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「それ食べてみたい。え? 俺の体力が残っていたらね」
現在午後五時七分。新曲の振り入れがありメンバー揃って事務所のレッスン室に来ていた。一時間程練習したあと、今は十五分間の休憩だ。
今後のスケジュールを確認する者。部屋のど真ん中で寝てみたり、水分を摂るなど各々自由に休憩時間を過ごしていた。そんな中、勇斗はある人物が気になっていた。
吉田仁人である。レッスン室の端で電話をしている彼を大型ミラー越しに盗み見る。砕けた話し方からするに、適度に他人と距離を取る仁人が相当心を許している人なのだろう。
──なんか妬けるなあ⋯⋯。
勇斗は水を取る素振りで彼に近寄り、聞き耳をたてる。
「テイクアウトできるの? いいじゃん、その時は買ってきて。えー、お願い!」
電話越しだというのに首を傾げ、無意識にぶりっ子をしている。仁人の可愛い仕草に勇斗は見入っていた。
「うん。十九時には終わる予定。迎え? 来てくれんの?」
仁人はスタジオの入り口横の時計を確認し、その流れで勇斗と目が合う。小さく肩が跳ね、驚いたのか口元に手を持っていく。仁人の昔からの癖だ。
「うおっ⋯⋯いやごめん、なんでもない。じゃあ、近くのコンビニで待ってる。ゼリーとか買いたいし」
「ばいばい」と仁人は通話を切り、スマートフォンを机に伏せた。
「なに?」
「いや、なにも? それより仁人、今日一日飯食ってないんだろ? 体調悪い?」
「あー⋯⋯食べてないけど、すこぶる元気よ?」
「お腹減ってないとか?」
「んー? プチ断食、みたいな?」
「たまにするよね、それ」
「目ざといなあ」とぶつくさ言いながら水を飲む仁人を横目に見る。
「これから友達と飯? なんか美味しそうな店あるって?」
「なに、盗み聞きしてたのかよ。明日ね、行くのは」
「お前の声がでかいから聞こえんだよ。今日じゃないんだ」
「そう。今日は俺ん家でゲーム」
電話で話していたニュアンスだと、振り入れで疲れるからテイクアウトしてきて欲しいと我が儘を言っているのかと思ったが、どうやら今日ではないらしい。
「仁人が自宅に呼ぶなんて、すげー仲いいのね」
「まあね、そこそこ付き合い長いし」
妙に通話相手を濁すので思わず「彼女?」と聞いてみる。
「は? 違う違う、男友達」とあからさまに怪訝そうな顔をした仁人は勇斗との会話を無理矢理切り上げた。
「はい、休憩終わり! 振り大体覚えた? 次はフォーメーションの確認。覚えたら通ししてみようか」
仁人の掛け声で散らばっていた他メンバーが練習に備えて動き出す。
「仁人⋯⋯」
「勇斗もほら、練習再開するよ」
そう言われてしまい、勇斗は仕方なくメンバーが集まっている場所へ向かう。
仁人は伏せていたスマホを覗き、柔らかく笑った。それを見た勇斗は思わず舌打ちをした。
「あ、すみません。そこのコンビニで降ろしてください」
「仁ちゃんお疲れー!」
夢とうつつの狭間を行き来していた勇斗は、舜太の元気な声で目が覚めた。
降車に備えて手荷物を纏める仁人に慌てて声をかける。
「仁人」
「ん?」
「明日の夜会えない?」
「あー⋯⋯先約あるから」
「⋯⋯そうだったな。飯行くんだっけ?」
「そう、ごめんね。また誘って」
「ありがとうございましたー」と運転手に声を掛け、颯爽と車から降りていった。
「振られちゃったねー、勇ちゃん」
「うるせえ」
「おー、怖。あ、あの人よっしーの友達かな?」
先程仁人を降ろしたコンビニの入り口付近に長身の男が見えた。軽く手を挙げる男に走り寄っていく仁人の横顔が見えた。
「仁ちゃんめっちゃ笑顔」
「よっしー友達いたんだね」
「お前ら何気酷いなあ。俺もそう思ったけど」
年下組は本人が居ないのをいいことに好き勝手言っているが、勇斗は仁人から目が離せないままだった。
男がコンビニで購入したであろう袋を覗き、照れた様子で彼の胸を軽く殴る仁人。男もそんな仁人の顔を覗き込み、仁人の後ろ髪を優しく撫ぜる。
「仲いいな⋯⋯」
「うわっ、佐野さん嫉妬? 仁人取られて寂しいでちゅね〜」
「すみません、太智ここで降ろしてください」
「すまん勇斗! 冗談やん!」
再度仁人の方を見てみる。男と肩を並べて住宅街へ続く消えていった。
「なんか勇ちゃんに似ていたね、仁ちゃんの友達」
「そうか? 俺の方がイケメンだし。国宝級NEXTイケメン殿堂入りよ?」
「相手の顔まで見えなかったし、背丈格好がって話しよ。あ、着いた。じゃあお疲れ様でした〜」
柔太朗が送迎車から降り、その次に太智も降りた。送迎スタッフと俺、舜太の三人だけになった車内はだいぶ静かになった。
「俺なあ、多分やけどあの人と会ったことあるんよ」
次は俺が降りる番か、と勇斗は車窓から見える街をぼんやりと眺めていると舜太がぽつりと呟いた。
「へえ? どこで?」
「ドラストでな。俺は洗剤とか日用品買いに来ててん。そしたらたまたま仁ちゃんと居合わせてさ。色んな種類のゼリーとかスポーツ飲料買い込んでてなあ」
「仁人体調悪かった?」
「そう! 俺も仁ちゃんが風邪ひいたんか思って心配したんよ」
舜太は手元にあるスポーツ飲料を見て思い出したのだろう。ペットボトルのラベルを剥がしながら続ける。
「でも特に体調悪そうでもなかったし、首やおでこ触っても熱くなかった」
ペットボトルのラベルを剥がした舜太。今度は蓋を開け締めし、落ち着かないようすを見せる。
「そしたら凄い形相でお友達さん来て、仁ちゃんを触っていた俺の手を叩くんよ」
「はあ?」
「ナンパ? 勧誘に見えたんかな? 俺のに何か用ですかって凄んできてなあ」
勇斗は「俺のに」というフレーズに引っ掛かったが続きを促す。
「すぐ誤解も解けたよ。人当たりの良い人でな。でも仁ちゃんずっとバツの悪そうな顔しとったなあ」
「まあ⋯⋯自分の友達が舜太のことを知らなかったとはいえ、突っかかって気まずいだろうな」
「そうやろな、仁ちゃん慌ててたもん。無礼働いたお詫びは今度するってあの日はその場でばいばいしたなあ。これから仁ちゃん家で映画観るんだって、お友達さん嬉しそうに教えてくれたわ」
更に舜太は続ける。
「そんでな、柔が言うとおり勇ちゃんそっくりやったよ。身長も俺と変わらんくらいやったし、骨格が勇ちゃんって感じ。顔はまあ、雰囲気似てるかなって程度」
「ふーん? ⋯⋯仁人に気のおけない友達が居てよかったじゃない」
「友達⋯⋯なんかなあ?」
少しだけ声量とトーンを落とした舜太。信号待ちの隙に勇斗の隣へ移動し、人差し指を自身の口元へあてる。送迎スタッフに聞かれたくない内容なのだろうか。
「なんかなあって⋯⋯どういうことだよ」
「ドラストの帰り際に見えたんやけど、お友達さん、スキンを会計してたんよ」
「スキンって⋯⋯」
「避妊具。普通、男友達の家行くのに避妊具要らんやろ」
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