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八月二十日
今日は僕。佐内聡太(さないそうた)の二十七歳の誕生日。だけど、子供の頃のような豪華なケーキや素敵なプレゼントなんてなく、あるのは残業の山。よりにもよってこんな日になんで。と思ったが、文句を言っても何も終わらないのでひたすら仕事を行う。今日は出張などがあったせいで一日中スーツだった。慣れないスーツを身に纏って、本当に堅苦しい。時刻はもう零時すぎ。職員室にはもう僕一人だけ。正直、今の夜の学校はとても怖い。廊下の異様な暗闇の空間、今にも幽霊が出てきそうな開いた扉。僕はビクビクと怯えながら仕事をしている。その途中、あることに気づいた。
「あれ?書類どこやったっけ?」
大事な書類がない。なんで?物を失くすのは僕にとって日常茶飯事なことだが、さすがに今回は失くしたらヤバいものなので僕は焦ってその場に立ち、机の引き出しやら自分のファイルやらを漁った。しかし書類がない。そこで、僕は一旦冷静になって自分の記憶をたどってみることにした。そしたら記憶の片隅に見つけることができた。書類を学年室に忘れてきたんだ。ここは二階。二学年室は三階。書類は次にやる仕事で必要な書類。つまり、取りに行かなければ次の仕事へ進めない。本当に運が悪いものだ。と自分に呆れ果てる。取りに行きたいが、怖さもある。取りに行きたいと思う自分と怖いと思う自分がいる。そんな複雑な感情に悩んだが、怖さを抑えて僕は取りに行くことにした。
僕は静かに職員室から出て、スマホのライトを明かりにし、プルプルと震えながらもゆっくりと廊下を歩いた。自分の足音や息にすらも恐怖を感じてしまう。曲がり角や暗闇の先がとても怖い。情けないが今にも涙が溢れそうだ。もともと、僕はこの夜の学校に恐怖なんて感じていなかった。理科室にも音楽室にもどこにでも行けた。ただ、ある日を境に怖くなった。それは、あの事件の日だったのだ。
それはついこの間。八月八日。僕の今働いている中学校で行方不明事件が起きた。未だに犯人も見つかっていないし、行方も見つかっていない。行方不明者は、生徒が一般的だと思うが、なんと教員だ。その人の名前は、橋間和樹(はしまかずき)。三十一歳の数学教員。僕は彼ととても仲が良かった。行方不明になる夜までは普通に話していたのだ。そんな楽しい日々を切り裂くように不幸が訪れた。ここからは僕の橋間先生と話した最後の夜から、橋間先生が行方不明と分かった次の日までの話である。
八月八日 夜 十時
橋間先生が行方不明になる前の夜。僕は仕事をしている橋間先生と一緒に話しながら彼のことを待っていた。
「橋間先生、次のテスト範囲どうしますか?」
「んー、授業コマから考えて連立方程式メインでいいと思うよ。それで、一次関数とかちょっと入れればなんとかなるでしょ。」
彼は本当にいつも冷静で、的確な意見ばかり言ってくる。ただ、行動がはっきり言って結構おかしい。職員室にカップラーメンをストックしてたり、廊下を謎に行ったり来たり繰り返してたり。彼の行動は予想できない。だから生徒達の間では完全にネタキャラ。カップラーメン先生。と呼ばれている。まあ、このあだ名をつけたのは僕だけど。
話を戻そうか。この日、橋間先生は生徒の相談相手や電子黒板の点検などであまり自分の仕事ができていなかった。だから夜遅くまでずっと仕事をしていたのだ。そのうち、周りの職員はどんどん帰っていき、気づけば、僕と橋間先生二人だけになってしまっていた。僕の仕事はもう終わったから別に帰ってもよかったのだが、一人になる橋間先生が少し可哀想だったので橋間先生の仕事が終わるまで残っていることにしたのだ。橋間先生とくだらない会話をしながら待っていると、橋間先生が急に申し訳なさそうな声で言った。
「もしかして、俺のこと待ってる?それなら、もう帰りなよ。佐内先生も疲れてるでしょ。」
