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「そっか、ミナミは違う学校に行くんだね」
昼下がりの中庭。
雪乃と美希は少し肌寒い中、クラスメイトのミナミと一緒に昼食を食べていた。
「うん。パティシエ目指すために隣町の専門学校へ行くんだ」
美希の問いに手作り弁当を食べながらミナミは答える。
「えー、寂しくなるねぇ。それに、ミーナの作ったお菓子もう食べられなくなっちゃう」
雪乃がパンを頬張りながら悲しそうに嘆く。
美希は弁当を食べながら呆れた顔で雪乃を見た。
「あんたはそれが目当てなだけでしょ」
「ち、違うわ!それもあるけど、純粋に寂しいだけだわ!」
それもあるけど、と2回言っちゃう雪乃にクスクスと笑うミナミ。
ミナミの隣にはペロッパフが楽しそうにフワフワと浮かんでいた。
「みんなと離れ離れになるのは寂しいけど、夢を叶えたらまたこっちに戻ってくるから」
「そうね。ミナミのお店が出来たら一番に行くから」
「うんうん、一人目のお客さんになる!」
ミナミは嬉しそうに「ありがとう」と微笑んだ。そして作ってきたクッキーを二人に渡す。
わーい、と喜んで頬張る雪乃。いつもありがとう、とお礼を言う美希。
「…けど、ひとつ心残りがあるの」
突然、ミナミの顔が曇った。
二人はミナミの顔を心配そうに覗き込む。
「どうしたの?」
「また変な男にストーカーでもされてるの!?言ってくれたら全然ぶん殴りに行くよ!?」
「いや、そうじゃなくて、実は…」
ミナミは中庭にある大きな木を見つめた。
「…あそこの木に、ムウマがいるの」
え?と二人は同時に木を見た。
しかしムウマの姿はない。
「恥ずかしがり屋みたいでなかなか姿を見せてくれないんだけど、人気のない時にたまにお菓子を持っていくと食べてくれるの」
へぇ、とその木を見つめる。太くて立派な大木はもう何年もそこで生徒達を見守ってきたのだろう。
冬になり木枯らしを吹かせているが、不思議と安心感がある。
「そのムウマがどうかしたの?」
「…あの子、誰かを待ってるみたいなの」
ミナミが目を細める。
誰かを待っている?
「いつもキョロキョロ辺りを見渡しているし、たまに悲しそうに泣いているの。それに、あの木から離れようとしないし」
「なるほど…。でも一体誰を?」
雪乃の問いにミナミは首を振る。
「わからない。でも何だか可哀想で…」
それが心残りらしい。
確かに、そんなムウマを残して違う学校に行くのは心苦しいだろう。
「ムウマに聞けたらいいんだけど…」
ミナミの言葉に、「ちょっと行ってみるか」と雪乃が立ち上がる。
それにつられ美希とミナミも立ち上がる。
3人は大樹の根元でムウマを探した。
呼んでみたりしたが全然現れない。
「うーん、やっぱ1人の時じゃないと駄目なのかな」
「怖いのかな」
「雪乃が?」
「え!?私!?」
美希の突然の裏切りに困惑しつつ、雪乃はハッと気が付いた。
「これ、食べないかな?」