テラーノベル
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東京・音楽大学のホール
照明の下に立つみことは、
黒のジャケットに細身のパンツ
髪も少し整えて、表情も落ち着かせている
昔みたいに、ほわほわ笑わない
「…次の曲、俺が作詞作曲しました」
隣にはいるま
いるまは軽く頷き、ギターを構える
客席には、美大生のなつ
その隣には、なつの友人である、すち
「ねぇ暇ちゃん、俺、来てよかったのかな」
「べつにいいだろ」
「でも顔色悪いぞ、お前」
なつは小声で笑う
演奏が始まる
みことの声は、前よりも大人びていた
少し低くて、まっすぐで
でも
歌詞は、知っている温度だった
曲が終わり、MCがみことに渡る
みことはマイクを握る
「…この曲は」
少しだけ、視線が泳ぐ。
「上京する前に別れた人のことを書きました」
客席が静まる
すちの指先が、わずかに震える
「俺、まだ未練あるんやと思います」
苦しそうに少し笑う
「今の俺は…正直、本当の自分ちゃう」
その言葉に、すちの心臓が跳ねた
「昔の俺は、もっと子供っぽくて、うるさくて、明るくて」
呼吸が止まりそうになる
「でも、その人に“そういうとこ好きじゃない”って言われて」
すちは確信する
(……俺だ)
「だから変わろうと思って。大人になろうって」
みことは少し俯く
「それでも」
顔を上げる。
「今ここに立ててるんは、その人のおかげです」
会場が静かに揺れる
「本当は音楽は高校で終わりにしようと思ってました」
「でも別れた時に音楽もなくなってしまったらと思ったら怖くて、進むために音楽を選びました」
少しだけ、声が震える
「ほんまは、まだ好きやけど」
客席で、すちの視界が滲む
「どうしようもない気持ちをこの音楽にぶつけました」
会場は大きな拍手に包まれた
すちは、動けなかった
終演後
ロビーで、いるまがなつに手を振る
「なつ!来てくれてありがとな」
「おう、よかったぞ」
その後ろに立つ、すち
みことは、ふと足を止める
視線が、ぶつかる
時間が止まる
「……すちくん、?」
声が、素に戻った
クールな仮面が、一瞬で崩れる
なつが空気を読んで、いるまの腕を引く
「ちょっとジュース買ってくるわ」
「え、俺も?」
「いいから来い」
二人は去っていく
ロビーに、二人きり
沈黙
「…見てたんや」
みことが先に言う
「うん」
すちは、ゆっくり近づく
「……あれ、俺のことだよね」
みことは笑う
少し、泣きそうに
「うん、勝手に話してごめん、」
胸が締め付けられる。
「…ごめん」
すちは頭を下げる
「本当は、全部好きだった」
みことの目が揺れる
「子供っぽいとこも、明るいとこも」
声が震える
「他の人に向けるの、嫌だった」
正直すぎる告白。
「遠距離で縛るのも嫌で…でも手放すのも嫌で」
「だから、嫌いって言った」
みことの頬を涙が伝う
「俺な」
小さく息を吸う
「嫌いって言われたとこ、全部なくそう思ってん」
黒いジャケットを握る
「でも全然楽しくなくて」
静かに笑う
「やっぱ俺、あのまんまやねん」
すちは一歩近づく
「そのままでいいよ」
即答だった
「俺が好きなのは、今も昔も、みこちゃんだから」
涙が止まらない
「……まだ、好き?」
「大好き」
間髪入れず
みことは、ぐしゃっと笑う
昔の、あの笑い方で
「ほな」
一歩踏み出す
「もう一回、俺と付き合ってくれる?」
すちは、少しだけ目を潤ませながら笑う
「こちらこそ、お願いします」
そっと抱きしめる
今度は、縛らない
隣に立つ
東京の夜風が、やさしく二人を包んだ
コメント
4件
この作品大好きです!!切なくて心が揺さぶられてでも最後はハッピーエンドで幸せで素敵です✨
きゃぁぁーー!マジ、ドキドキワクワクする!まじほんとに作ってくれてありがとうございます✨