僕はいきなり言われて何て答えればいいか分からなかった。かろうじて口から出たのは、でも。という言葉だけ。思いきり正論をぶつけられた感覚がした。橋間先生はため息をつきながら話を続けた。
「でもじゃないって。別に俺、一人が怖いとかないからな?そんな子供じゃあるまいし。」
無表情で言われて少し心にくる。確かに僕も疲れてるし帰りたいとは薄々思っていたけど、僕はどうすればいいのだろうか?黙っていると少ししかめた表情をして彼は言う。
「それにこの後、雷とか降るみたいだしさ。早めに帰った方がいいぞ?」
彼はとても俺が帰ることを勧めてくる。先に帰ってしまった方がいいのか?彼は意見を譲る気は全然なさそうだ。そんな橋間先生の異様な圧で、俺は彼より先に帰ることにした。
「じゃあ僕、先に帰っちゃいますね。」
「うん、暗いから気をつけて。って二十六歳の大人に言うことじゃないか。」
彼の言葉に僕は苦笑をしながら、荷物をまとめた。
「橋間先生も早めに帰ってくださいね?」
「分かってるって。ここに長居とか本当はごめんなんだからさ。じゃあね。気をつけて。」
「はい。では失礼します。」
そう言って僕は職員室の扉を静かに閉めた。この時、僕は橋間先生の心配なんて一ミリたりともしていなかった。だから僕は車で普通に自分のマンションへと帰ったのだ。
ふらふらとした足取りで僕は部屋まで辿り着いた。やっと帰れて、すぐさまベッドへ飛び込む。サッカーの練習試合などの影響で腰や足、しまいには目や頭など色んなところが痛かった。それで僕は疲れ果てて風呂も入らずに寝落ちしてしまった。相当疲れていたのか、夢なんて見ない爆睡状態だった。爆睡している時は大体アラームや通知に気づかない。あるあるみたいなものだ。もちろん、誰かからの電話にも気づかない。大事な電話にすらも。
八月九日 朝 五時
僕は突然目が覚めた。目がまともに開かないので、寝ぼけつつも自分のスマホを手探りで探す。ただなぜかどこにもない。いつも置いている場所にすらない。めんどくさいな。と思いながら無理やり自分の体を起こし、自分のベッドの全体を見た。おかしい、布団や枕を全部どかしたのにどこにもない。ベッドの下にもないのだ。学校に置いてきたのかな?それとも昨日どこかで落とした?と思い少し焦っていると、僕はふと思い出した。そうだ、僕は帰ってすぐ寝落ちしてしまったんだ。だからベッドにあるわけない。寝落ちしたのなら、僕のスマホはバッグの中にあるはず。僕はベッドのそばに投げ捨てていたバッグを拾い上げ、スマホを探す。すると、奥底のところに下敷きになってスマホの画面が少し見えた。良かった、あった!と思い、僕は一息ついて安心した。
スマホを手に取って電源をつけると通知が来ていることに気づいた。しかも何十件も来ている。全てLINEの新着メッセージのようだ。僕が寝ている間に何が?スタ連でもされたのか?と思い僕はすぐさまLINEを開いた。見ると、新着メッセージは全て橋間先生からのものだった。何十回もの『助けて‼︎』ってメッセージやこちらに電話した履歴が見れる。ただ、最後のメッセージだけ、並びがぐちゃぐちゃで読めない。僕はこれを見て背筋が凍り、ゾッとするあまりスマホを床へ落としてしまった。鳥肌がたち、動こうとしても体がそれを拒んでしまう。ドッキリか?でも、これがもし本当なら、橋間先生はどうなった?彼に何があった?そんなことが頭を埋め尽くす。そして、罪悪感も襲ってきた。だってあの時、あの夜。橋間先生を待っていれば、一緒に帰っていれば、彼は危険に晒されることなどなかったのだ。これでもし橋間先生が死んでいたら、これは、僕のせい?僕はとりあえず気持ちを切り替え、震える手でなんとかスマホを手に取った。そしてLINEを開き、橋間先生とのトーク画面で電話マークへ手を伸ばした。これで橋間先生が応答すれば、これはドッキリだと分かるから、僕のこの罪悪感や恐怖感は消え失せるから、僕はその可能性を信じて電話をかけた。部屋にはプルルルという規則的な音だけが響く。その音は緊張感を走らせる。僕は応答してくれるよう祈ることしかできなかった。ただスマホを両手に持ち、震えながらも祈った、信じた。
