テラーノベル

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

ランキング

コンテスト

出版・メディアミックス作品

春の封

一覧ページ

「春の封」のメインビジュアル

春の封

第1話 - 封印の鈴が鳴る時

1,460

2025年09月20日

#セカキク

#本田菊

#ヘタリア

かわいいほんださん@復活

シェアする

この作品はいかがでしたか？

1,460

かわいいほんださん@復活

プロフィール

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール

テラーノベルのスクリーンショット

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい！がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

ホーム

検索

通知

本棚

これまじで自己満だからね！練習的な

東の果て、霧深き山奥にひっそりと佇む神殿。

春が来るたび、誰も近寄らないこの地に、今年もまた季節がめぐってきた。

けれどこの神殿に咲く花々は、どの地よりも早く、そして美しく咲き乱れる。

まるで、主を慕うように。

その中心にある、封印の間。

鈴の音が、風もないのに微かに鳴った。

——チリン、チリン。

白い襖の向こうに、ひとりの青年が座っている。

黒髪、白装束。静かに目を閉じ、結界の中心で呼吸を整えているのは、

この地に生まれ、この地に囚われ、この地に“春の神”を封じる器とされた存在。

本田菊。

「……また、咲きましたね」

呟いた声は、誰にも届かない。

眼前の桜は、今年も例年よりも早く、見事に花をつけていた。

その理由を、彼だけが知っている。

彼の中に、春が眠っているからだ。

やがて、神殿に訪問者が現れる。

甲冑の軋む音。砂利を踏む重く正確な足取り。

“四季の騎士団”より派遣された西方の剣士、ルートヴィッヒ。

彼は、春の封印が不安定になっているという報を受け、

“器”である本田菊の様子を視察する任務を受けてきた。

「本田菊殿、初めまして。ルートヴィッヒです。以後、監視任務につかせていただきます」

きっちりとした敬礼。そして冷たい、正しい声。

任務を遂行するためだけの存在。その瞳には迷いも、感情もなかった。

「……ああ。貴方が、今年の“見張り”ですか」

菊はただ静かに、微笑む。

拒絶も、怒りも、喜びもないその態度に、ルートヴィッヒはわずかに違和感を抱いた。

「何か、ご不満でも？」

「いえ。どうせすぐに、貴方も離れるでしょう。皆さん、そうでしたから」

その言葉に、ルートヴィッヒの表情が一瞬だけ揺らぐ。

「……あなたは、孤独でいることを望んでいるのですか？」

「いえ、望んでなどいません。ただ……それが、皆にとって一番良い結末なのだと思っています」

そのとき、再び鈴の音が鳴った。

——チリン、チリン。

それはただの風鈴ではない。

菊の“感情”が動いたときにだけ鳴る、封印の鈴。

ほんのわずかに、彼の心が、揺れていた。

ルートヴィッヒはそれを見逃さなかった。

「……今、鈴が鳴った。なぜですか」

「……そうですね。貴方が少し、“違った”のでしょう」

「違った？」

「貴方の目に、私が“ただの器”としてではなく、人間として映った気がして」

ルートヴィッヒは答えなかった。

けれど、その無言が、彼の中のわずかな感情の揺れを物語っていた。

封印の神の器、本田菊。

そして、“正義と秩序”を背負う西の剣士、ルートヴィッヒ。

二人の邂逅が、世界に新たな春を招こうとしていた。

それが、希望になるのか――

それとも、再び世界を焼き尽くす業火となるのか。

そしてまた、鈴が鳴った。

——チリン、チリン。

それは、春の神が目覚めるまでの、カウントダウンの音だった。