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「大丈夫っすか、ライヘンさん」
「うぅん…」
怠そうにベッドに横になるライヘンさんの顔色はあまり良くない。
「急に暑くなりましたもんね。…あなたただでさえ寝食疎かにするんだから気をつけないと」
「すまないね…こんなことで呼んでしまって…」
「いえ。頼ってくれてめっちゃ嬉しいです」
ベッドの傍らに置いてある常温のスポーツドリンクは三分の一程しか減ってない。
「この私が夏バテだなんて…いい笑い者だよ…」
「しょうがないでしょ。なるもんはなるんすから」
袋からゼリーを出してライヘンさんに見せるも首を振られた。
欲しくないようだ。
「なんか食べとかねぇと病院に引き摺ってでも連れて行きますよ。点滴くらいしてもらっとかないと」
「…こんなことで病院には行きたくないね…」
「ライヘンさん夏バテを甘く見すぎっすよ」
「そんな怒ったように言わなくても…」
「怒ってますよ。あんた自分のこと蔑ろにしすぎ。いっつもっすよ、自分の為とか言いながら結局他人の為に頑張ってんの、知ってんだからな」
空調の丁度効いた室内。
寒くもなく暑くもないのにライヘンさんの肌は冷や汗をかいてるのか冷たい。
他人の為に頑張る姿も好きだ。
かっこいいと思う。
けど、自分が無茶をしてまでその人らの為に頑張らないで欲しい。
そんなことするくらいだったら僕の見えるところでして欲しい。
「あんたが他人思いなのは傍で見てたから知ってます。でも、自分のことなんてなんとでもなるみたいな感じでほっとかないでほしいっす」
「ネイトくん…」
セットされてないのか前髪が下りていてとても幼く見える。
「僕は、僕の好きな人が自分のことを蔑ろにすることが許せない」
じっと見下ろせば、バツが悪いのか申し訳なさげにしていた。
「、うん…ごめんね。心配かけてしまって」
眉を下げるライヘンさんの腕を掴む。
「助けてなんて言われて慌てて来たら、死にそうな顔して床に蹲ってるライヘンさんを見つけた時の僕の気持ち、分かんないだろ」
ホントに心臓が止まるかと思った。
あんな顔色悪くして蹲るライヘンさんが目に入った瞬間、血の気が引いた。
「……立ち眩みして、咄嗟に座り込んだけどそのあとどうしたら分からなくなって…。頭に浮かんだのがネイトくんだったんだ…迷惑だと思ったけど無意識にも勝手に指がキミに連絡をしてしまって……うん、格好悪いとこ見せてしまったようで本当に申し訳ないし恥ずかしいよ…」
「そんなこと思ってねぇすから。言ったでしょ頼ってくれて嬉しいって、僕のこと1番に思い浮かべてくれたことだってすげぇ嬉しかったですし。…とにかくライヘンさんはちゃんと水分とって、なんか食べて、ゆっくり休む。ここ最近根詰めすぎっす」
「発表会近いからねぇ…つい…」
「それで体調崩しちゃ本末転倒すよ」
「仰る通り、ご尤もだ…」
私に説教するのはネイトくんくらいだねと、でも嬉しいよと、僕を見上げながら言ってきた。
ふふ、と小さく笑うライヘンさんに内心ホッとした。
張り詰めたような罪を犯したみたいな顔してたから。
人に頼るってことが苦手なライヘンさんらしいけど、僕にはそういう弱いところをもっと見せて欲しいと思う。
そう言えば充分見せてるし助けられてると言われるけど。
欲を言えば全部曝け出して我慢なんかせずに僕にぶつけて欲しいと思ってる。
絶対にしてくれないんだろうけど。
「(でもこうやって弱った姿を見せるのが僕だけで、頭に1番に浮かんだのも、無意識に勝手に指が動いて僕に連絡してきたのも…そんだけライヘンさんの中で僕の存在が大きいってことなんだよな)」
その自覚がないだけで。
嬉しさもあり、自分の中の優越が満たされる。
少しだけ顔色が戻ったのを見て立ち上がろうとした。
「僕ちょっと……、…あの、ライヘンさん?」
背を向けて中腰になる僕のパーカーの裾が小さく、弱く後ろに引かれた。
振り返れば、しまったという顔をして僕のパーカーを掴むライヘンさんがいて。
