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万五郎
「おう。」
「お前はまず観る事から始めろ。お前達がどういう仲かは知らんが、犬王の腕は超一流だ。欲しいもんは観て盗め。」
「おう!」
座長のぎらりとした目を見ると、万五郎はさぞやる気を出したように見えた。
「いいか?あいつら、直垂と小袖まくってんだろ」
「ああ、よく見りゃまくってんな」
「ありゃなんでかっつうとな、ああしなきゃぶっ倒れんだよ。全身汗まみれで、熱気もこもる。そんな激しい世界なんだ。」
「犬王を見てみろ、あの小次郎の動きを真似る練習だ。」
「真似る?」
「いいか?自分の型ってのを出すのはド3流だ。いかに猿楽の型に近いか。本来の型に近付くか。それこそが猿楽の掟だ。」
「犬王を見てみろ」
「…すげぇ(まるで小次郎が2人いる見てぇだ…)」
「あれ終わったら、お前犬王と稽古だ。準備しろ。」
「おう!」
「ありがとうございました。小次郎さん」
「相も変わらず素晴らしいな。その体幹、貰いたいくらいだよ。」
「光栄です」
「じゃあ、また後で」
「はい。(しばらく休もう)」
「よう!犬王」
「な…」
「な…ってなんだよ」
「なんでお前と…」
「だって、座長が」
「座長!何故こいつと組ませるのですか!」
「いいじゃねぇか!お前が一番向いてるだろ?はっはっは!」
「座長…」
「なあ、早くしようぜ。」
「…やるからには容赦しないぞ」
「ああ、どんとこい!」
タン…タン…タン…タン…まるで太鼓のような鋭い音が、稽古間全体を震わす
「ハアアア!」
「違う!もっと高く出せ!鈴を鳴らすように、上品に高くだ!」
「そんなん言われたってよ…」
「すり足をしてみろ!間違いがあれば即やり直しだ!」
ス…
「はいそこ!3歩目からばらばらだ!客に向かって歩く気か!」
ス…
「違う!かかとが浮いている!」
「そこまで見るのかよ〜!」
「これが犬の歩き方だ。やってみろ」
ス…ス…
「違う!犬がそのような歩き方をするか!」
「次!老い人の歩き方だ!やってみろ!」
ス…ス…
「違う!腰を落とせ!背は鋼のように曲げつつも芯を持て!また、歩きはもっと乏しくかつ上品にだ!」
「だぁぁ!そんなん無理だろ!」
「無理でもやるのが我々だ!」
「ハァ…ハァ…」
「今日はこれで終わりだ!明日もあるから覚悟しておけ!」
「で、今日は何をするんだ?」
「あ、ああ…最初は私を見ておけ。(昨日あれだけ追い込んだのに…単なる馬鹿か、はたまた…)」
「今日は演目を観てもらう」
「ハアアア!」
(すげぇ…あいつ、俺ができないことをやってやがる)
「おい!そこの」
(いや待てよ…やつに似せようとする事自体が間違いなんじゃないか?)
「おもしろや天ならで。ここも妙なり天津風……!」
(やつの声も動きも、上品を遥かに越えた「天女の御業」ってやつだ。これの真逆こそ、狂言が目指すべき形…)
「東遊びの駿河舞……!」
(面白ぇ…やってやろうじゃねぇか!)
「ひさかたの、空に登らん道筋へ……!」
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