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3
十一月の冷たい風が、
校舎の窓を静かに揺らしていた。
最近の 恵ちゃん は、
以前にも増して無理に明るく振る舞っているように見えた。
教室では笑っている。
桔梗ちゃんと話すときも、
いつも通りの元気な声を出している。
けれど、
ふとした瞬間に見せる表情には、
隠しきれない不安が滲んでいた。
放課後。
「ひな、ちょっとだけ付き合ってくれる?」
珍しく、
恵ちゃんの方から声をかけてきた。
学生寮の中庭にあるベンチへ向かった。
夕暮れの空は淡い紫色に染まり、
ひなの瞳とよく似た色をしていた。
しばらく沈黙が続いたあと、
恵ちゃんが小さく口を開く。
「私ね……昔、いろいろあったんだ」
その声は震えていた。
ひなは黙って耳を傾ける。
「誰かに利用されたり、傷つけられたり……」
詳しい言葉にはしなかった。
それでも、
その一言だけで十分だった。
「だから今でも、時々怖くなる」
恵ちゃんの瞳から、
ぽろりと涙がこぼれる。
「また全部壊れちゃうんじゃないかって」
ひなの胸がぎゅっと締め付けられた。
それは、
かつて人の視線が怖くなってしまった自分と、
どこか重なって見えたからだ。
「恵ちゃん」
ひなはそっと手を伸ばし、
その手を包み込む。
「一人で抱えなくていいよ」
恵ちゃんは唇を噛みしめ、
肩を震わせた。
「でも、迷惑かけたくなくて……」
「迷惑なんかじゃない」
ひなはまっすぐに言う。
「私も、たくさんの人に助けてもらった」
綾小路くん。
恵ちゃん。
桔梗ちゃん。
その優しさがあったから、
ここまで来ることができた。
「だから今度は、私が恵ちゃんのそばにいたい」
恵ちゃんの涙は止まらなかった。
だが、
その表情には少しだけ安堵の色が浮かんでいた。
「ひな……ありがとう」
「うん」
「本当に、ありがとう」
その夜。
寮のラウンジで、
ひなは 綾小路清隆 に今日のことを話した。
彼は静かに聞き終えると、
短く言った。
「よく話を聞いてやったな」
「少しでも力になれたかな」
「なれている」
その即答に、
ひなの胸が温かくなる。
「軽井沢は、お前を信頼している」
綾小路くんの言葉には、
確信があった。
「だからこそ、今日話したんだろう」
ひなは小さく頷く。
親友の痛みを知ったことで、
守りたい気持ちはさらに強くなっていた。
打ち明けられた痛み。
それは、
信頼の証でもあった。
誰かに弱さを見せることは、
簡単なことではない。
だからこそ、
ひなは決意する。
どんなことがあっても、
恵ちゃんのそばにいると。
そして、
静かに迫る嵐の中でも、
大切な親友を一人にしないと。
コメント
1件
うん……読んだよ。第49話、めちゃくちゃ心にきた……。 恵ちゃんがようやく、自分の痛みを打ち明けてくれた瞬間、すごく尊かった。無理に明るく振る舞う裏で、ずっと壊れるのを怖がってたんだね。「一人で抱えなくていいよ」って、ひなが手を包み込むシーン、私も胸がぎゅってなった。自分も誰かにそう言ってほしかったから、余計に響いた。 綾小路くんの「なれている」の即答も、信頼の重みが伝わってきてじーんとしたよ。親友の痛みを知って、もっと守りたくなる気持ち、すごくわかる。この物語、これからもっと大事なものになっていきそうで、ドキドキするね。更新、本当にありがとう。大事に読ませてもらうね。