しかし、その返しは予想外なものだった。突然、部屋にピー。ピー。という耳に悪い音だけが響く。それは、応答拒否の音。電話に気づいていないのではない。気づいているのに、拒否したのだ。電話の向こうには誰かいるはずなのに。僕はただその音をひたすら聞いていた。何をすればいいのか何も分からなくなった。この電話を応答してくれればどれだけ良かったのだろうか?僕はどれだけ安心したのだろうか?もう頭の中が真っ白だ。これがドッキリだと信じることしかできない。もし、橋間先生が既に殺されていたら?誘拐されていたら?そんなことを考えていると自然と涙が出て来た。しょっぱい水が頬を伝って、口の中に入ってくる。目がどんどん痛くなる。呼吸がまともにできなくなる。今の僕は情けない。それ以外に表す言葉はないだろう。
僕は涙を拭い、呼吸を整えて、何もなかったかのように無理やり平然と仕事の準備をした。お風呂に入って、バッグに資料を入れて、無心で準備した。スマホはもう見たくもなくて、バッグの奥底へと戻した。ふと時計を見るともう六時。本来ならもう学校についてる時間帯だ。僕は洗面所で腫れぼったい目を温かいタオルで温め、そして水タオルで目を冷やしてどうにか隠した。ちょっとは腫れていたがどうにかなるだろう。鏡を見ながらそう思った。僕は不安感がありながらも、どうせドッキリだろ。と自分に言い聞かせて車で学校へと向かった。なぜかいつもの長い道のりがとても短く思え、あっという間に学校へとたどり着いてしまった。駐車場に車を停め、少し疲れた体を立たせ、重たい荷物を持ってとぼとぼと職員玄関まで歩いた。足取りがまるで悪霊にでも取り憑かれたかのように重たい。それでもなんとか僕は職員玄関まで着き、上履きに靴を履き替えて職員室まで向かった。
扉の前まで着くとなぜか職員室が騒がしい。いつもは静かなのに異常なほど騒がしい。扉越しでもよく分かる。試しに耳を澄まして聞いてみるとこんな声が聞こえた。
「はい、!誰か!彼と最後に会った人は‼︎」
「おい!今日の担当どうするんだ‼︎自習にするのか‼︎」
「どうしましょう‼︎ああ!なんて生徒に説明すれば‼︎」
どういうことだ?担当?生徒に説明?最後に会った人?訳の分からないように思えたのだが、少し心当たりのあるような内容にも思えた。なぜか少し汗が流れる。扉を開けるのを体が拒絶している。扉を開けられずに棒立ちしていると、横から突然声が聞こえた。
「佐内先生。」
少しビクッとして声の方を見ると、同じニ学年職員の植月蓮(うえつきれん)先生がいた。彼の顔は普通の表情だった。なんならいつもよりご機嫌なようにも思える。こんな顔が平然とできるってことは、この職員室のうるささは相当な異常事態というわけでもないのか。なんだ。僕は勝手に自己解釈をしてホッとしていた。ただ、この後植月先生の話で僕はどん底に突き落とされた。
「あのさ、佐内先生は橋間先生のこと何か知ってる?今日、朝来たらさ。血文字で『助けて』って書かれた紙が机にあったんだよ。妙にドラマっぽいけどね〜」
笑いながら彼は言った。僕の顔は一瞬にして青ざめた。汗が一気に出てきた。あの通知、電話履歴、応答拒否。なにもかもが、ドッキリなんかじゃなくて、本当だったんだ。酷い恐怖や不安、罪悪感にまた襲われた。壁に手をつかないと立てないほど足が震えて、何も考えられなくなった。声を出そうとしても、もう母音しか出ない。そんな僕の姿を見て、植月先生はまるで勘づいたような顔をして言った。
「その顔さ、何か知ってるよね?佐内先生。」