その仕草と僕の顔を見比べ慌てて手を離してしまった。
「す、すまないっ!ネイトくんも忙しいのに…も、もう帰るのかね?きッ、気をつけて帰るんだよ。私も、し、しっかり水分とか摂って休むから…ッ!」
誤魔化すように早口になるのを見て溜息をついた。
「(こうやって我慢したり、我儘言わないとこはホンット治したいな)」
宙に浮くライヘンさんの手が布団の中に引っ込もうとしたのをそうはさせるかと掴む。
「えっ!!?」
「甘えてくださいよ。僕はライヘンさんのなんなんすか?」
「ぁ、っ…う、」
「友人?それだけじゃないでしょ」
掴んだ手をベッドに縫い付けて、ライヘンさんを覗き込むように上半身だけ覆い被さる。
「僕とあなたは、なんすか?」
「あ…ッ、そ、の……こ…、…っ、…こ、い、びと…、だ…」
「そうすよね?だから、あなたのしてるそれは全部僕に甘えてるだけの普通のことです。悪いことなんかじゃないっすから」
キスできそうな至近距離まで顔を近付けて囁けば、白い肌が赤みを帯びていくのがぼやける視界でも分かる。
夏バテからの微熱じゃない熱に、ふっと笑った。
「弱ってる恋人の為にあったかい野菜スープ作ってくるんで待っててください」
顔を離して、ライヘンさんの頭を撫でると白かった肌に更に赤みがさす。
「…料理、不得意じゃなかったかい…?」
「野菜スープくらい作れますよ。…いい子で待ってるんすよ、ライヘンさん」
前髪を上げて額にキスすればまた赤くなる肌。
血色が戻ってくれて喜ばしいことだ。
「こ、子供扱いしないでくれっ…」
「僕のこれは恋人扱いですよ。特別で大切なあなたにだけの」
「〜〜っ!」
「ほら僕が戻るまで寝ててもいいっすから。ね?」
薄手のタオルケットを頭まで被って隠れた可愛くて愛おしい恋人の頭をその上からもう一度撫でる。
「じゃあ作ってくるんで。……あ、そうだ」
着ていたパーカーを脱いで僅かに顔を覗かせるライヘンさんに渡す。
「⁇」
渡されたパーカーを見て疑問符を浮かべながら小首を傾げる恋人が可愛い。
「それ、僕が戻るまで預かっててください。汚しちゃいそうなんで」
Tシャツだけになった僕を見るライヘンさんは小さく頷いた。
「分かったよ。ネイトくんが戻るまで預かるとしよう」
ライヘンさんは使命感からか任せてくれたまえと、いつもの自信ありげな顔をした。
「………あと、それ、僕と思ってくれていいっすからね」
ドアを開けて首だけ振り返ってそう言った。
寂しがり屋のライヘンさん、と付け加える。
「?……っ!/////!!」
そう言えば、パーカーを渡された意図が分かったのかまた隠れてしまった。
ちゃんとパーカーもタオルケットの中に引っ込ませて。
────────────────
ライヘンさんが作ってくれるような大層なものは作れないけど、簡単な野菜スープくらいは僕にだって作れる。
音楽を作るように、あの人の繊細な指先が作ってくれるご飯はホントに美味しい。
食べてもらう側の為に、思いを込めてくれてるから尚のことで。
「ホント、他人のことばっかな人だもんな」
冷蔵庫の中身を拝借しながら、食べやすいように野菜を小さく切っていく。
薄めの味にしようと味付けはシンプルなものにする。
「(僕を呼んだことも、ホントに申し訳ないって思ってるのも本音なんだろうし)」
あの人のいろんな顔を見て、いろんな感情を知った。
全部を僕だけが独り占めしたいって思うけど実際そんな話は無理なわけで。
僕の独り善がりでライヘンさんの表情を曇らせたくはない。
でもきっと困った顔をしながら、ネイトくんも寂しがり屋だねって手を差し伸べてくれるんだろうなって思う。
誰1人見捨てたりなんかしない、することなんて頭に全くない人だ。
救える人はどんな人でも救おうとする慈悲深いと言うよりも、優しすぎるとんだお人好しって人だから。
甘えることは悪いこと、そう考えてるライヘンさんが唯一甘えてくれる。
頼ってくれる、ちょっとでも肩を寄り掛からせてくれる。
そんな存在に僕はなれて嬉しい。
こんな誰かの為に苦手な料理をしようなんて思うこと、ライヘンさん以外はあり得ないし、頼まれてもしない。
