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「ほら、シーニャ付いてるぞ」
「フ、フニャ」
ようやく食事を終えたシーニャは、口周りにステーキのソースを付けていた。
「よし、これで綺麗になった」
「じ、自分でやれるのだ。アックはシーニャを子ども扱いするのだ!!」
「そんなつもりは無かったが……」
「次からは気を付けて欲しいのだ! ウニャッ」
それを備え付けのテーブルナプキンで拭いてあげたのだが、彼女の怒りを買ってしまったようだ。
「アック様、駄目ですよ~。シーニャもわたしと同じくらいの年齢なんですから!」
「そうだったな」
どっちかというとルティの方が幼い気がするが。
「で、す、が! 今度は是非ともわたしの口元を拭いて下さいっ!」
「お前食べ終わってるだろ」
「今じゃなくて、今度ですよっ! よろしくお願いします!」
「よく分からんが拭けばいいんだな?」
「はいっ!」
ルティはシーニャとは逆に子ども扱いをされたいということなんだろうか?
「ルティは小娘扱いされたいだけなの。シーニャはきっと恥ずかしいだけなの」
「ん? 怒ってはいないのか?」
「シーニャはずっとずっと大人なの。イスティさまも大人になって欲しいなの」
「そ、そうか」
「なの! ……ところでイスティさま。教会というのは、もしかしてアレなの?」
人化していないフィーサは誰よりも先に辺りを見渡すことが出来る。彼女が言う教会は、山を背にした場所に建っていた。人家から離れた所に佇んでいるが、様子を見るにすでに利用しなくなった場所に違いない。
わざわざそこに招待をして来る時点で、この町とは無関係の者と予想出来る。
外観は石畳で作られたことが分かるが、やはり人けの無い所にあるだけあって全体的に質素な造りだ。扉が無いのですんなりと中に足を踏み入ることが出来た――のだが、入ってすぐのこと。
声、あるいは何かの音が建物の中に響き渡り始めたのだ。
そして、
「むむむむ? こ、これは……どういうことでしょう!?」
「ウウウニャ!? う、動かないのだ」
「どうした、シーニャ、ルティ!」
「うぎぎぎ……手足が全く言うことを聞かなくてですね……ふんごぉぉ!!」
「アック、音を探して欲しいのだ……ウゥ」
入って早々におれとフィーサを除き、ルティとシーニャが全く動けなくなってしまった。魔法でも無ければ仕掛けていた罠でも無いようだが。
音のようなものが教会の中で響きまくっているものの、敵の姿が確認出来ない。不明な攻撃に平気なのはおれとフィーサだけということで、全く効いていないおれを褒め称えているのか今度は拍手が響く。
想像するに面倒そうな相手に違いないので、おれは声を張り上げ敵に出て来てもらうことにした。
『おい!! 目的がおれなら今すぐ姿を見せろ! さもなくば、問答無用でここを燃やす』
シーニャがいるのでもちろんそんなことはしないが、挑発をしないと出て来そうになさそう。
「イスティさま、上!」
フィーサの声と同時に、ナイフが数本おれに向けて放たれていた。
「……バーニングシールド」
向かって来たナイフの素材に関係無く、炎の盾を発動させそのまま跡形も無く溶かした。
おれにそれをやらせるあたり、どうやら相手はおふざけが好きらしい。
「面白い! この町でこんな面白いものが見れるとは!」
熱でナイフを溶かしたことに感動したのか、姿を見せない男の声が響き渡った。何ともまどろこしい奴だ。
「……そうか。それならアエルブラストも喰らうか?」
「遠慮するよ。同じ魔導士のようだから、様子を見させてもらった。今すぐ会いに行ってもいいかい?」
「好きにしろ」
おれの前に現れた男の姿は、どこかの帝国から逃げ出して来たような何とも面妖な格好をしている。片手には楽器のようなものがあり、話している最中も音を出しっぱなしだ。
