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最終章:壊れた世界
あれからどれほどたったのか。
焼け落ちた街の残骸から、黒煙が空へ立ち上っていた。
けれど、そこに空はもうなかった。
ただ、魔女たちの魔力の幕が空を覆い、人間の陽は永遠に閉ざされたのだ。
ヒイロは、ひとりで歩いていた。
瓦礫の道を、焼け焦げた空気のなか、倒れた人間たちの傍を通って。
兵士。老人。少女。
生きていた人たちが、もう動かない。
彼は、その誰も助けることができなかった。
「……これが、“魔女の未来”なの……?」
擦れた声でつぶやく。
ルナが生きていたなら、きっと泣いただろう。
優しい心で、「間違ってた」って言ったはずだ。
でもそのルナはもう──この世界にいない。
ヒイロは、ポケットにしまっていた“ルナだった結晶の欠片”をそっと取り出した。
粉々に砕けた、青い魔力結晶のひとつ。
塔の魔術が発動しルナが命を失った瞬間に、彼の服に落ちてきた、それだけが彼女の“残り火”。
「ごめん……ルナ。……僕、なにも……守れなかった」
魔女たちはこのまま、人間の世界を掌握するだろう。
反逆は成功した。
トールは笑っている。魔女たちは空を飛び、自由を謳歌している。
だけど。
ルナが立派な魔女になろうと頑張って塔を壊し、期待を膨らませながら待っていた未来の世界は、こんな壊れた世界になった。ヒイロはこんな世界で、心からルナに頑張ったなんて思えるのだろうか。だがまた彼女も被害者なのだ。
ヒイロの目に映るのは、ただひとつ──
希望のない、空のない、滅びた世界だった。
だが、彼は歩き続けた。
燃え尽きた未来のなかで。
かつての彼女の声が、まだどこかに残っている気がして。
振り返らず、
ただ前だけを見て──
end