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0時――君に会いに行く時間。
俺の幼なじみ、白西 陽向は難病を抱えている。俺たち、高校1年生だ。
0時になると、家を抜け出して白西の病室に向かう。それが、俺の日課。
病院の廊下は静まり返っていて、部屋の扉を開ける音がやけに響く。
ガラッ
「颯馬……」
俺が顔をのぞかせると、白西は嬉しそうに微笑んだ。少し痩せた頬と、その奥に透けるような儚さが、俺にはたまらなく切ない。
「おー、ケーキ買ってきた」
同時に同じ学校の男子が白西の病室から出てきた。
(また告白か)
白西は美人だ。だから色んな男共が病室にまで足を運んで告白する。入院してる同じ歳の男だって例外じゃない。
「今日も告られたの?」
「うん、ざっと9人かな」
俺がからかうと、白西はケラケラ笑いながら答える。
ケーキを差し出しながら、「ちゃんとフったの?」
「もちろん」
「なんで?」
「イケメンいなかったし」
「イケメンがいたら?」
「うーん、付き合ってたかも」
白西が笑うと、俺もつられて笑った。その笑顔は変わらないのに、残された時間が少しずつ減ってることを俺は知っている。
白西の病気は治らない。余命宣告を受けた日から、もう2年半が経った。あと5ヶ月で、宣告された3年が来る。
「体は、どう?」
「ずっと痛いよ。でも、まぁ慣れた」
俺が心配そうに聞くと、白西は軽く肩をすくめて見せる。その言葉が、胸に刺さる。
「そっか」
そう返したけど、白西の苦しみが俺にわかるはずもないのに、無力さだけが押し寄せてくる。
その帰り道、俺は突然倒れた。胸の痛みで目の前が真っ暗になって、気づいたら病院のベッドの上だった。
医者の口から告げられたのは、思いもよらない言葉だった。
俺も、余命宣告を受けた。もって4年。
おかしな話だよな。白西の隣のベッドに寝ることを頼んで、なんとか承諾された。こうして、俺たちはまた同じ病室で、並んで過ごすことになった。
詳細を白西に話したら、バカにされると思ってた。
「なんであなたまで宣告受ける羽目になってるのよ……ばか」
白西の目には涙が溢れてた。そんなに泣けるのかって、驚くくらい。
「ごめん……ごめん…」
俺は無意識に謝ってた。なんで謝ったのか、自分でもわからない。ただ、悔しかった。俺が、白西よりも長く生きるなんて……そんなの望んでなかった。
いっそ、余命が残り1ヶ月だったら良かった。
「ねえ、今日の夜、花火大会だって」
ふいに白西が言った。
「へえ」
「窓から見れるらしいよ」
花火大会か。この田舎じゃ、そこまで大きな大会じゃない。だけど、その夜、病室から見えた花火は想像以上だった。
「すげぇ」
思わず声が漏れた。大きな音とともに、夜空に広がる花火。その光を受けて、隣で見つめている白西の横顔が、なぜか無性に輝いて見えた。
途中で、
「あと3ヶ月だって」
ぽつりと白西がつぶやいた。
「うん」
「私、死ぬのかな」
その問いには答えられなかった。自分の言葉で、どう答えたらいいのかもわからない。
「死ぬ時って、どんな感じなんだろう」
白西がぽつりと呟くその瞳は、どこか遠くを見ているようで、怖さと覚悟が入り混じっているように見えた。
「怖いな」
ほんのかすかに震える声が、俺の胸に響いた。
「俺もだよ。お前がいなくなるのが……怖い」
無意識に、そう呟いていた。
「なんでよ」
白西は、かすかに微笑んで俺を見たけれど、その笑顔はどこか切なげで、俺の心が締めつけられるような気持ちになった。
俺たちは静かに、打ち上がる花火を見つめ続けた。