「さてさて、まずは共鳴の教会へようこそ。自分は宮廷魔導士にして道化師でもある、スフィーダ」
「なるほどな。少なくとも、グライスエンドの人間じゃないわけだな」
「ご名答! キミもここの末裔では無いのだろう?」
「……アックだ」
どこの宮仕えかは不明だが、敵かあるいは。
「アック……いい名だね! 自分と上手く共鳴出来そうだよ」
「ふざけたことを抜かすな! ……気味の悪い奴だ」
宮廷魔導師のことはともかく、奴が出している音でシーニャとルティは動きを封じられている。おれは音波攻撃に耐性が無いはずだが、効いていないということは何らかの魔法属性の可能性が高い。
「イステイさまは音を出す魔法は出せるなの?」
「……ん? 音って言われても意識したことは無いな。何か思いつきでもあるのか?」
「わらわはもう対抗出来るなの」
フィーサはすでに奴からの攻撃を見極め、いつでも反撃に転じることが出来るようだ。
「さっきから何をごちゃごちゃと呟いているんだい?」
「――!」
「これが避けられるかな?」
「ぬっ……」
奴の言葉に身構えていると、
『アアアアアアアアアアアアア~!!』
奴は武器や魔法による攻撃ではなく、いきなり雄叫びに似た叫び声を上げた。
「な、何だ!?」
思わず耳を塞いでしまった。何とも意味不明だが、奴の叫び声が教会内に響き渡る。滑稽な感じだが、奴の声とすでに響いている楽器の音が共鳴し、見えない風圧が襲う。
元々ここの教会は音がしばらく留まる構造のようで、それを利用しての攻撃のようだ。だからといってルティたちのように動きが封じられる強さは感じられない。
『オオオオオオオオオオ!!』
スフィーダなる男は間髪入れずに声を音に乗せ、おれをめがけて地味に空気の圧をかけてくる。目に見えない攻撃に対し受け止めることが難しいと判断し、ひたすら避けることに。
「うぎぃぃ……アック様、パパッとやっつけてください~」
「ウゥ……アック、突っ込んで戦えばいいのだ!」
ルティとシーニャからはそんな声が届いてくるがどう対処すべきか。こうなると奴を調子づかせるだけだが、フィーサからは特に何の言葉も無い。
『アーアアアアー!』
声から発される息を触媒に音波を発生させているのか?
フィーサの方を見るが、彼女はまだ沈黙している。
「本当は歌を歌った方が有効なんだけど、自分は音痴なのでね。叫ぶだけで十分と判断したよ!」
「一応聞くが、それがあんたの技か?」
「ハッハッハ! 恐れ入ったかい? 自分の声と楽器の音が奏でて、それをダメージにすることが出来るのだよ!」
「……確かに驚いた。こういう意表をつく攻撃はされたことが無いからな」
「そうだろう、そうだろう~!」
油断しているようだしおれも真似てみる。
「それなら、これはどうだ?」
試しではあるが奴に向けてフリーズを放った。
しかし、
『アーアアーアアアアアアアー!!』
おれからの魔法に対し、奴は大きな口を開け声を発する。まるで防壁のような空気の壁を作り出して防いでいる。
「……なるほど」
一見すると馬鹿馬鹿しい攻撃手段に思える。それでもその音で彼女たちの動きを封じられた以上、突破口を開かなければならない。
「う~ん……歌か」
「イスティさまは歌えないなの?」
「いや、おれは無理だ」
「こんな所で恥ずかしがっていても仕方が無いなの」
沈黙していたかと思えば、おれに無茶なことを言い出すのはどうなんだ。
「そういうんじゃない……で、何か方法があるのか?」
「久しぶりにわらわを手に、思いきり振り上げて欲しいなの」
「……それだけでいいのか?」
返事をするよりもフィーサはおれの手に収まってきた。
彼女を使うしか無いか。
「アーハッハッハハ! どうだい? 手も足も出ないみたいだねえ?」
調子に乗っておれをコケにしている。だが、それもすぐに終わることになるだろう。
