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ケンゾーのキスは許せないけど、気持ちに気付かせてくれた点は、よくやった!と褒めてやりたいw 電話、誰から何の件なんだろうね。
「わっ!ホントだ美人…!」
嶽丸をさらにスリムにして、甘くした感じの男の子、といった感じのこの人は多分…
「深影。一番下の弟」
嶽丸の紹介でペコリと頭を下げる。
「あのー…こんな嶽丸で、ホントにいいんですかぁ?」」
背格好はよく似てるけど、メガネをかけた知的な感じが、嶽丸とは違ったイケメンぶりを発揮してる。
「蔵馬。真ん中ね」
「ようこそようこそ!遠くなかった?…あ!健くんの従姉妹だもんねぇ…ここまで来るのは慣れてるかぁ…でもでも、疲れたんじゃない?さぁさぁ…こっちおいで?」
「親父うるさい…」
嶽丸をものすごく優しくしたらこんな感じ…といった男性がお父さんかぁ。
「ようこそ美亜さん。やたら大きくてうるさい男たちばかりだけど…来てくれて嬉しいわ」
最後に現れたのは、お祖母様だろう。
小さいのに、家族全員に一目置かれているのがわかる。
そして、年老いていても美貌の片鱗が見えるのは…さすが黒崎家、といったところか。
案内された部屋は、広い庭が見渡せる大きな窓からたっぷり陽射しが降り注ぐ明るいリビングダイニング。
夏の今は、その陽射しをすだれで隠して、全体に和モダンな雰囲気が素敵だった。
窓辺に寄ってみると、すだれのすき間から、季節の花と家庭菜園の野菜が見える。
「ナスとキュウリ…トマトもなってる…」
見上げて嶽丸に言うと、帰りにもらって帰ろうと言うので、持ってきたお土産を思い出して渡す。
「めっちゃ高級チョコの味…!」
「…チ〇ルチョコでいいのに!」
「わざわざありがとうございます」
深影くん、お父さん、蔵馬くんの順に感想とお礼を言われ、くすぐったい思いで一礼する。
「お茶淹れたわよ!さぁ…座って!」
リビングには大きなダイニングテーブルと3人掛けのソファが2つ、1人掛けソファとガラステーブルがあって、皆思い思いの椅子に座る。
私は嶽丸に促されて3人掛けのソファに2人で座った。
…なんというか。
嶽丸が嶽丸として成長した理由がわかる気がした。
ご両親もお祖母様も、もちろん弟たちも、まったく肩肘張らずにリラックスしている。
私が来たから無理にリビングにいる…ってわけではなくて、きっといつもの休日も、自然にこの場所に家族が集まるんだろうな…と思った。
時折沸き起こる微笑と爆笑。
テレビなんてつけなくても、皆が家族との会話を楽しんでいるのがわかる。
だから私も始めの緊張なんて嘘みたいに、自然に話に入る事が出来た。
私の家族もこんな風だったら…どれほど幸せだっただろう。
健のお母さんと今も親しいという嶽丸のお母さんは、私のことをどれだけ知っているのかな…って思う。
まさか…全部知っているはずはない。知っていたら、私がここに来ることはなかったかもしれないから。
「美亜ちゃん、健くんのところへの挨拶は明日にして、今日は泊まって行きなさいよ」
ごく自然に嶽丸のお母さんに言われて、思わず素直にうなずいてしまう。
…なんとなく、遠慮しなくていい雰囲気なのだ。
不思議に安らぐ黒崎家で、私はすっかりくつろいでいた。
夕飯は家族で外で食べることになり、帰りは嶽丸と、近所の日帰り温泉でお風呂を済ませ、後は寝るだけという状態で家に戻ると、嶽丸の携帯に着信が入った。
「あー…今かよ」
着信相手を見て、少しダルそうに言う嶽丸…誰からなんだろう。
「ちょ…母さん!美亜を俺の部屋に案内してやって!」
嶽丸はそう言って「もしもし、黒崎ですが…」とらしくない緊張した声で着信に対応した。
奥から出てきたお母さんに高校3年まで使っていたという嶽丸の部屋に案内してもらい、
ドアを開けたタイミングで、電話を終えた嶽丸が戻ってきた。
「なにこれ…広っ!」
ドアを開けて、目に飛び込んできたのは…ダブルベッドとデスク。
作り付けのクローゼットにソファとテーブル
全体的にモノトーンで統一された部屋はシンプルでカッコいい。
そして嶽丸仕様なのか、広い。
嶽丸は私を誘ってダブルベッドに横になる。
途端に醸し出すピンク色のムードに、私は急いでばってんマークを出した。
「…あの、今日はその…ダメだからね」
「なんで?」
「なんでって…当たり前じゃん!挨拶に来た実家でそんなことしたくないもん…」
「なんか今、これ以上ないほどみゃーが俺のものになって、愛しさがハンパじゃないんだけどなぁ」
言いながら伸びてくる手から、瞬間的に逃げてみる…。
「あ…!逃げるって書いて煽るって読むの、知ってるか?…」
「知りませんし逃げるは逃げるとしか読めませんっ!」
私を捕まえようとする手から、身を翻して逃げていたけど、そのうちパシっと腕をつかまれてしまう。
驚いて叫んでしまいそうになって、慌てて口元を押さえる。
その合間にも、捕まえた私の腰に、足まで絡ませてくる嶽丸。
そのまま組み敷かれる…という絶対絶命のピンチになった時、ふと頭をよぎった。
そう言えば私、嶽丸が出張に行っている間のケンゾーとのことを何も言ってない…
「ケンゾーにね…」
キスが深くなる直前、唇が離れたわずかな間にそう言うと、嶽丸はピタリと動きを止めた。
「ケンゾー…?今ここで出す名前?」
眉間にシワを寄せる嶽丸。
でも…嶽丸と付き合うことになったのに、ケンゾーとのことを何も言わないのは良くない気がした。
それに、色っぽい雰囲気を回避する意味もある。
「ケンゾーに、告白された」
「…は?いつの間に…」
「嶽丸の出張中。…マンションの下まで来て、ちょっと車に乗せられて…それで」
「…なんかされたな」
「別に、私に気持があったわけじゃない。不意打ちだったし、それに…」
「みゃーちゃん、前置き長いです」
「…キスされた。車の中だったし、突然で防げなくて…でもそのおかげでわかったんだよ?」
「…何が?」
唇をへの字に曲げて、鋭い視線で睨む不満そうな嶽丸。
「キスが、嶽丸と違うって…。ケンゾーのキスで、嶽丸にされたキスが消されちゃったみたいで嫌で、それで…電話したの」
「はぁ…?」
ベッドの縁に腰掛ける私とは違って仰向けに寝転んだ嶽丸が、起き上がって私の顔を覗き込んだ。
「やっぱ煽られた」
私の腰をギュッと抱き寄せ、何の効果もなかったことを知る…
「ケンゾーは無事に振られたってことか…!」
フフン…と笑う嶽丸の笑顔がいたずらっぽい。
こういうのを「ご満悦の表情」とか言うのかな…となんとなく考えていると、嶽丸の腕にしっかり捕まったことを知る…
それにしても…さっきの電話は誰だったんだろう。