そのままハイパーレーンを航行して1日が経過した。避難民の皆さんも少しは落ち着いてくれたみたいだ。食事も栄養スティックと地球産の保存食を惜しみ無く提供した。大半はばっちゃんに引き渡してるし、プラネット号に残された分はフェルと食べようと考えて残してたものばかりだからね。
ちょっと前向きに考えれば、これは将来への投資だ。食べてくれてる皆にも大好評だし、このまま口コミなんかで広がれば利益も出せる。
交易するんだから、やっぱり売れないと悲しいよね。
『間もなく目的地へ到着します。ゲートアウトに備えてください』
「ん、分かった。フェル、連絡は?」
「既に送りました。相変わらず返信はありませんけど……」
「アードの存在がバレちゃうからね、仕方無いよ」
基本的に本星との連絡は一方通行になる。本星から電文が発信されることはない。傍受されて逆探知される危険があるからね。
ゲートを抜けて視界いっぱいに広がる星の海は、いつ見ても飽きることがない。今回訪れた氷の惑星だって時間があればゆっくりと調査してみたかった。
いつかフェルと一緒にいろんな星を見て回りたいな。もちろん、アリアも一緒にね。
「ドックへ付けて、皆さんにも下船の用意を。最初は代表者さんだけが降りた方がいいかな?」
『ザッカル局長にも連絡を行っていますし、手続きも必要になります。賢明な判断かと』
「ありがとう」
プラネット号を軌道上のドックへ入港させて、私はフェルと避難民のうち元気な大人を数人連れて軌道エレベーターに降りた。
軌道エレベーターにある大きなホールにはザッカル局長が居たけど、外にも真っ白なローブを身に付けた人が何人か居た。何だろう?
『あのローブは政府関係者が身に纏う特別製のものです。登録IDも照合できました。移民監理局のザイガス長官と役人達ですね』
移民監理局の長官?なんでこんなところに?
「移民監理局のザイガスである。君が宇宙開発局のティナで相違無いな?」
中心に居る見た目三十代半ばのダンディなおじさまが口を開いた。何だろう、好意的な感じがしない。隣に居るフェルも不安げだ。
……よし。
「はい、そうです。ラーナ星系の生存者を救出して連れ帰ることが出来ました!」
取り敢えず成果を前面に押し出してみる。助けられなかった命もたくさんあるけど、まずは助けた人達を安心させてあげたい。故郷だしね。
「そうか……全く余計なことをしてくれる。宇宙開発局は小娘一人御せないのか」
……は?
「結論から申し伝える。ラーナ星系生存者の本星入植は認められん」
「は!?何でですか!?」
ザイガス長官の言葉に、私達の後ろで待ってた避難民の代表さん達も困惑してる。受け入れない!?なんで!?
私の態度が気に入らないのか、ザイガス長官はため息混じりに口を開いた。
「我がアードは宇宙から姿を隠すことで悠久の安寧を手に入れたのだ。にも拘らず、君の行動は我が種族を危険にさらしているに過ぎない」
「お言葉ですが、ザイガス長官。ティナの活動は政府の公認の下に行われている」
ザッカル局長が反論してくれたけど、ザイガス長官は肩を竦めた。
「ザッカル局長の言い分はわかるが、それはあくまでも彼女一人に関してだ」
ザイガス長官は視線を……フェルに向けた!
「そこに居るフェラルーシアだったか、彼女の処遇に関してもリーフ側から抗議の嵐だ。全く、文句を言われる身にもなって欲しいものだな。彼女の存在は、アードとリーフ人との友好関係にも亀裂が入る。余計なことをしてくれたものだ」
ザイガス長官から言われてフェルが悲しげに俯いた。
……それを見て私の中のなにかが一気に沸き上がるのを感じた。それが怒りだと自覚はしてるけど、止まれない!フェルを悪く言うなんて、許せないっ!
大きく一歩を踏み出して、今まさに怒りのままに叫ぼうとした時。
{何をしているのですか}
頭の中に声が響いた。女の人の声?
すると回りの大人達が一斉に両膝をつき、両手を床について深々とひれ伏した。更に翼を床につけてる。
私とフェルは戸惑ったけど、ザッカル局長から同じ様にしろと目で促されたからそれにならって平伏した。更に翼を開いて床につける。最敬礼だっけ?敏感だからあんまり刺激を与えたくはないんだけどなぁ。
「はっ。臣は女王陛下の大御心を惑わさんとする者等に懲罰を与えてございます」
すると、ザイガス長官が言葉に答えた。女王陛下!?全員に語り掛けてるの!?どうやって!?
いや、それより心を惑わせるって何!?たくさんの犠牲を払って何とか落ち延びた人達に向かって言う言葉なの!?
平伏したままだけど、正直今すぐにザイガス長官へ飛び掛かりたいよ!
{懲罰とは?}
「はっ、畏れながら申し上げます。これ等の者らは我がアード民族悠久の平穏を妨げんとしております故、星外追放に処するべきと愚考致します」
「っ!」
「ティナっ…!」
かっとなって飛び掛かりそうになったけど、フェルが私の手を捕まえて止めてくれた。
……納得できない!こんな仕打ち、許されるはずがないっ!
{……愚かしいことは止めなさい}
すると、底冷えするような声が頭の中に響いた。ザイガス長官の顔が青ざめてるのが見えた。
「しっ……臣の対処はっ!不適切でありましたっ!」
ザイガス長官が頭を床に擦り付けるのが見えた。女王陛下は助けてくれたのかな……?
{かの者達に安らぎを授けることを……望みます}
「ははーっ!」
ザイガス長官が答えると、これまで感じていた大きな気配と言うか……暖かい感覚が消えた。
すると皆が立ち上がったので、私とフェルも立ち上がった。
「こほんっ……畏れ多くも女王陛下よりお言葉を賜った。至急浮き島と居住地を用意する。ザッカル局長、後はそちらに任せる」
ザイガス長官はそれだけ言うと付き人達を連れて足早に部屋を出ていった。
「はぁ……気持ちはわかるが、短慮は止めてくれよ、ティナ。女王陛下に救われたな」
「ごめんなさい……」
局長にはお見通しだったみたい。女王陛下のお言葉もあって、何とか避難民の皆さんを受け入れることが出来た……もう少し、頑張らないとね。あと、我慢も覚えないと。
心配そうにティナを見つめるフェルに笑顔を返しながら、ティナは自身の短慮を恥じて意外な人物の助け船に感謝するのだった。
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