仕事から帰ってきた角名は、玄関で靴を脱ぎながらゆっくり言う。
「ただいま〜……眠い……」
ソファに倒れ込んだ瞬間、スマホだけは素早く手元に。
スロースターターなのに、スマホ起動は最速。
「りんちゃん、ちょっと話したいことあるんだけど」
「んー……話すの?今?……眠いけど聞くだけ聞くわ」
全然聞く気なさそうな顔。
「妊娠してるって」
角名、まばたき一回。
そのあと、ゆっくり起き上がる。
「…………え?」
いつもの2倍ゆっくりした動きで、スマホを置く。
そのまま固まる。
「……俺の?」
「うん」
「……あ、そっか……うん……俺か……」
理解に30秒かける男。
「りんちゃん?」
「……いや、ちょっと……脳みそがストレッチしてる」
しばらくぼーっとしていたが、
急にスマホを手に取り──
パシャッ
パシャパシャパシャッ
「ちょ、なに撮ってんの?」
「“妊娠報告されて固まる夫”の記念写真」
「やめてよ!」
「いや、今の顔レアだった。保存」
めっちゃ静かに悪ノリしてくる。
「……すごいなぁ」
「なにが?」
「俺らのちっちゃいやつ、今ここにいるってことでしょ?」
そう言って、お腹に手を添える角名。
その声だけが妙に優しい。
……と思ったら次の瞬間、
「んでさ、これ俺が起きてる時に言ったのちゃんと正解だった?」
「どういう意味?」
「俺、寝起きで変な返事したら人生終わるやん。
“ふーん”とか言う可能性あったし」
「言いそう!」
「だろ?俺のこと一番わかってるやん」
自覚ありすぎる。
角名は少し考え込んだあと、
「……俺さ」
「うん?」
「めっちゃ嬉しい」
ふわっと笑う。
珍しく、ほんの少し頬が赤い。
「……でもさ」
「なに?」
「俺の遺伝子、ちゃんと働いてたんだなって。
スロースターターなのに」
自虐ネタ挟んでくる。
「これから忙しくなるかもだけど、
ちゃんと時間つくるから。
お前とちびのためなら、寝る時間削るわ」
角名にしては珍しく力強い一言。
……しかし次の瞬間。
「……あのさ」
「なに?」
「名前、“ミニ倫太郎”ってだめ?」
「だめ」
「そっかぁ……」
しょぼんとする角名。
かわいい
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