謹啓
好きでした。
この世界の誰よりも。
私は３年半、銀河一の恋をしていた自信があるのです。
一昔前、私が貴方にチャットアプリで教えてあげた好きな人との恋なんてとうの昔に呆気なく終わり、学校指定の制服では耐え難いほど暑くなった頃には貴方の事が好きでした。
思えば顔も性格も何もタイプじゃなかった。
むしろ最初は嫌いだったはずの貴方に酷く心を奪われていました。
何がそんなに好きだったのか今となっては忘れてしまいましたが、とにかく好きで好きで私以外の誰かが貴方の恋人になんてなって良いものかと思っていました。
野球部で脚が早くて少しスタイルが良くて女好きで頭が良くてゲームが好きで顔で女を選んでよくふざけていて行動が馬鹿で、でも時々優しくて、私を頼ってくるの。
好きだった。愛おしかった。愛していた。
本当に大好きだった。
貴方を見る度に嬉しくなってしまったり、
貴方と話す度に口元が緩んでしまったり、
何度貴方の言動に踊らされたか分からない。
私が不登校気味になった頃、貴方は私に言ったの。
「明日休むなよ」
「来いよ」
なんて。
私の事なんて好きでも無かった癖に学校に来て、なんて馬鹿げた事を伝えてきたの。
それでね、私が「お前に言われたから行くよ」って少しだけ可愛い事を言ってみたの。
そしたら貴方は覚えてる？
「おー偉い偉い」
って。
私嬉しかったのよ。好きな人に褒められて。
初めて朝ちゃんと起きて学校行って良かったって思えた。
本当に嬉しかった。
なのに、
あんなに仲良くしてたのに、
気付いたらクラスで１番可愛い女の子と付き合っていたんだね。
私が知った頃には別れていてフリーだったっけ？笑
何でも良いんだけどね、悲しかった。
でも私いい女だから泣かなかったのよ。
ねえまた偉い偉いって褒めてくれないかな。
駄目かな、私じゃ。
貴方に何度も告白しようとしたの。
気持ちが溢れそうだったの。
気付いてくれない貴方にイラついてたの。
でも何も言えなくて、苦しくて。
結局何も無いまま、私だけ学校が嫌いなまま、中学校生活は終わってしまったの。
あ！言うつもり無かったけどひとつだけ私の中の大事件を話してあげる。特別にサービスだよ。
私が貴方にチャットアプリで聞いた事覚えてるかな。
「卵の黄身と白身どっちが好き？」
って。どうでも良い質問。
出来れば忘れて欲しいんだけど、私はこれで「私はきみが好き！」って言ってみようと思ってたの。勿論言えなかったけど。
ねえ君はさ
何も知らないで、知らないフリして、
「卵あんまり好きじゃないけどどっちかというと白身」
なんて、阿呆みたいな返事くれたね。
私それ以上踏み込めなくなったの。
貴方が阿呆なんじゃない。私が馬鹿だっただけ。知ってるのに悔しかった。
嗚呼、私は貴方に意識されてないんだなって思った。
ねえ、ひとつだけ聞きたいの。
君はあの時、私達が中学１年生だった頃、
私の事ほんの少しでも好きだった？
これだけ聞かなきゃ死ねないの。
死にたいって何度も思って来たけど今更、死にたくなくなってきているの。
銀河一の恋を何も無いまま唯の片想いなんかで終わらせたくないの。
私が高校１年の冬に学校を辞めてからも貴方のストーリーはいいねしてるのに貴方はいいねしてくれないよね。
これはずっと昔からだっけ？
もう忘れちゃったね。
私この前ほんの少し想いを馳せてみたくなってストーリーのハイライトを見ていたの。
新しい彼女さんが出来たんだね。
少し前に載せてた子とは違う子なのかな。
私には知る由もないの。
もう貴方とは違う学校だから。
最後に言わせて下さい。
私に銀河一の恋をありがとう。
そろそろ少女漫画より素敵な宇宙一の恋でも見付けに行くから、貴方より良い人探すから、さようなら。
他の誰かと幸せになった貴方に向けて。
敬白
朱色の四角い箱に一通の手紙を差し込む寸前、指先が震えて紙切れを鞄に仕舞った。
やはりこの気持ちは誰にも言わない。
言える訳が無い。
好きな人が幸せなら良いなんて感情は無いし失恋したと認める義理も無い。
私はいい女だから、他のどうでもいい男とのは消しているトーク履歴も貴方のだけは残しているけどピン留めこそしていないし、半年に１回くらいしか見返してないし、誰かと写ったストーリーだけはいいねしていないし、この手紙も自己満足であって貴方に届けようなんて微塵も思っていない。
私はいい女で、貴方はクズな男。
手紙は帰ったら破き捨てよう。
こっそり撮っていた貴方の写真と消せ切れなかった好意の消去はもう少し後でも良いかな、と自分に甘く生きていたい。
貴方がこれを見付けませんように。
１３００日の恋路に幕を下ろして。
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