あの人にだからこそしてあげたいって思う。
そう、僕のことを変えてくれた唯一の人。
「あとは柔らかくなるまで煮込むだけ…」
具材を入れすぎて胃を悪くしちゃダメだから野菜も消化の良いキャベツとにんじんとじゃがいもだけにした。
蓋をし弱火にして、一度ライヘンさんの寝てる寝室に戻る。
静かにドアを開けて中を覗けば彼は微かな寝息をたてて寝ていた。
部屋を訪ねたときに比べればその表情は和らいでいる。
体を赤ちゃんのように丸めて、僕が渡したパーカーに顔を埋めるようにし抱き締めるようにして眠っていた。
「…可愛すぎかよ」
すやすや眠るライヘンさんに近付き顔を覗き込んだ。
安心しきった顔。
僕だけのライヘンさん。
「ん…ン…、ねい、とくん…、」
ぎゅっとパーカーを抱き締めて無防備でふにゃりとした笑みを浮かべる可愛い年上の恋人に、よくないものが湧いて頭を振って邪念を追い出す。
「(夏バテって言っても相手は病人だぞ。何考えてんだよ僕は)」
「ふ、ふ…す、き…」
「この…ッ」
前髪のせいで余計に幼く見えるライヘンさんは絶対に離さないとパーカーを抱き締めた。
「……元気になったら覚えててくださいよ」
流石に今はダメだと理性で留めてキッチンに戻る。
いい感じになった野菜スープの火を止めてお皿に入れてまた寝室に戻る。
ベッド横のチェストに置いてライヘンさんの肩をゆすった。
「ライヘンさんできましたよ。…寝てるとこ悪いっすけど起きれますか」
「っ、…ん、?んー…」
寝ぼけ眼でゆっくりと起き上がってきたライヘンさんの背中を支える。
「気持ち悪さとかどうすか?」
「ぅん、…だいぶ楽になったよ」
「先に水分飲みましょうか」
チェストに置いてあるスポーツ飲料を蓋を開けて手渡すとそれを受け取ってゆっくり飲み始めた。
体は喉の渇きを訴えていたようで、こくこくと動く喉の動きと口の端から溢れる水滴に追い出した邪念が戻ってこようとしていた。
「(ダメだっての)」
「…ライヘンさん、はい」
タオルを渡してあげると濡れた口元を拭いて、僕の方を向いて微笑んだ。
「なんだか、…」
「何すか?」
「…いや、こんな迷惑をかけてるのに、…こうやって世話をしてもらってるのが嬉しいというか…」
口元を拭いていたタオルでそのまま覆い隠しながらもごもごと喋る。
「?、何ですか?」
「…その、……ネイトくん、を独り占め、してるみたいだなと…」
「ッッ!!」
そうだ。
ライヘンさんって思ったことは言葉にしてくれるんだった。
僕も思ってたことを、この人も思っててくれた。
「不謹慎だけど、こうやって夏バテになってよかったって思ってしまってね…」
甘えを知らない。
甘えることをしなかったライヘンさんがこうやって僕には本音を言ってくれる。
素直に甘えてくれる。
「そんなの、僕だってあなたのこと独占してるみたいで嬉しいっすよ」
少しだけ冷めている野菜スープを掬う。
「…ライヘンさん、あーんしてください」
「へッ⁈、いやそれくらいは自分で…っ」
「僕がしてあげたいんすよ。あなたを甘やかしたいだけっすから。僕の自己満足と思って、ね?」
「ぅう…、…っ」
思案して小さく開けたライヘンさんの口にスプーンを入れる。
「味大丈夫す?」
こくりと、飲み込んだあとに目を細めながら僕を見た。
「うん、美味しいよ。…優しい味で、私好みの味付けだ」
「よかった」
あ、と口を開けるライヘンさんに小さく目を見開く。
「…甘やかしてくれるのだろう?」
顔色も良くなってきて、表情もいつものライヘンさんだ。
「……なんか、ラクしたいだけに見えるんすけど?」
「ん?おっと、バレてしまったか」
「まぁいいんすけど。はい、あー」
「ふふっ、お兄さんみたいだ」
「今度は兄弟っすか?ライヘンさんが弟だと手がかかりそうだなぁ」
「む。…ネイトくんがお兄さんだと私は甘えるばかりしそうだよ」
雛鳥と親鳥のようにしてスープを食べるライヘンさんはくすくすと笑う。
可愛い。
「甘えていいんすよ、……ライヘン」
「ふ、ぇあ…ッ⁈」
