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「うん、美味しい」
ピンク色のでんぶを振った手まり寿司とプチトマトのベーコン巻きを食べた彼が、顔をふっとほころばせる。
「これも、どうですか? タコさんウインナーです」
割り箸で摘まみ、ふとした思いつきで「あーん」と、口にすると、「……うん?」と、彼が不思議そうに首を傾げた。
「あっ、口をあーんて開けてみてくださいってことでして。私がその、食べさせてあげますから」
「えっ?」と、彼が箸を止める。
「嫌でしたら、別に……」
その場の思いつきとは言え、なかなか恥ずかしい行為だったかもと、摘まんだ箸を引っ込めようとすると、
「あー……ん」
正面で目が合うおもはゆさに瞼を閉じた彼が、照れくさそうに小さく口を開けて、私も照れながら真っ赤なタコさんウインナーを差し入れた。
「……うまいな。君に食べさせてもらえたから、特別に美味しく感じられる」
そう言って、照れた顔に薄く笑みを浮かべる貴仁さんに、私もウインナーの色みたいにほっぺたが真っ赤になりそうだった。
「ごちそうさま、どれもとても美味しかった。君はまるでシェフのように、料理が上手なんだな」
「シェフのようには、ちょっと大げさに褒めすぎです……」
さすがに謙そんはしつつも、彼に喜んでもらえたことが、手放しに嬉しくてたまらなかった。
「……君の作ってくれたものが、今までで一番うまかった」
首筋がつと片手で抱き寄せられ、耳元に低く囁きかけられて、カーッと全身が火照る。
「あ、あの、ち、近いです……」
「近い?」
問い返されて、耳に吐息がふいと吹きかかる。
「きゃっ……」
「かわいい声だな」
仄かに熱を持った耳を知ってか知らずか、彼のしなやかな指がなぞる。
この密着度は……、あんまり距離感がつかめてないから……?
そんなに恋愛はしたことがなくてとも話していたけれど、そのせいでなのかな? いやそれ以前に、もしかして天性の王子様気質とか……。
どっちにしたって、ドキドキが止まりません……っ!
心音がけたたましく早鐘を打ち鳴らしているところへ、
「他にお礼が思いつかないんだが、よければ……代わりにキスをしても、いいだろうか?」
なんて、思いもよらないことを突然に告げられて、
「あっ、え……は、はい!」
鼓動が急激に早まり、ついどもり気味になる。
「どこが、いい?」
耳元に唇を寄せられたまま囁かれて、それこそ今にも心臓が爆発しそうな程に高ぶるあまり、テンパっておしぼりでぐいぐいと口を拭ってしまった。
そのあげく返事もせずに口を拭ったら、それはさぁ唇にと急かしているようなものじゃないと気がついて、いよいよのぼせ上がりそうになった。
「唇に、で……いいんだな」
もはや引っ込みがつかなくなり、こくこくと首を縦に頷く。
顎に彼の長い指先が掛かり、そっとそばへ引き寄せられ、形のいい薄い唇が迫る。
熱に浮かされ目を瞑ることも忘れている私の眼前に、睫毛を伏せた彼の顔が真近くなったかと思うと、唇が柔らかく触れ合った。
触れるだけのキスなのに、こんなにも感じたことなどなかったかもしれない……。
それくらい彼のキスは刺激に満ちて、私に冷めやらない興奮を与えた──。