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「クソっ! やられた!!」

 俺は拳を握りしめて、自身の足に叩きつける。

 一方の妹とロキは、何が起きたのか分からずに、俺の反応に追いついて来れてないようだった。

「どういうこと? ヒロくん?」

「おい、説明しろ、バカ兄貴」

 俺は唇を噛んで、瞼を伏せる。

「俺たちがさっきまで戦ってた道化師は、全部ヤツの作り出しただったんだ……!」

「なっ……!?」

 ロキの表情が、一気に凍りつく。それもそのはずだ。俺と同じくらい、道化師アイツにはロキも苦戦させられたんだ。

「じゃあ、本物の道化師アイツは……。一体どこにいるんだよ!?」

「多分……、最初からこの街には居なかったと、思う……」

「……っ!」

 仮に、最初は本物が居たとしても。俺たちがすり替わった分身たちと戦っている間に、既に遠くへと逃げたに違いない。

(少なくとも、ロキが初めに鎖で刺した時点で、あれは偽物だった……!)

「結局僕たちは、道化師の手のひらの上で、まんまと踊らされていたってのかよ……!」

 ロキが悔し交じりに、近くの壁を殴る。かなり怒りがつのっていたのか、ロキの拳は壁にめり込む。

「結局、あのクソ道化師の目的は何だったんだよ!」

「そんなの、昨日今日でこの世界に来た俺たちが、知るわけないだろ!」

 ロキの言葉に、俺が勢いで怒鳴ると、キミーと妹が『ビクッ』と怯えてしまった。

 俺は慌てて口に手を当て、再び瞼を伏せる。昂った感情を抑えるように、鼻から息を吸い込んでゆっくりと呼吸を正す。

「……しかし考えられるのは、街への被害、錯乱……あるいは」

(俺が培ってきたオタク知識では、大抵の場合パターンは……)

