先ほどまで小降りだった雨が大降りになったため、ナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)とシズクとルルは部屋に戻った。
「もうー! どうして大降りになる少し前に部屋に戻ってこないのよ! はぁ? 雨の音を聞いてた? そんなの知らないわよ! 風邪でもひかれたら、困るのはこっちなんだから、しっかりしなさいよ!」
ミノリ(吸血鬼)は俺の母親ではないが、たまに俺の母親のようなことを言う。
あー、まあ、俺の本当の母親なら、俺が雨でずぶ濡れになって帰ってきたら、一緒にお風呂に入ろうとか言い出すから、どちらかと言うと姉だな。
まあ、俺に姉はいないんだけどな。
というか、俺は一人っ子だ。俺の記憶が正しければ。
「あー、はいはい、分かったよ。それより、タオルを持ってきてくれないか? 三人分」
「分かったわよ。ちょっと待ってて」
「おう、分かった」
雨は万物を溶かせる液体だが、気の遠くなるような時間をかけてゆっくり溶かしていくため、塩酸よりだいぶマシだ。
ミノリが持ってきたタオルでシズクとルルの頭を拭いてやると、二人はずっとニコニコ笑っていた。なぜだろう?
「さてと、それじゃあ、雨が止むまでのんびりしようかな」
俺が寝室に行こうとすると、ミノリ(吸血鬼)がそれを阻《はば》んだ。
「ナオト。とりあえず、お風呂に入ってきて。コハルとキミコが待ってるから」
「え? いや、いいよ。風呂なんか入らなくても風邪なんかひいたりしないよ。小さくなっても免疫力は大人なんだから」
「ダメよ。とにかくお風呂に入りなさい」
「嫌《いや》だ、と言ったら?」
「その時はあんたの全身の血を吸い尽くすわ」
「分かりました。それでは、お風呂に入ってきます」
「よろしい」
ミノリには敵《かな》わないな……。
まあ、別にいいけど。
*
コハル(ミサキの実の妹)とキミコ(狐の巫女《みこ》)は浴槽の前で正座をしていた。
頭を下げたまま、ピクリとも動かない。
コハルはいつも通り、スクール水着を着ている。
キミコもスクール水着を着ている。
いつも巫女|装束《しょうぞく》しか着ていないやつが別の服を着ている。
うん、悪くないな。
「えっと、その……そろそろ頭を上げてくれないか? 気まずいから」
「え? そうなのですか? お姉様はお兄様と一緒にお風呂に入るなら、これくらいしないといけないと仰《おっしゃ》っていましたよ?」
実の妹に変なこと教えるなよ。
「それは誤解だ。あと、キミコ」
「なあに? お兄ちゃん」
「お前はモンスターチルドレンなんだよな?」
「うん、そうだよ」
「だったら、普通の水は苦手なはずだよな? というか、弱点とかじゃなかったっけ?」
「えっとねー、これを着てる間は平気なんだよー」
「なんだと? 初耳なんだが」
「魔力制御機能を搭載している白いワンピースを作れるところで作れないものがあると思う?」
「まあ、たしかにそうだな。というか、それはいったい何でできてるんだ? 普通の水着じゃないだろ?」
「それは企業秘密だよ。それより、早くこっちに座って」
「え? あ、ああ、分かった」
その後、コハル(藍色の湖の主)とキミコ(狐の巫女)は俺の体を洗ってくれた。
いたずらは特にされなかった。
なぜだろう、少し期待していた自分がいる。
「二人とも、ありがとう。その……お礼に何かしたいんだけど、何がいい?」
「お兄様」
「なんだ?」
「えっと、その……体を洗ってもらえると嬉しいです」
「あっ、私もそれでいいよー!」
「おう、いいぞ。えっと、それで、どっちからやればいいんだ?」
「それはもちろん、私からです!」
「何言ってるの? 私が一番だよ」
あっ、これはまずい。
「二人とも、ケンカはしないでくれ。お願いだから」
「そうですよね。私たちが争う必要なんてありませんよね。だって、お兄様には手が二つありますもの」
ん?
「そうだね。手が二つもあれば、二人同時に洗えるよね?」
んんー?
「はぁ……分かったよ。やるよ。けど、さすがに髪は同時に洗えないぞ? 俺はそこまでテクニシャンじゃないんだから」
「大丈夫です。髪は自分で洗います」
「だから、お兄ちゃんはそれ以外のところをよーく洗ってね?」
「りょーかい。それじゃあ、始めるぞ」
「よろしくお願いします!」
「しまーす!」
いつまで旅が続くのか分からないけど、今は自分にできることをやろう。
というか、キミコが着ている水着って、この世に一着しかないレア装備……とかじゃないよな?
あー、嫌な予感しかしないな。
まあ、いいか。
今は深く考えないようにしよう。うん、そうしよう。
それから三人はまったり入浴していたそうだ。
一時間弱ほど。
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