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第五十九話 小さな写真展
「一枚の写真が、誰かの心をそっと動かすことがある。」
二月初旬。
校内作品展の準備が始まった。
写真部の部室には、作品が並べられ、
部員たちは展示の配置を考えている。
「神崎先輩、この位置どうですか?」
陽菜がパネルを持ちながら聞いた。
「いいと思う。」
「でも、この写真の隣なら、もっと物語がつながるかも。」
湊は二枚の写真を並べ替える。
展示を見る人が、
一歩ずつ歩きながら物語を感じられるように。
そんなことまで考えられるようになっていた。
*
湊が展示する作品は、一枚だけ。
タイトルは——
『雪の足跡』
雪の上に並んだ二人分の足跡。
人物は写っていない。
それでも、
その写真には確かに誰かの存在が感じられた。
先生は作品を見ながら静かに言う。
「神崎。」
「この写真、ずいぶん変わったね。」
「え?」
「昔は”きれいな景色”を撮っていた。」
「今は”見えない想い”を撮っている。」
その言葉に、湊は少し照れくさそうに笑った。
*
作品展初日。
昼休みになると、多くの生徒が展示を見に訪れた。
「この写真、不思議。」
「人が写ってないのに、なんか温かい。」
「足跡だけなのに、いろいろ想像しちゃう。」
そんな声が聞こえてくる。
湊は少し離れた場所から、その様子を見つめていた。
誰かに説明しなくても、写真が語ってくれる。
それが何より嬉しかった。
*
その時。
一人の女子生徒が
『雪の足跡』の前で立ち止まった。
しばらく写真を見つめたあと、小さくつぶやく。
「おじいちゃん、元気かな……。」
そう言って、静かに展示室を後にした。
その姿を見た湊は、
#異世界転移
花月夜れん
1,957
200
ユキ
85
47
公園で出会ったおばあさんを思い出した。
あの日の出会いがあったから、
この一枚が生まれた。
そして今、その写真が
また別の誰かの記憶につながっている。
胸がじんわりと温かくなった。
*
放課後。
作品展を見に来た先生が湊へ声をかけた。
「神崎。」
「君はもう、写真を撮るだけじゃない。」
「人の心を動かす写真を撮っている。」
「これからも、その一枚を大切にしなさい。」
湊は静かにうなずいた。
「はい。」
その返事には、
以前にはなかった自信が宿っていた。
*
夜。
紬へ作品展の写真を送る。
《展示、お疲れさま!》
《見に行けないのが悔しいな…。》
《でも、この写真だけでも十分伝わったよ。》
《神崎くんの写真、どんどん優しくなってる。》
その言葉を読んだ湊は、自然と笑顔になる。
誰かに評価されることも嬉しい。
でも、一番嬉しいのは。
大切な人に、
自分の変化を気づいてもらえることだった。
📷 Photo.059『雪の足跡』
撮影日:2月3日
足跡は、
歩いた人がいた証。
写真は、
想いがそこにあった証。
コメント
1件
読了したわ。『雪の足跡』、人が写ってないのに温かさが伝わってくる写真っていいな。先生の「見えない想いを撮っている」って言葉が刺さったし、おじいちゃん思い出したって子が出てきたところで、撮った人の想いがちゃんと誰かに届いてるんだなってじんわりした。紬ちゃんの「どんどん優しくなってる」も最高の一言。湊の成長が静かに沁みる話だったわ🔥