……?」

 かなり小さな声で呟いたのだが、ロキには聞き取れたらしい。

 ロキは軽く飛んで俺の目の前に来ると、俺の胸ぐらを掴んで自身の眼前に引き寄せる。

「ふざけるな! どこの誰だ!? そんなバカげたことを考えたヤツは!?」

「ロキロキ!」

「だから俺は知らねーって!」

 ロキの瞳に、怒りが見える。その怒りはどこか、憎悪にも似たものがあった。

「言っておくがな、少なくともからな!」

 そしてロキは、どこか悲しそうな……痛そうな表情をする。

「これ以上、魔族を苦しめるな……!」

 そう言って俺を解放すると、下へと降りる。そしてスタスタと、前を歩き始めた。

 俺は軽く咳き込んで、キミーにロキの後を追うように頼む。

「ついてくんな!」

 ロキは振り返らずに、立ち止まらずにそう言う。そんなロキに俺は、冷静に返す。

「いや、お前セージを迎えに行くんだろ? だったら俺たちも、街の連中にキミーが入ったのがバレる前に、門の外に出しておかないと。見つかったら、後々面倒だからな」

 何より、この混乱した状況下で、キミーが街の連中や兵士に見つかったりしたら……。場合によっては、キミーも魔獣同様、討伐対象になりかねない。

 混乱している時こそ、人という生き物は正常な判断ができないものだ。それが例え害のないものだったとしても、恐怖心からそれが『悪』に見えることだってある。

 そんな妹とキミーのことを考えれば、キミーの安全確保も俺にとっては最優先事項だ。

「よって、方向は一緒だ」

 そう言うと、ロキは半ば不服そうに舌打ちをする。だがそこからは、ただ黙って俺たちの少し先を歩くだけだった。

 キミーが心配そうに俺を見る。俺は「大丈夫だ」と言いながら、キミーを撫でる。

 そんな気まずい空気をぶち壊すのは、例によってウチの妹だった。

「ロッキロキー!!」

「どわっ!?」

 妹はロキの後ろから抱きつくと、そのまま足をロキの胴に絡めては背にへばりつく。

「おいコラ、アホヒナ! 何するんだ!?」

「ヒナちゃん、疲れたからおんぶ〜♪」

「ふざけるな! 自分の足で歩け!」

「ヤダヤダヤダヤダ! 歩きたくなーい! おんぶ、おんぶ、おんぶー!!」

 そう言って、ロキの首をホールドする妹。どれだけ歩きたくないという、己の欲に必死なのだ。

「だー! 分かったから、耳元で叫ぶな! 首を絞めるな!」

 ロキは妹の足に腕を回すと、渋々背負ってやる。

「やったー! ありがとう、ロキロキ〜♪」

 妹はそれはもう、満足そうに言った。

 俺は内心、我儘な妹に育ってしまったことに対して申し訳ないと思いつつも、この場の空気が変わったことに安堵する。故に、ロキには尊い犠牲になってもらうことにした。

 ▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁

 そうして、妹とロキの無邪気なじゃれ合いを見守ること数十分。ようやく西の正門へと、俺たちはたどり着いた。

 門の前では瓦礫の上に座って、杖を携えたセージの姿があった。

 セージは俺たちに気づくと、嬉しそうに、安心したように笑って走り出す。

「ロキ! 良かった! 皆様もご無事で……」

 あと少しと言うところで、セージは小石に躓いて見事に転ぶ。

 それもそのはずだ。日もだいぶ沈み、空にはポツポツと星が輝き出している。

 つまり、視界はだいぶ悪い。しかも魔獣たちのせいで、瓦礫が散乱している。そんな中走ったのだ、躓くのは誰にだって容易に想像が着く。

 ロキは深いため息を吐くと、妹を降ろしてセージの元へと向かう。

「バカセージ。こんな瓦礫まみれで、視界の悪い中走るからだ。自業自得だな」

 と、脇腹を軽く蹴って罵った。

「うぅっ、正しいけど、酷いよロキ……」

「つったく。いつまでも、地面に突っ伏してんじゃねーよ。ほら」

 そう言ってロキは、セージに手を差し伸べる。セージは一瞬キョトンとした顔をしたが、すぐに笑顔でロキの手を取った。

「ありがとうロキ! やっぱりロキは優しいね!」

「ふざけたことぬかすと、お前を魔獣のエサにするぞ」

「ふふっ、ロキはそんな事しないよ♪」

 セージの笑顔に、完全に毒を抜かれたのか。ロキは頭をかきむしると、再度ため息をついては、軽く舌打ちをした。

「おら、バカセージも無事だったんだ。街の連中に気づかれる前に、さっさとそこの木の守森人ウッドマンを門の外に出せ」

 俺は『ウッドマン』という、聞き慣れたようで聞きなれない言葉に、思わず反応してしまう。

「あ? 木の盾が何だって?」

「違うよ、ヒロくん。キミーだよ」

 俺と妹の会話に、ロキが頭を抱える。

「何なの、お前ら兄妹の、その謎な共通認識……」

「まぁまぁ、ロキ。お二人の仰ってることはよく分かりませんが……キミー様が通れるくらいには、結界の力は弱めてあります。僕の魔力が暴走する前に、お早めに」

「『暴走』?」

「いいから、さっさと連れ出せ」

 なんか今、セージからとんでもないワードが飛び出した気がするが……気のせいだろうか?

 兎にも角にも、キミーを門の外に連れ出すのが先決だ。結界の抵抗で少し痛むだろうが、我慢してくれよ。

『ガウゥッ……』

 少し痛むのか……ゆっくりめに歩くキミーが、悲しげに鳴く。無事に門を潜り終えると、辺りには魔獣は居ないみたいだった。

 そして何故か、周辺の地面は抉られたように、所々穴が空いていた。

「よく頑張ったね、キミー。偉いよ!」

「あぁ、偉かった。さすがキミーだな!」

 俺たちは、結界の抵抗に頑張ったキミーを褒める。

 そんなキミーは、嬉しそうに葉を揺らして頷いた。

 ▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁

「キミー! 気をつけて帰るんだよー!」

「くれぐれも、変な妹には着いてくんじゃねーぞー!」

 俺は妹と共に、手を振ってキミーを見送る。キミーは枝を振りながら、森の中へと帰っていった。

 そしてキミーの姿が、完全に見えなくなった頃。妹が俺の脇腹めがけて、肘鉄してきた。

「おいコラお兄様、どさくさ紛れに何言ってんだ」

「いや〜、俺もキミーが心配だからな」

「だからって、なんで妹限定なんだオラ!?」

「ヤダ〜、何この子怖〜い。ヒロ子泣きそう〜」

「その傷口に、岩塩ねじ込んだろうか!?」

 妹が俺の負傷した腕に手を伸ばそうとするので、片手で必死にそれを制す。マジで痛いからやめてくれ。

「おい、そこのバカ兄妹。さっさと戻ってこい。一旦、門を閉めるぞ」

 門を塞いでいた瓦礫をある程度退け終えたロキが、俺たちに声をかける。

「仮だと言っても、バカセージの結んだ結界だ。どっちに転んでもいいように一応な」

 なるほど。結界は結び直したとしても、何が起こるか分からない。それならいっそうのこと、閉門してしまった方が良いと考えたか。

「はいよ〜」

「了解っす〜!」

 俺と妹は再び門を潜って、街へと入る。

 そして大きな扉が、門の入口を塞ぐ。

 俺の考案した作戦の結末とは、大いに異なるが……。

 こうして無事に『まうぃつど一発大作戦!』は終わりを迎えたようだ。

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