夏空。入道雲。蝉の声。庭に咲いた向日葵。
汗をかきながら食べるアイス。うちわで仰ぐ先生。
どれもこれも私にとっては非日常だった。
こんなに色鮮やかに世界が見えたことないんだもの。
ねえ、先生。
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ピンポーンとインターホンが鳴った。
先生が立ち上がる。
「え、出なくていいよ先生。見つかっちゃうよ?やめときなって。」
「……あぁ、うん。」
そのまま先生は玄関へ向かった。
私の非日常はあっという間に崩れた。崩れる瞬間を今、目の当たりにしてしまった。
「〇〇さんですね?14時46分、あなたを強制性交等罪で逮捕します。」
「……。」
「部屋の中も確認させて貰いますよ。」
「それは……あの、ちょっとやめて貰えませんか。」
「あのねぇ、それ言われて”はい、そうですか”って言うこと聞く警官がいるわけないでしょう?」
ドタドタと足音が近づいてくる。
やめて、やめて、やめて、来ないで。
壊さないで。
「!!女の子を確認。…もう大丈夫だよ。怖かったね。一緒に両親の所へ帰ろうね。お名前、言えるかな?」
「……。」
「急いで少女を保護するぞ」
「はい!」
私は頭の中がパニックになりながら必死に声を出した。
「……せい、せんせい、先生!!!!行かないで!!!!助けて!!!!お願い!!!!一緒にいてよ!!!先生なんにも悪いことしてないじゃん!!!なんでどっか行っちゃうの!!!!」
「落ち着いて、落ち着いて。…ああ、酷く混乱しているな。」
「ねえ!!!!話聞けよ!!!私が死ぬのを見守っててよ!!!!話がちげーよ!!!ふっざけんな!!!!テメーらも気安く触ってんじゃねーよ!!!!」
必死の抵抗も虚しく、先生はあっけなく捕まり、私も保護という名目で警察署に連れていかれた。
……………………………………………
「知恵ちゃん、〇〇のクラスの生徒なんだよね?」
「…はい。」
「〇〇に無理やり連れてこられたのかな?それとも自分からついて行ったの?」
「私が自らついて行きました。あの人は悪くありません。少女淫行だって本当はしてないって言ってました。早くあの人を解放してください。お願いします。悪いのは私なんです。」
警察の人が眉を顰めた。
「あんま、こういう話、子どもにしたくないんだけどね。君を監禁する前に少女に暴行と淫行をしたのは事実だよ。少女の身体から彼の精液が見つかっているのと、他にも証拠が残っているんだ。……君はだまされていたんだね、きっと。」
…どういうことか、理解が出来なかった。淫行したのは事実で、しまいには暴行まで加えていたというのか。先生が?そんなことするはずない。
「……何かの間違いです。先生は、そんなこと、しません。」
「はぁ……。」
警察の人はため息をついた。
「今日はこのくらいでいいよ。ショックもあるだろうしね。ゆっくりおうちで休んで、また、話を聞かせておくれ。」
「……。黙れ。もう二度とくるか。くそ人間。」
しばらくすると両親が息を切らし、泣きながら迎えに来た。
良かった、良かった、と2人で私を抱きしめながら、ごめんねと謝られた。
あぁ、また、日常が戻ってきてしまうんだね。
ねえ、先生。嘘をついていたの?
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