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読み終えました。今回のエピソード、すごく好きです。ロボット供養の動画がバズって問い合わせが増える——という現代ならではの偶然の流れが面白い。それでいて「地獄の沙汰も金次第どころか、仏様の居場所まで金次第」という正源のつぶやきに、寺院経営のリアルな厳しさがにじんでいて、ぐっときました。正雁のラフな口調からも、同門の僧侶たちも同じような悩みを抱えているのが伝わってきて、世界観の厚みを感じます。次も楽しみにしてます。
八月に入り、毎日のように蒸し風呂のようなじっとりとした暑さが続くようになった頃から、正源の寺にはちらほらと、壊れたロボットの供養をしてもらえるのかどうかを尋ねる問い合わせの電話がかかってくるようになった。
最初の数件は、正源が布施について話し始めると、急に戸惑った口調になり、そのまま依頼をやめて電話は切れた。
僧侶に供養を頼めば布施が必要な事ぐらい常識だろうに、と正源は呆れたが、彼が総本山で修行していた時の同門の仲間で歴史の古い寺院の後継ぎである正雁(しょうがん)から突然スマホにかかって来た電話で事情が呑み込めた。
「よう、久しぶり、正源。うめえ事やったみたいじゃないか? おまえにあんな経営センスがあったとは知らなかったぜ」
お山での修行中、指導役の高僧からしょっちゅう「お前は僧侶になろうという自覚が足りん。まず、その言葉遣いを改めんか」と怒られていた正雁は、仲間という気安さもあってか、繁華街をうろつく若者と同じようなくだけた口調で話しかけて来た。
「え? 一体何の事だ?」
正源が戸惑って訊き返すと正雁は呆れたように言った。
「おいおい、本人が知らないのか? お前の寺、ネットでバズってるじゃねえか」
「ネットでバズってる? 詳しく教えてくれよ」
正雁はいくつかのSNSの名前を挙げた。正源はスマホをスピーカーモードにして、タブレットPCを取り出し、言われるままにそれらのSNSで検索してみた。
確かに時間はかかったが、自分の寺の事について書かれた書き込みをいくつも見つける事が出来た。その中の動画投稿サイトを見て、正源はちょっと顔をしかめた。
「いつの間にこんな動画を撮られていたんだ? こういう事は事前に言ってもらわないと困るんだがな」
その数分の動画には、先月正源が執り行った、会社の受付用ロボットの供養の様子が正源の背後から撮影された様子が載っていた。
会社の受付用ロボットの供養を頼んできた女性社員たちの誰かが、SNSに写真や動画を上げて、それが拡散したらしかった。どの写真や動画にも数十万単位の閲覧数が付いていた。
いつの間に撮ったのか、寺の門や境内の写真が一緒にアップされている物まであった。正源は苦笑しながら正雁にスマホで返事を返した。
「最近急にロボットの供養についての問い合わせが増えたんで、不思議に思っていたところだったんだ。こういう事か」
「そうだぜ、有名な大寺院ならともかく、言っちゃ悪いが、お前のとこみたいな小さな寺がネットでバズるなんて珍しいだろ。宣伝効果抜群だからな、SNSってやつは。おい、教えろよ。どうやってバズらせたんだ? 俺のとこの寺でも参考にしてえんだ」
正源はますます苦笑しながら答えた。
「いや俺が仕掛けたわけじゃない。単なる偶然だよ。それにお前のとこの寺なら宣伝なんかしなくても、金の心配はないだろう?」
スマホのスピーカーからは、正雁のぼやき声が返って来た。
「そうでもねえよ。地域じゃ有名な菩提寺でも、檀家の数は少しずつ減ってるんだ。古い寺だから修理や建て替えの費用もかさむしな。じゃ、そのうち飲みにでも行こうぜ」
「ああ、こっちがもう少し落ち着いたらな。じゃ、またな」
スマホの通話を切った正源は思わずつぶやいた。
「やれやれ、仏教寺院の経営はどこも火の車か。地獄の沙汰も金次第どころか、仏様の居場所まで金次第ってとこか。厳しい時代になったもんだ」
お盆の頃になると、少なくなっていたとは言え、寺の檀家から盂蘭盆会供養の読経の依頼がそれなりに来るようになり、たった一人で寺を切り盛りしている正源も多忙になって、しばらくロボット云々の話は忘れていた。