テラーノベル
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図書室からの決死の脱出劇から、丸三日。俺(テウル・エクス、15歳)は、エクス子爵家屋敷の自室に完全籠城(引きこもり)していた。
「開けるな! 誰も入るな! 俺は今、未知の風邪(※精神的崩壊)にかかっている!!」
重厚なドアには内側から無数の頑丈な鍵をかけ、シオン直伝の『物理・魔導遮断結界魔法陣』を二重に展開。さらに窓には暗幕を張り巡らせ、完全に外界との遮断を試みていた。
ベッドの上で膝を抱え、俺は前世の腐男子としての全記憶を何度も反芻しながら、虚空を見つめた。
(思い出したくない……思い出したくないが、認めざるを得ない……)
あの図書室での地獄絵図。
カゼル、シオン、レイ、魔王ベルゼ、そして裏設定のクールヤンデレ義兄デウス。
あの男たちの視線とクソデカ感情の矢印が、すべてこの俺(テウル)一人に向かって突き刺さっていたという逃れようのない現実。
(俺は……俺はただ、遠くの木の上から彼らのドロドロの総受けライフを4K画質で脳内録画して「尊い……」って拝みたかっただけの腐男子なんだよ!! なんで俺自身が『総受け(真のヒロイン)』のポジションに祭り上げられてんだよ!! 抱かれたくも監禁されたくもねえんだよッ!!)
あがきとして、引きこもるのが一番だ。
学園に行かなければイベントは起きない。誰とも目を合わせなければフラグは育たない。俺が「完全に消えた存在」になれば、あいつらも正気に戻って本来の総受け主人公(レイきゅん)の元へ向かうはずだ!
「ふふふ……勝った。この部屋は絶対安全圏(アナザー・ヘブン)だ……」
自室のベッドで弟のルーク特製のお菓子をかじりながら、俺は久々の平和を噛み締めていた。
――ガタッ。
その時、自室の「床」から嫌な音が響いた。
(……え?)
結界を張った頑丈なドアでも、暗幕で閉ざした窓でもない。
なんと、自室の絨毯(床)がメキメキと持ち上がり、隠し抜け穴が開いたのだ。
底から姿を現したのは、漆黒の髪を揺らした美青年――義兄のデウスだった。
「見つけたぞ、テウル。エクス家の秘密地下通路を使えば、お前の部屋など庭のようなものだ」
「(隠し通路なんて聞いてねええええええッ!!)」
デウスは冷ややかな瞳で部屋を見回すと、ベッドの上で呆然とする俺にゆっくりと歩み寄り、冷たい手で俺の腕を掴んだ。
「さあ行きましょう、テウル。お前を狙う虫どもから隠すため、私が用意した『絶対に誰も来られない地下監禁室』へ……」
「行きません!! 助けて父上ーーーッ!!」
俺が悲鳴をあげた、その瞬間。
ドガァァァン!!!!
自室の頑丈な壁が、外側からド派手に吹き飛んだ。
豪快な煙の中から現れたのは、大剣を担いだ赤髪の男――カゼルだ。
「テウル! 三日も学校休んでんじゃねえ! 稽古の時間だろ! ……って、誰だお前!? テウルから手を離しやがれ!!」
「騒がしいぞカゼル。テウルの部屋の結界を過剰魔力で過熱破砕したのは僕だ。手柄を横取りするな」
吹き飛んだ壁の亀裂から、黒術式を指先に展開させたシオンが静かに室内へと足を踏み入れ、デウスを殺気で睨みつける。
「あ、あの……! テウル様! お風邪でお辛いと聞いて、僕、お粥を作ってきたんです……っ!」
壊れた壁の隙間から、涙目になったレイ(主人公)がお鍋を抱えて必死に駆け込んできた。
「テウル様を……テウル様を誰も連れて行かせません! テウル様は僕の……僕の、命の恩人なんです!!」
さらに、部屋の天井の隙間からは、影のようにヴェイン(暗部保健医)が舞い降りてきて、
「おやおや、ボウヤの部屋が賑やかだねぇ。僕の助手を勝手に拉致されては困るんだが?」と怪しい薬のフラスコを弄び、
窓の暗幕を破って降り立った魔王ベルゼが、
「ククク……余の『人間観察の同伴者』をめぐり、ついに害虫どもが集結したか。見ものだな」と紫の魔力を全開にさせた。
自室(かつて安全圏だった場所)。
わずか六畳ほどの空間に集結した、カゼル、シオン、ヴェイン、レイ、デウス、魔王。
全員の狂気、執着、殺気、そしてクソデカ感情の圧で、部屋の家具がミシミシと悲鳴を上げ、空気が歪んでいく。
「テウル! 俺と来い!」(カゼル)
「僕の実験台……失礼、パートナーになりなさい」(シオン)
「僕の助手作業が残っているよ~」(ヴェイン)
「テウル様、僕と一緒に逃げてください!」(レイ)
「テウルは私のものだ」(デウス)
「余とともに世界の滅びを高みの見物するぞ」(ベルゼ)
全員の手が、一斉にベッドの上の俺(テウル)に向かって伸ばされる――!!