「話を聞いた限りだけど、昨日の夜、最後に佐内先生と橋間先生が職員室に残ってたって聞いたんだ。別に俺は佐内先生を怪しく見ているわけではないんだけど、警察や周りに怪しまれちゃうのは逃れられない運命なんじゃなーい?」
彼は見下すように、ケタケタと笑ってその場を去った。確かに彼の言うことは本当のことだ。怪しまれるのもしょうがないこと。ただ、僕は怪しまれることはどうだってよかった。橋間先生がどうなったのか、どこへ消えたのかが気になって仕方がないのだ。橋間先生が消えたのはほとんど僕の責任。僕がこれに協力しないでどうするんだ。この時僕はとても責任感を感じていた。少し扉を開けるのが怖かったが、僕は勇気を振り絞って扉を開けた。
小さい声で僕は言った。
「おはよう、、ございま、す、、、」
そう言った瞬間、職員の全員が一斉に僕の方を見た。冷たく凍りつくような視線に少し恐怖を覚える。僕はどうすればいいのか分からなくて黙っていた。そうすると、女性職員が僕の方に近づいて鬼のような顔で怒鳴った。
「あなた‼︎橋谷先生と昨日の夜いたのでしょ‼︎何か、何か知っているでしょう‼︎」
急に怒鳴られ、僕は少し肩を震わせた。なんと答えたら良いのか少し戸惑ったが、こんな時こそ冷静にだ。僕は頑張って冷静に答えた。
「昨日、確かに僕は橋間先生と話しながら仕事をしていたのですが、十時頃に橋間先生に帰った方がいいと強く勧められたので僕は帰ったんです。ですから橋間先生のことはよく知りません。」
我ながらしっかり状況を説明できたのではないか?と内心ドヤっていた。女性職員は口を閉ざした。スマホのことは言ってもどうしようもなさそうだし、さらに困惑させてしまうように思えたからあえて口にしないことにした。職員室にまた沈黙の状態が続く。嘘をついてると思われているだろう。でも、そう思われても仕方がないことだ。明らかに僕は怪しいから。今は正直に質問に答えて不審な行動はしないようにしよう。そしたら疑いもきっと晴れるはずだ。黙っていると男性職員が声をかけてきた。
「佐内先生。今、警察が相談室に来ていてね。佐内先生に事情聴取がしたいだそうだ。」
事情聴取。まあ、当たり前のことか。僕は素直に返事をした。その後は、男性職員に連れられて相談室まで行った。緊張しながら扉を開けると警察の人達がたくさんいて、、
その後はあまり覚えていない。無数に質問をされ、それにひたすら無心で答えていった。質問されている時に体が縛られているようにキツかったのを覚えている。緊張していて頭の中が真っ白になっていたから覚えていないんだ。
事情聴取が終わった後は、校長先生に心配されてすぐに家に帰るようにと言われた。『自分では気づいていないかもしれないが今の佐内先生は凄く疲れた顔をしているよ。』と。どうやら僕は限界まで疲れていたらしい。さすがに校長先生に反抗はあまりできないし、素直に従った。ただ、帰る前に少し植月先生に事件の状況を聞くことにした。僕は植月先生のところまで行った。事件の状況について教えてほしいです。と言ったら、彼はすんなりと答えてくれた。
「行方不明になったのは深夜の一時。パソコンの使用履歴からそう考えたんだって、まあ、予想だけどね。」
深夜の一時。僕はふと何十件も来ていた新着メッセージを思い出した。確か、そのメッセージが送られてきた時間は、深夜一時ちょっとすぎ。情報に間違いはなさそうだ。植月先生は話を続けた。
「で、朝来たら外には橋間先生の自転車、机には橋間先生のバッグ、充電の切れたパソコン、血文字で助けてって書かれていた紙が置いてあった。血文字の血は検査の結果明らかに橋間先生の血と一致していたらしい。」
「バッグには仕事で使うファイルや書類しか入ってなかった。なぜかスマホは学校中どこにもなかったんだって。」
スマホがない。てことは、スマホは橋間先生が持っているのか?それとも犯人が奪ったとか?