量の少なめなスープをあっという間に食べ終わった恋人を呼び捨てにする。
声のトーンも落として低く言えばライヘンさんは顔を真っ赤にして壁際の方へ後退った。
「ね、ネイトくん…?」
すぐに壁にぶつかったライヘンさんを追い詰めて腕で囲い込む。
「っっ、!」
「ねぇ、ライヘンなんで逃げんの?」
「ぁ…えッ、ちょ…」
「……可愛い、俺のライヘン」
ひゅっ、と息を呑んで目を固く閉じた可愛いライヘンさんのおりてる前髪を掻き上げた。
「僕にたくさん甘えて」
ラフな部屋着。
首筋に顔を寄せて吸い付けば微かに汗の味がする。
「ゃッ、待って、…!」
「待ちません。待つわけないっすよね?僕、散々待てされてたんすから」
薄くなった所有痕を見えやすくする為に強く吸って濃く色付けた。
「んっ!」
「ライヘンさん」
「ね、いとく…ッ」
潤む目は期待して揺れてる。
「(手ぇ出す気なかったのに、…ライヘンさんの前じゃやっぱ我慢できねーや」
「僕にどうして欲しいっす?」
動揺や困惑や、いろんな感情でゆらゆらする瞳が僕を見つめる。
「ぁ…ぅ、えっ、と……き、…キスを、してくれ…ないか、な…?」
パーカーを引っ張った時みたいに弱くきゅっとTシャツを握るライヘンさんに、壁についていた腕を離して両頬を包む。
「…だめ、かい?」
「んなわけねぇでしょ。嫌になるくらいして、甘やかしてやりますよ」
無防備に半開きになってる唇を塞げば、Tシャツを握っていた手に力が入って引っ張られた。
「ぅ、ン…ッ!」
「ん…、」
ギシ、とベッドの軋む音が聞こえる。
覆い被さるように、呼吸全てを奪うようにしてライヘンさんの唇を深く塞ぐ。
「ふ…っ、ん、ぅ…ッンン!」
苦しくなってきて無意識に逃げようとする身体を逃がさないように抱き込んだ。
「はッぁ、ン!、ふッン…んっ!」
開いた口の中に舌を入れればびくりと跳ねる薄い身体。
目を開けてライヘンさんを見れば、固く目を閉じて僕に身を委ねている。
「(あー…ホント可愛いすぎる)」
部屋着の中に手を差し込めば、薄い身体は大きくまた跳ねた。
「ふぁっ…!」
反射で大きく開いた口の中を舌で犯していく。
粘膜同士が触れ合う水音に恥ずかしくなってきたのか、いやいやし出すライヘンさんの尾骨を反対の手で強く押した。
「ひぁんっ⁈」
唇が離れて、ぷつりと切れた糸とさっきのスポーツ飲料のように口の端から垂れる混ざり合った唾液を舐めとる。
「ライヘンさんはどっこも気持ちいい場所っすもんね?…ここ押されて、想像しました?僕のでナカぐちゃぐちゃにされるの」
「ヒッ、!…ち、がっ…////♡」
「(分かりやす)…ライヘンさんの口から聞きたいな、僕にどうされたいか」
タオルケットを剥ぎ取ってベッド下に落とした。
最後の防御壁のようにしていた物を奪われたライヘンさんは壁に張り付くようにして身体を丸める。
「ライヘンさん」
「ぅ……っ、ぁ、…」
珍しくハーフパンツを穿いてるみたいで、細く長い脚が裾から伸びている。
その裾から手を入れて際どい場所を撫でれば顔を真っ赤にして首を振った。
「や、っ…め、」
「教えて欲しいっす。ライヘンさん」
病人相手にこんなことする僕のことをどう思ってるだろうか。
倫理も節操もないって思われるだろうか。
「〜〜!!…、さわ、って…ッ、ほしい…、ねいとく、ん…、に、いっ、ぱい…ふれ、てほし…っ」
抱きつくライヘンさんの消え入りそうな声。
「ぼ、く…を、ッ…あまや、かして…」
こんな姿、誰も見たことないだろう。
見せる気なんてないけど。
「……えぇ、うんと甘やかしてあげますよ」
仮にそう思われていたとしても、この人がそんなことでは僕から離れるわけがない。
なんてこと思いながら、調子の戻りつつある恋人をベッドへと押し倒した。
コメント
1件
あーもう、この2人の距離感尊すぎるわ…! ネイトくんの「甘えてくださいよ」からの流れ、ライヘンさんの照れ方が完全に恋愛漫画のそれで心臓に悪い。夏バテって設定をちゃんとケア描写に使ってて、弱った姿を見せる特別感がジワる。パーカー預かってもらう作戦、ずるいけど効くやつやん…。次も読むわ🔥