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夜景の見える静かな窓際のテーブルで和香那がワイングラスを手に取った
「改めて雅弥さん、昇進おめでとう」
「和香那さん、ありがとう」
グラスを重ねると乾いた音がした。
「あんな大手商社なのに、29歳で課長代理なんて凄いのね」
「たまたまね。これまで二つだけ、企画が当たったから。運が良かったんだよ」
「もお、すぐ謙遜するんだから」
和香那はテーブルの下で、雅弥の靴の先に自分のパンプスの靴先で触れる。
「僕なんか大したことないよ。でも、君を幸せにするには仕事頑張らなきゃな……そう思ってるだけだ」
和香那は嬉しそうに雅弥から貰ったばかりの新しい名刺を手にとり
うっとりとそれを眺めた
【帝本―TEIHON―商社
生活機器事業部 商品企画課
課長代理 小塚雅弥 】
「私も、あなたを支える存在でいたいな」
「和香那さんは、僕にその笑顔を見せてくれたらそれだけで、活力になるよ。
その笑顔を曇らせないように、僕は仕事を頑張るだけだ」
そのやり取りを聞いていた隣の同世代カップルは、雅弥と和香那の二人をどちらも羨ましそうにチラチラと盗み見ていた。
「あんな風に包容力あるセリフ一つあなたも言ってよ」
「お前こそ、彼女みたいに可愛らしく反応しろよ」
そのカップルのやり取りは小声で交わされていたが、和香那たちの耳にも届いていて
雅弥と和香那は、
お互いに視線で(気まずいね)と言いたげに
小さく笑いあった。
―――
雅弥はその日翔音の元へ泊まりにきた
「昇進おめでとう」
和香那とは違って真面目な顔で翔音はそう言った。
「あぁ。俺たちの更なる成功へのキップだよな」
呆れたように笑う雅弥。
「雅弥にばかり負担を強いてるわね」
翔音は、雅弥の足元に膝をついて屈む。
「せめて、このぐらいはさせて?」
上目遣いで雅弥を見ると、雅弥の喉が大きく動いて唾を飲み込んだ。
「……翔音、いいんだよ、そんな、そんなことしなくて……も」
翔音の肩を抱いて立ち上がらせようとした
雅弥の力が抜けていく
ズボンの上から、そこに頬を擦り付け
翔音は熱い息を吐いた。
(翔音には、そんな奉仕なんかさせたくないのに……)
雅弥は、結局抗えないまま
翔音の愛撫に身を任せた。
部屋には、雅弥の呻き声が響いていた
―――
その後、ベッドで愛し合い
息を荒くしたまま、雅弥が言った
「俺はさ……自分がしてもらうより、翔音を悦ばせたいんだよね」
「ふふふ、私たち同じこと思ってるのね。食べ物の好みは逆なことが多くて譲り合えるのに、ここは譲り合えないわね」
「お互いに与え合えばいいんだよ。俺たちは完璧だよ。合うところも多いし、合わないところは噛み合わせられる。な?」
―――
お互いに苦しい期間だった。
――憎い女
愛してる女がそう思う相手に愛を見せ
愛してる男がそう思う女を抱いている
偽物なのに
復讐のための計画なのに
それでも二人は、
痛みと苦しみを抱えながら進んでいた。
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