「まあ、俺が知っているのはこのくらいかな?警察に色々聞いてみたけど、言ってること本当か分からないし、全部話してはくれないし。俺は裏があるんじゃないかと思うけどね。」
「とりあえず、満足した?満足したのなら帰りな。校長先生に言われてるでしょ?」
「は、はい。わざわざ教えてくれてありがとうございます。では、失礼します。」
僕は少し満足できないところもあったけど、職員室の扉を閉めて帰ることにした。まあ警察も一般人に気安く情報言わないよな。よく考えてみたら当たり前のことだ。僕は肩を落としながらも車に乗ろうととぼとぼ歩いた。
その後、僕は車に乗り、九時頃に自分の部屋へと戻りシャッターを閉め、部屋を暗くしてゲームもせずに疲れきった体を休めた。橋間先生は次の日もその次の日も、見つかることなんてなかった。後ちょっとのところで進展がなくなったらしい。僕は四日間くらい休みをもらえて、すっかり元気になった。ただ、気持ちは沈んだまま。罪悪感や責任感は消えやしなかった。
さて、それで八月二十日の今に至るのだ。あれから僕も行方不明になったらどうしよう。と考えてしまって夜の学校がとても怖くなった。今も書類なんて取りに行きたくないし、こんな気味悪い廊下なんか歩きたくない。まあ、そんな我儘なんて言ってられないな。こんなことを考えてるうちにもう学年室についた。意外と早いものだ。僕は持っていた学年室の鍵で扉を開けた。少し重たい扉を開けて、近くのスイッチを押して電気をつけた。いきなり明るい景色が視界を襲って思わず目を細める。少し視界が慣れてきて、ぼやけて見えるようになってきたら視界にあるものが飛び込んできた。僕の机の上に書類が置いてある。それを見た瞬間一気に視界が馴染んで景色が鮮明に見えるようになった。書類あった!良かった!これで仕事ができる‼︎とホッとしながら僕は机にある書類を拾い上げた。
そうして、僕は早く戻ろうと学年室を出ようとした時。ゴロゴロと外で変な音がしていることに気づいた。何この音?それも近くで鳴ってる。と思い気になって僕は窓の方へ近づいた。そしたら、遠くの方で一瞬地面を突き刺す強い光が見えた。その後に弱い音でゴロゴロと音がしているのが分かる。どうやら雷が降っているようだ。外も大雨が急に降り始めた。車までにちょっと濡れちゃうな。と少ししょんぼりしていたら、次の瞬間。ドガンッ‼︎と酷く鈍い音が天井から聞こえた!そしてバチンッ‼︎と音がして辺り一面が真っ暗闇になる!
「うわぁあああ‼︎‼︎‼︎‼︎」
怖さのあまり叫んでしまった。で、でも、普通こんなこと起きたら叫ぶだろう!僕は怖くてしゃがみ、プルプルと震えて一ミリも動けなくなってしまった。何が起きたんだ?僕は落ち着き、よく頭を整理して冷静に考えてみることにした。すると、自分がこんなに怖がっていたのが馬鹿らしく思えてきた。だって、もともとさっきまで雷が降っていたということはあの天井の鈍い音の正体は落雷で、電気が突然消えたのはブレーカーがその落雷のせいで落ちたってことだ。とても簡単なことじゃないか。掛け算くらい簡単なことだ。なんだか僕はあんなに叫んでいたのが恥ずかしく思えた。じゃあ、ブレーカーを復旧させないとダメだな。面倒くさいし今すぐ帰りたいけど、しょうがない。とりあえず、スマホのライトを頼りにブレーカーをつけに行こう。少し怖いけど。学校は各フロアに分電盤というブレーカーがあるからそれを全てつければ電気は復旧するはずだ。分電盤の場所はよく分からないけれど、校舎を探し回ればいつかは見つかるだろう。僕は少し足がすくんだが、学年室から出て学校を歩き回ることにした。
その時、僕は知らなかった。もう、地獄は既に始まっていたことに、、
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