「ひぇっ…………」
俺は前世の腐男子としての全知全能の思考をフリーズさせ、白目を剥きながら叫んだ。
「頼むから誰でもいい!! 本来のゲーム通りにレイきゅん(主人公)を奪い合ってくれえええええええっ!!! 俺はただの背景の悪役令息(モブ)なんだよおおおッ!!!」
引きこもり作戦、わずか三分で失敗。
元・悪役令息テウル・エクスの「総受け回避&高みの見物ライフ」を取り戻すための絶望的な戦い(逃亡劇)は、まだまだ終わらないのであった。
自室に大集結した濃縮度100%の執着男たちと、涙目で必死に手を伸ばしてくる総受け主人公(レイ)。
そのあまりの狂気と重圧(プレッシャー)の暴風雨に、俺――テウル・エクス(前世・腐男子)の脳内で、何かがプツリと弾け飛んだ。
「……フ……フフフ……」
ピキィン、と部屋の温度が凍りつく。
全員の殺気とクソデカ感情の手が俺に届く寸前、俺はゆっくりとベッドから立ち上がり、前髪をすっとかき上げた。
「ハハハハハ! ワーッハッハッハッハ!!」
「「「「「「!?」」」」」」
豪快すぎるテウルの高笑いが、半壊した自室に轟き渡る。
カゼルが目を見開き、シオンが眼鏡の位置を直し、デウスが怪訝そうに眉をひそめ、レイがポカンと口を開けた。
俺は天井を仰ぎ、ビシッと全員に向かって人差し指を突きつけた!
「認めよう! 認めようじゃないか『掘られすぎて滅』の世界よ!! この俺……テウル・エクスが、巡り巡って貴様らの**【真の総受け】**という名の呪われしポジションに陥落してしまったという現実をなぁぁぁッ!!」
「テ、テウル……? 急に何を言い出して……」(カゼル)
「黙れ狂愛候補生ども! 勘違いするなよ!? 俺は認めはしたが、諦めたわけではない!! 媚びぬ! 諂(へつら)わぬ!! 省みぬ!! 俺は貴様らの監禁エンドにも! 執着ルートにも! 決して屈することなく……抗う!! 抗うぞぉぉぉッ!!!」
前世のオタク知識と中二病マインドが限界突破した俺は、胸の前で複雑な印を結び、覚悟の叫びを上げた。
「――出でよ、我が前世の執念とオタクの矜持! 空間を穿ち、観客席(木の上)へと我を誘え! 【超時空・絶対逃亡魔法(ステルス・ハイウェイ)】――展開ッッ!!」
ズババババババババッ!!!
俺が叫ぶと同時に、あらかじめ部屋の四隅に忍ばせておいた大量の「煙幕魔法石」と「閃光魔法陣」が一斉に暴走!
眩い光と超濃縮の紫煙が自室を包み込む!
「くっ……閃光魔法!? テウル、待て!」(シオン)
「ちくしょう、前が見えねえ! テウル!!」(カゼル)
「テウル様ぁぁぁ!!」(レイ)
「逃がすか、私の可愛い弟よ……!」(デウス)
「ククク……ハハハ! 逃走魔法の詠唱に中二病を混ぜるとは、やはり余の同伴者は最高に面白いな!」(魔王)
混乱と狂叫が渦巻く紫煙の真っ只中。
俺はあらかじめ屋敷の壁に設置しておいたワイヤー魔法具を射出し、崩れた壁の外へと一気に身体を踊らせた!
ヒュウゥゥゥゥッ!!
「さらばだ男たちよ! 俺は絶対に貴様らの愛憎劇に巻き込まれん! 遠くの屋根の上から、4K画質のオペラグラスで貴様らが正気に戻るその日まで……高みの見物を続けてやるからなーーーッ!!」
夜空に響き渡る、元・悪役令息の捨て台詞。
風を切りながら、俺はエクス家の屋根から屋根へと跳躍する。
「勝った! これで一旦は撒いた!!」そう確信した、その瞬間――。
シュバッ!!!
「「「「「逃がさない(逃がさねえ/逃がさないよ~/テウル様ぁ!)!!!」」」」」
紫煙の中から飛び出してきたのは、 大剣を構えて爆進してくるカゼル、 飛行魔法陣を展開して音もなく追ってくるシオン、 影を滑るように追いかけてくる暗部保健医のヴェイン、 涙目になりながらなぜか驚異的な身体能力で必死についてくるレイ、 そして空間を切り裂いて現れる義兄のデウス!!
さらに上空では、魔王ベルゼが「行け人間ども! テウル争奪戦の第二幕だ!」とノリノリで特等席から実況していた。
(嘘だろぉぉぉぉぉぉッ!? 逃走魔法の詠唱まで完璧に決めたのに、追尾性能が高すぎるだろあいつらーーーッ!!)
「テウル! 観念して俺の舎弟になれえええっ!」(カゼル)
「君の身柄は僕が研究室で永久保存する!」(シオン)
「テウル様! 僕が……僕が貴方をお守りしますからぁぁっ!」(レイ)
満月の夜空の下。
「受け」として覚醒(?)しつつも絶対に媚びないと誓った悪役令息テウルと、彼を追う過激すぎる男たちの、『掘られすぎて滅』史上最大の鬼ごっこ(愛憎劇)が、本格的に幕を開けたのであった!
(誰か……誰でもいいから俺をただのモブに戻してくれええええええええッ!!!)
#コメディ
藤塚 太陽
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コメント
1件
ああもう、やばいやばいやばい!!🤍💀 引きこもり作戦がまさかの3分で瓦解するとか最高すぎる…! 床からデウス登場とか反則でしょ、隠し通路ずるい! でも何よりテウルの「認めよう」からの中二病全開逃走がたまらなかった…。あの「超時空・絶対逃亡魔法」とか、腐男子の矜持と覚悟が溢れてて泣ける。それなのに全員が追尾性能高すぎて笑った。レイきゅんの身体能力おかしいし、魔王は観戦モードでノリノリだし…。 もう「ただのモブでいたい」って願いが切実すぎて、逆に尊い。続き、気になって仕方ないです…!