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眼前のラスターは、構えた身体を前後に揺すっていた。眼光は鋭く、一分の隙も見当たらない
(知らない間に、嫌な間合いを取るようになりやがった。でかい態度は実力に裏打ちされてるってわけか)
警戒するシルバは、左側頭を目掛けて右足を振り上げた。上半身を引いて逃れたラスターは、即座に突進してくる。
読んでいたシルバはバランスを保ち、上げたままの膝を機敏に畳んだ。
鈍い音とともに、踵が右側頭にぶつかった。しかしラスターは頭を少し揺らしただけで、タックルを持続する。
シルバは目を見張った。とっさに足を下ろして、左膝を前に遣る。
膝がラスターの頭と衝突した。
完全に競り負けたシルバは、後ろに倒れた。マウント狙いのラスターと手や足でやり合い、なんとか横に転がって逃れる。
ごほっとシルバは咳き込んだ。若干、頭がふらつく感じもあった。
立ち上がったラスターは口角を上げ、嫌らしく笑った。
「当てが外れてびっくり仰天って面だな。あんなへなちょこキックでやられるほど柔じゃねえよ。俺はあの方の下で、ひたすら死ぬ思いで鍛えてたんだ。お前がいちゃいちゃ、ガキどもと遊んでる間になぁ」
首を回しながらのラスターの言葉は、脅すような調子だった。
(レスリング選手だけあって、首の強度が並外れてやがる。マウントを取られたら一発アウトだし、思わぬ難敵の登場か)
覚悟を固めたシルバは、身長ほどの歩幅で右足を前に出した。一回転し、ぐんっと左足をラスターの顔へと突き込む。
ラスターはまたしても、頭を後ろに遣って回避した。
すぐに姿勢を戻したシルバは、両手を斜め下に出した。ラスターの左膝をぐっと持ち全力で引っ張る。
ラスターは目に驚愕を浮かべたまま、地面に落ちていった。シルバは即座にラスターに飛び乗った。呻き声に構わず、折った膝を両横に置く。
シルバは躊躇なく、ガン、ガン。握り拳で、ラスターの顔面を殴打し始めた。ラスターは顔を歪めながら、ブリッジで逃れようとする。
だが、必死のシルバはどうにか押さえ込む。体重差の小ささも幸いしていた。
「……シルバ、てめえ。まさかのパウンドかよ。カポエィラ使いの誇りはどうした」
掠れた声が耳に届いた。シルバは殴打を止めずに、冷たく言葉を吐き出す。
「お前を転かした技はアハスタォンって名の、正真正銘、カポエィラの技術だ。まあ確かに、パウンドはカポエィラにはねえな。
だが俺は、ジュリアたちのためならどんな手だって使うんだよ。プライドでもなんでも捨ててな。よーく頭に叩き込んどけ」
言葉を切ったシルバは、連打を継続した。しばらくして、ラスターはがくりと首を折った。
演技を疑うシルバだったが、やがてラスターから身体を離した。