今まで沈黙していたフィーサがおれの手元に自ら収まった。どうやら機会をうかがっていたようで、奴の奇声と音の相乗による空気攻撃に対し振り上げるだけで何かをもたらすらしい。
「おやおや? ただの飾りだと思っていたけど、ようやくその剣を使う気になったのかな? 面白い! いいよ、実にいい!」
「遠慮なく仕掛けていいんだな?」
「もちろんだよ! どんな攻撃だろうと、自分には当たりもしないだろうからねぇ」
「――そうさせてもらう」
「いやぁ、楽しみだ」
奴は舐め切った態度を見せながらも、いつでも自分の声を発せられるように態勢を崩していない。対するおれは神剣フィーサを振り上げ、振り下ろすタイミングを見計らっているだけ。
おれ自身は特に意識を働かせたつもりは無かったが、神剣を手に振り上げていた時、奴の頭上をめがけて自然と飛び上がっていた。
「――な!?」
あっけに取られた奴にお構いなくそのまま振り下ろす。
「……貫け、≪ペネトレイト・ストライク≫!」
出て来た言葉は剣の技そのものだった。技の名は神剣フィーサブロスから浮かび上がっていた魔法文字《ルーン》をそのまま口にしただけに過ぎない。
振り下ろされた神剣と技は奴の全身にあっさりと突き刺さっていた。おれ自身は無意識に動作しただけだが、奴が思う以上に攻撃から貫きまでが早く、その早さに対応出来なかったとみえる。
「あ、あぁぁぁ……バ、バカな……何故――」
「音の共鳴が手の打ちようがないような最強の技だとでも過信していたか?」
「ガッ……ガハァッ……ち、ちくしょう。ただの魔導士では無かったのかよ……」
こうも見事に剣が突き刺さる場面は初めてかもしれない。もちろんそこまで痛めつける意思は無かったが、フィーサの威力が上がっていたのもあるだろう。
スフィーダは吐血を起こしながら、ダメージを負いながらおれに向き合っている。
「……悪いが、おれは魔導士じゃない。魔法は使うけどな」
「く、くそぅ……宮廷魔導メンバーを敵に回しやがったな?」
「宮廷魔導メンバー? それは初耳なんだが、おれを勧誘するつもりがあったとか?」
「そ、そのつもりでここへ呼んだ……だ、だが……」
そんな活動をしているとは驚きだ。
「……なるほど。それなら回りくどいやり方で仲間を苦しめるのはやめるべきだったな!」
「す、すでに、解けているはず……グ、グゥウ……」
そこまでの重傷では無さそうだが、思いのほかショックと衝撃を受けたようだ。おれから奴に回復をかけられないし、シーニャかルティにかけてもらうしかないな。
「ウニャ~! やっぱりシーニャのアックなのだ! さすがなのだ」
「アック様ぁぁぁぁ!! 信じていましたよ~!」
そう思っていたら、動けるようになった彼女たちが勢いよく走って来た。シーニャなんかはとどめを刺せとか言いそうだが、説得するしかない。
「嫌なのだ!!」
「アック様、それはいくら何でもあんまりですよ!」
「怒るのも無理は無いが……奴は十分に痛めつけられている。フィーサが突き刺さったままなのは見えるだろ?」
「ウ、ウウ……ウニャ」
「い、痛そうです。それに、フィーサをあのままにしとくのも見ていられないです~……」
スフィーダを貫いたフィーサは通常ならすぐに手元に収まる。だが今回の技で奴に突き刺さったままだ。
「そういうことだから、奴に回復をかけてくれないか?」
「わ、分かったのだ……」
奴を回復するというよりはフィーサの為にやってくれるみたいだな。
「助かるよ、シーニャ!」
「回復し終わったらご褒美が欲しいのだ。約束して欲しいのだ!」
「何でも聞くぞ。それじゃあ、頼む」
「ウニャッ!」
シーニャがおねだりをするとは珍しい。でもこれで奴も死なずに済んだはず。
「あのぅ、アック様~」
「ん? どうした、ルティ」
「わたしは何をしたらいいのでしょう?」
「そ、そうだな……」