テラーノベル
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殺風景に近い部屋だった。
シューズボックスに全てが収納されているようで、玄関には余計な靴が一足も出ていない。室内を飾るインテリアもない。
「風呂入る?」
「…着替えがないです」
「俺のがあります」
「恐れ多いので、着の身着のままで良いのでこの廊下とかお借りできれば」
「…なんで?」
そんなの保護した意味ないでしょうよ。
柔らかい笑みを浮かべた彼は、なんだかいつもの豆さんに戻ったようだ。
「ちょっとそこのソファ座ってて」
そう言い残して豆さんはキッチンに消えてゆく。手持ち無沙汰でやることもないので、リビングにそっと入り、言いつけ通りにソファに座り背もたれに寄りかかる。
ファブリック地の座面は思った以上にふかふかで。気を抜けばこのまま寝落ちしてしまいそう。寝ないようにしないと、と思いながらも悪魔の誘惑はすさまじく、ほんの少しだけ瞼から力を抜いてみる。
「弓家さん、弓家さん」
少し遠いところから、豆さんの声が聞こえて。
暗がりからふと外に出たような感覚を覚えれば、どうやら私は一瞬の間に眠っていたようだった。
「流石に危機管理能力無さすぎやしない?」
苦笑いをする豆さんに「でも、豆さんが何かしてくるとは思えませんもん」と意地を張って反論する。
「信頼されているようで何よりです」
「信頼してますよ。ダメですか?」
「ダメじゃない…ダメじゃないのよ、全然。なんだけどさぁ」
ぶつぶつ口の中で転がす言葉は私にはよく聞こえない。
「お茶、飲む?」
ローテーブルに視線を移せば、どうやら私が寝ている間に温かいお茶を淹れてくれたようだった。
「…恐れ入ります」
「なにそれ」
はは、と笑う豆さんは私の隣に腰掛ける。思った以上の距離の近さに頬が熱を持つ。こんな姿を見られたくなくて、豆さんとは反対方向に顔を向ける。
なのに。
「すまない」
後悔に満ちた、苦しげな声が聞こえてしまえば。どうしたって彼の方に顔を戻さざるを得ないんだから、狡い。
「豆さんが謝る理由がどこにあるんですか」
「…あるだろ」
あんな怖い思いさせて謝らない理由ある?
彼の目の中には苛立ちの色が紛れている。
「私としては、むしろ豆さんに余計な手間をかけさせてしまいました」
伊藤さんの行動にもっと早く気づいていれば、あんなことにはならなかったと。何度も反芻して反省しているけれど、時間を戻すことはできない。
「だから余計じゃないっつの」
あいつがそういうことしかねないなのはうっすら予想してたんだけどな。
「あの電話まで仕組まれてるとは流石に気づけなかったわ」
確かに伊藤の配下っちゃ配下だけど…今一緒に仕事してたからなぁ。
油断した、本当にごめん。
「大丈夫ですって…。でも、豆さんキーホルダーに仕掛けていたのは…」
「ああ、それも謝らせて」
もう普通に言い訳のオンパレードだけど、とローテーブルの上のお茶を手に取りぐいっと飲み干してから、彼は上体をこちらに向ける。
「元々、あの会食の日にアイツが何か仕掛けてくるかもしれないとは思ってて。弓家さんを一人にするつもりはなかったけど、用心するに越したことはないのでね」
「なるほど…」
「あいつもコンサルだから口は回るだろ」
口八丁の前には証拠突きつけるのが一番早い。
「…じゃあこれは貰い物だと言うのは…」
「ごめん、それは嘘」
眉を下げて、「ちょうどいいやつないかなと思って目についたやつ買った」と白状する豆さん。
「でも、似合ってたでしょ?結構」
弓家さんに似合うかどうかは結構精査しました。
「…それはありがとうございます」
「まあ、ほんとあくまでお守り的な気分でね。何もなければ起動もさせないし、週明け適当なこと言って弓家さんから中身を回収しようと思ってたんだけど」
豆さんも、これを使うとは思っていなかったらしい。会食が無事に済んで少しだけ気を緩めて。そこにさらに電話がかかってきたことで意識が仕事に一瞬飛んでしまったとか。
ただ話し始めてすぐ、伊藤さんと私がいないことに気づいて、豆さんは急いでアプリ経由で録音と追跡を始めた。
「もちろん何もなければ止める予定で、そうであって欲しかったけど」
気持ち悪いことしてごめんな、とまた謝る彼はどこまでも誠実だ。
「まあ、特に聞かれて恥ずかしい生活はしていないので、豆さんなら別に週末いっぱい聞かれても問題ないですよ」
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臣桜
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