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玄関の鏡を見ながらネクタイを締め直していると、涼は慌てて人差し指を上に向けた。講義でも始めるかのような口調で話し出す。
「准さん! 念の為に言っときますけど、加東さんに色仕掛けとか使わないでくださいね。襲われるかもしれないから危険です。あの方の人間性を貶めてるわけじゃなくて、ほら。男はみんなオオカミですから」
「……」
なんて説得力のない言葉だろう。男がどうとか言ったら、自分も彼も同じだ。襲う側で、少なくとも襲われる側ではない。
けどもう心も体もボロボロだし、彼の冗談に一々反応を返す元気はなかった。彼も、それを分かっている。
「特別何かしようとか思わなくていいです。笑っててください。じゃ、行ってらっしゃい!」
「……行ってきます」
寝不足だし二日酔いだし、作り笑いする元気もないんだけど、出掛ける時は軽くハイタッチ。
彼とだからできること。
増えているのに気付かない。