けた」優音は二つ返事で引き受けた。
名前は「蘭」と名付けた。初めて鳴いた声が、「らーん」と聞こえたからだ。「蘭、家族見つける?それとも、うちの子になる?」
避妊去勢手術を終え、譲渡会に参加すること三ヶ月。ある日の譲渡会、会場で声をかけられた。「あの、蘭って子、前足がほんとうにないんですか?」と聞いてきた女がいた。嫌な雰囲気の人だった。「はい。そうですよ」と優音が答えると、うえっと汚物を見るように顔をしかめ、そそくさと離れた。優音はふつふつと怒りが湧いてきた。前足がなくても懸命に生きているのに。蘭がこうなってしまったのは違法のトラバサミを使ったからなのに。それに失明しちゃった子や目がない子、下半身不随の子もいる。でもみんなみんな懸命に、今ある命で生きているのだ。
そして、あの女は誰からも犬猫を譲渡してもらえなかった。そして会社が倒産して大変なことになり、行方をくらませてしまったといいます。
「…蘭。絶対に幸せになろうね。」きっと自分のもとにはこれから保護猫、保護犬たちがやってくるだろう。蘭が蘭らしく生きれる家族を見つけよう。自分が引き取ってもきっと、蘭は保護猫のままという感じになってしまう。だから、見つけよう。蘭が蘭らしく、幸せに生きれる家族を。
そして四ヶ月目の譲渡会、ついに蘭は出会えたのだ。
自分を大切に思う家族に。