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#8
side omr
文化祭から、もう1週間。
あの日以来、 若井と一緒にいる時間が、うんと長くなった。
休み時間も、放課後も、前より当たり前みたいに隣にいる。
言葉がなくても、隣にいるのが自然になった。
今も放課後の教室で、俺は若井と向かい合って課題をやってるはずだったんだけど_。
wki「ちょ、大森、そこ全然違うって!
omr「えー?うそ、これ合ってると思ったんだけど」
wki「いや、見てみろって。ここの式がさ…」
omr「えーっと…あ、ほんとだ。全然違った」
若井が 顔をくしゃっとさせて笑う。
俺もつられて笑った。
wki「バカだなぁ」
omr「ひどっ。でも若井の説明聞いたら分かった」
wki「そりゃ、よかった」
笑いながら、若井の髪が少し揺れて、机越しに見える瞳が優しく細められる。
ほんの一瞬だけど、胸がふっと苦しくなる。
この一週間、何度もあった。
若井とくだらないことで笑い合って、そのあと胸の奥がざわつくみたいに熱くなる瞬間が。
_俺、若井のことが好きなんだ。
もうとっくに気づいてた。
俺が若井を避けてるときに、若井がふと見せた寂しそうな横顔を見てから、はっきりと。
最初は隠そうとしてた。
友情にすり替えて、自分に言い聞かせようとしてた。
でも無理だった。
若井の声を聞くたび、笑顔を見るたび、もっと近くにいたいって思ってしまう。
wki「なぁ、大森?」
omr「えっ、あ、ごめん。なんかボーっとしてた」
wki「珍しいな。眠い?」
omr「ううん、なんでもない」
若井の視線に気づいて、慌てて目を逸らす。
顔が少し熱くなるのがわかる。
きっとバレていないけど、自分だけが知ってる秘密みたいに胸の奥が痛くて、でも甘い。
それでも、若井は変わらずに笑ってくれる。
wki「じゃあ、もうちょい頑張ろうぜ」
omr「うん」
ふたりで机を挟んで笑い合う。
距離なんてもうほとんどないように感じるくらい、心が近づいた気がする。
けれど、その笑顔を見て思う。
近づけば近づくほど、きっとこの気持ちは隠せなくなる。
触れたい、もっと深く知りたい、言いたい_好きだって。
でもまだ怖い。この関係が壊れるのが。
笑い合うたびに嬉しくて、でも同じくらい苦しくて。
それでも俺は、若井の隣がいい。
こんなにも近いのに、ほんの少し届かない距離で。
それでも、一緒にいたいって思ってしまう。
side wki
放課後、二人でいつもの道を歩く。
校門を出てすぐの道は、文化祭が終わってからなんとなく特別に感じるようになった。
大森と並んで歩く、それだけで胸の奥が少しだけ熱を帯びる。
信号を待ってる間、横目で大森の横顔を盗み見た。
風に少し乱れた髪と、疲れたようで少し緩んだ表情。
昼間みたいに笑ってはいないけど、静かで、落ち着いてて_それもまた好きだと思った。
そう、好きなんだ。
ここ数日、ずっとこの言葉が喉の奥に引っかかってる。
言わなきゃって思うのに、タイミングが怖くてずっと飲み込んできた。
でも、今日こそはって思ってた。
信号が青に変わって、俺たちは歩き出す。
wki「なあ、大森」
omr「ん?」
振り向いた大森の顔が近くて、少しだけ息を飲んだ。
でももう止まらない。
wki「俺、お前のことが好き」
声は意外と普通に出た。
だけど心臓は今まででいちばん早く打ってるんじゃないかってくらい、暴れてた。
一瞬、大森の足が止まった。
omr「……は?」
笑うでも怒るでもなく、素っ頓狂な声を出して、目を丸くして俺を見てる。
wki「いや、だから……前から思ってたけど、はっきり言っとく。俺、大森が好きだ」
俺はできるだけまっすぐ言った。
誤魔化さずに。
どう思われてもいいから、伝えたかった。
大森は言葉を探すみたいに口を何度も開いては閉じて、それからちょっと下を向いた。
omr「……っ、な、なに言ってんだよ」
wki「本気だよ」
omr「……そ、そっか」
大森の声が小さくて、ほんの少し震えてた。
でも顔を上げたとき、恥ずかしそうに、でも困ったような顔をしていた。
wki「ごめん、急に言って」
omr「ううん……嫌じゃない、から」
その言葉に、胸がじんわり熱くなった。
嫌じゃない。
それだけで、救われた気がした。
歩き出した大森の横顔は、まだ赤くて、視線を合わせてはくれない。
でも逃げるようには歩いてなくて、ちゃんと隣にいてくれてた。
いつもの道が少し長く感じた。
でも、その分だけ大森の横顔を見られて、隣にいられて、今はそれで十分だった。
告白した俺の心臓は、ずっとうるさいくらい跳ね続けてた。
だけど、大森の「嫌じゃない」って言葉が、何度も何度も胸の中で繰り返されてた。
やっとです
やっと